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COLUMN&INTERVIEW

無茶々園インタビュー 環境の好循環とサステナブルな地域づくり

大地とともに心を耕せ!

株式会社 地域法人 無茶々園の代表取締役、大津清次さんの名刺には、そう記されている。そこにはさらに続けて、「無茶々園は環境破壊を伴わず、健康で安全な食べ物の生産を通して真のエコロジカルライフを求め、町づくりを目指す運動体です」とある。

愛媛県西予市(せいよし)明浜町(あけはまちょう)狩江地区にある無茶々園。1974年、お寺の園地を借りて伊予柑の無農薬栽培の実験園をつくったことが端緒となる。ユニークな名前は「無農薬栽培は無茶なことかもしれないけれども、無茶苦茶にがんばってやってみよう」との想いに由来する。

その“無茶”と思われた実験は、今では10億円超の農業産出額、そして1万人を超える産直の個人会員(※いずれも令和3年データ)という大きな成長に結実した。さらに生産だけでなく加工品の開発や福祉事業も展開し、サステナブルな地域づくりの役割をも担っている。

協同組合的運営で新しい産直モデルの再構築を目指す、無茶々園のさまざまな取り組み事例と未来にむけたビジョンについて、代表の大津さんに話を聞いた。

環境課題の解決とビジネスを両立させる、楽しい農業を目指して

・農業における農薬や化学肥料による環境問題の顕在化

戦前戦後の国内においては農地改革や食料供給を主な目的として、芋・麦・米、養蚕といった自給的農業が行われていた。1960年代に入ると農業基本法が制定され、米麦中心の生産から、畜産、野菜、果樹等需要が拡大する作物の経済栽培へと生産転換(選択的拡大)がはかられた。農地は、単作だと土が細ってしまい生産性が落ちる。そういった要素も絡み、生産性を高めるために農薬や化学肥料、除草剤が多用されるようになっていった。

1960~70年にかけては、そうした農薬・化学肥料・除草剤がどれほど生産者の健康を蝕み、地域の自然や生態系に悪影響を及ぼすかが告発され、深刻な環境問題として生活者をも巻き込んだ社会運動へと発展した。1962年に発表されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、世界が環境問題に取り組むきっかけを生んだ一冊としてあまりにも有名だ。日本においても有吉佐和子が1974年に『複合汚染』を発表し、農薬や化学肥料による環境汚染に警鐘を鳴らしている。

そうした時代背景、さらには食の安全を求める生活者の要請を受けて、先に紹介した無茶々園の理念は生まれたのだ。

・生産者と消費者は五分五分の関係という「協同組合的運営」

「それぞれの農家と苦労しながら、生産や消費者へ届ける楽しさを分かち合ってきました」と大津さんは当時をふりかえる。都市で展開する生協や個人生活者にむけた産地直送のビジネスモデルも軌道にのってくるのに伴い、地域で参加する農家も徐々に増えていったという。

(いまでは柑橘の生産だけでなく農産加工品も多く商品開発し、展開している)

生産者と生活者は、単なる商品を売り買いする関係ではなく、相互理解や互恵精神に基づく関係を築く。そして両者が話し合った上で計画的に生産を行い、生活者(消費者)もまた責任をもって生産物の全量を引き取る。これが、無茶々園が行う産直モデルのベースにある考えだ。

生産者は理念をもって有機農業を実践し、生活者は自然を大切にした生活を営む。

市場や小売りに従属しない農業を確立するために、無茶々園は機関紙やレターを媒体に栽培情報やメッセージを伝え、生活者と顔の見える関係性の構築に努めた。

一方、生産側では栽培管理を徹底。独自の選別基準、光センサーによる選果機の導入、トレーサビリティシステムの構築などにも注力した結果、産地と消費者が直接取引を行う産直システムというビジネスモデルを確立し、農業に対する新しい価値観を創造した。

地域まるごと商品化

・サステナブルコスメアワード2021を受賞したコスメブランド

(柑橘の果皮から抽出したエッセンシャルオイルや植物由来成分を原料としたコスメ商品)

畑で出来たものを余すことなく使いたい。柑橘のよさを活かしたい。この2つをコンセプトに商品開発したのが、コスメブランド yaetoco(ヤエトコ)だ。2007年から取り組まれていた、柑橘をジュースに加工する際に発生する搾汁カス(果皮)からエッセンシャルオイルを抽出する試みをベースに、「アトピーのある息子のためにスキンケア商品を作りたい」というスタッフの思いから2012年にコスメブランドとして立ち上げた。

化粧水と乳液からスタートし、2021年秋のリニューアルを機に「伊予柑しっとり石鹸」の製造・販売を開始した。伊予柑から抽出した精油と蒸留水に、 真珠貝のパウダーを配合。石油から精製された合成原料はいっさい使用していない。植物由来成分のため微生物によって分解されやすく、水に流したあとの環境負荷が少ないのも特徴だ。

この「伊予柑しっとり石鹸」が、MOTHER EARTH主催「サステナブルコスメアワード2021」にて、製品部門における最高賞(ゴールド)を受賞した。「長年、オーガニック農産に取り組んできた生産者が加工品に取り組んだからこそ生み出されたクオリティ。農福連携の実践、廃棄される果皮を活用するアップサイクルなど、統合的な社会課題解決に資するすばらしい製品」と、審査員の小原壮太郎氏は賛辞を寄せている。
https://sustainableaward.jp/cosme-archive/2021/gold2021/

ブランド名 yaetoco(ヤエトコ)は、明浜狩浜地区の秋祭りのかけ声「やー、えーとこー!(明浜は良いところ)」にちなんでいる。無茶々園の柑橘から新しい価値をつくり、多くの人々に明浜の魅力を伝えたい。そんな想いもこめられている。

・農業の未来を支える新規就農支援から生まれたオーガニック乾燥野菜

愛媛県西予市明浜町は、宇和海に面して小さな入り江が連なるリアス式海岸。起伏が多く平地が少ないため、急斜面を開墾して段々畑を築き、小さな集落で農業と漁業を中心とした営みを行ってきた。この急斜面を活かした段々畑は柑橘類の栽培に適した農地である一方で、高齢者にとっては過酷な環境となる。

(有機農業を行うため、この急斜面をすべて手作業で草を刈っていくなど大変な作業も多い)

農業後継者の減少を見据えて、無茶々園では1999年から若者を対象にした農業研修や新規就農支援に取り組んできた。2002年からは愛媛県内に野菜畑や柑橘園を取得。それ以来、新規就農者だけで経営する農業法人を作り、県内の数か所に園地を擁しながら、組織をまたがって農場運営を行ってきた。

『有限会社てんぽ印(てんぽじるし)』と名付けられたこの農業法人は、収穫した野菜をそのまま出荷するだけでなく、「かんそう野菜」として加工し、商品展開している。

有機栽培で作った野菜を乾燥させて常備菜に加工する取り組みだ。大根、人参、筍、トマト、ゴボウ、カボチャ、ニンニク、唐辛子、ミカンなどを育て、それらをスライスや細切りにし、乾燥させ、小分けにし袋詰めする。栽培から最終工程まであらゆるフェーズで手間がかかるが、「かんそう野菜」として加工すれば、手塩にかけて育てた野菜を余すところなく活かせる。長期保存や、食べたい分だけを使えるなど、購入する生活者にとってもメリットが多い。『オレンジページ』『レタスクラブ』などのメディアでも、ドライフード・インスタント食品といった切り口で紹介されている。

(有限会社てんぽ印の乾燥野菜は、土地の気候を活かして天日干しで乾燥させているという)

農業は天候などの環境に影響を受けやすく、思うような収穫ができないことも起こりうる。常備菜という農産加工品にすることで、不作だった年のリスクヘッジにもなるだろう。単に農作業に従事することだけが目標ではなく、事業として継続性をサポートすることによって、全国から集まってきた Iターン就農者による農業も持続可能になる。

・海の豊かさと陸の環境は分かちがたく結びついている

「森は、海の恋人なんですよ」と大津さんは、段々畑から見晴らす海を指して言う。

「地域の環境を良くするには、山や畑だけではなく目の前に広がる海も大事なんです。無茶々園が水産にも関わるのは、環境にいい循環のためです。」

宇和海にせり出した小島の一つは、魚の繁殖、保護を目的として海岸や湖岸に設けられた魚付保安林(うおつきほあんりん)だ。ここから岩盤のミネラル分が海に流れ出し、海の環境を豊かにするという。

(宇和海の魚付保安林を指し示して、森と海の関係について話す大津さん)

何もかもを海に流してはダメだと大津さんは指摘する。

「何を流せば海の生態系に悪影響を及ぼし、反対に何を流せば海が豊かになるのか。環境の仕組みを整えるための研究をもっとしなければならないと思っています。」

海藻類の環境貢献にも注目し、「海の緑化」を目指し、ワカメの種付け作業を環境教育の一環として狩江小学校の生徒と一緒に行った。ワカメは食用になるだけでなく、水質浄化や海の生物多様化にも効果的だという。

地元の漁業者と連携して、真珠や水産物の加工・販売とともに山と海の環境保全活動を行う。これも無茶々園の重要な活動だ。地域の農業者と漁業者が共存する組織、すなわち地域循環型一次産業モデルを築き、明浜の地で漁業を続けていきたいと願う人々を支えている。

サステナブルな地域づくり、農家組織から地域組織へ

・共に生きる、共に働く

さらに無茶々園の取り組みは、農業や水産などの第一次産業だけにとどまらない。

人口の50%以上が65歳以上の高齢者が占めると、共同生活を維持することが限界に近づく「限界集落」と呼ばれるが、これは明浜町にとっても深刻な課題である。

この課題に対し、無茶々園は「地域づくり」を担う自負をもって介護や福祉事業にも挑戦を続けている。

「介護事業をなぜ始めたかと言うと、高齢化が進んでくると当然、子どもが親の面倒をみるわけですけれども、それだとお金にならないわけです。でも高齢者が多いということはニーズはとてもあるんですよね。ということは、それを事業化できれば雇用が生まれ、地域にお金が還元されるんです。無茶々園はずっと地域づくり、町づくりを大事と考え、取り組んできました。本当の意味での地域づくりを目指すのではあれば、地域に暮らす人々の生活支援までを多角的に取り組む必要があると思いました。」

ワーカーズコープとの連携により、1995年からヘルパー講座を開催し、これまでに約150名のヘルパーを養成。2009年には農家の女性たちが配食サービス事業「てんぽ屋」を設立。2013年には、福祉事業への参入として株式会社百笑一輝(ひゃくしょういっき)を設立し、4か所の高齢者介護施設を開所した。

「農家が福祉という異業種に参入することは無茶苦茶かもしれません。でも元々、私たちは無茶なことに挑戦しつづけ、この地域と共にここまで成長してきたのです。これからは農業組織ではなく、地域の組織として何ができるのかを、もっとひろい視点でとらえて、今後の展望に活かしていきたい」と、大津さんは百笑一輝を設立した想いを語った。

・「必要とされるから頑張れる」地域のなかの居場所づくり

無茶々園が運営する高齢者介護施設では、産品の加工作業の一端を入居する高齢者たちが担っている。たとえば、コスメブランド yaetoko に用いる柑橘類の皮むきや商品の梱包、乾燥野菜を作る過程で発生する野菜の皮むきやヘタ取りなど。こうした仕事をまかせることで、高齢者ひとりひとりにやりがいや役割が生まれ、「私たちも出来る」という自信につながる。

(さまざまな加工品それぞれの製造プロセスで高齢者も大事な役割を担い、貢献している)

農業と福祉が融合した農福連携のなかで、地域に住む高齢者から若手の新規就農者、さらには海外からの農業実習生も含めて、多様な担い手を育成することも、サステナブルな地域づくりに欠かせない要素だ。

・「笑」をテーマに

2015年に廃校になった「かりえ小学校」を、無茶々園は「かりえ笑学校」として、ほぼそのままの形でオフィスとして活用している。職員室は本部事務所として機能する他、教室をさまざまな用途に利用している。

(職員たちが働くのは、かつて職員室だった場所だ)

その中のひとつ「笑(しょう)ルームと表札が掲げられた部屋には、子どもたちの工作品をアートとして展示されている。

(アートエキシビションルームと別名がつけられた部屋では子どもたちのユニークな作品が並ぶ)

「長年にわたる生活協同組合との関係性においても、ひとりよがりでは何もできないことを実感してきました。人と人とのつながりがあるから、笑顔になれるんです。そのためには元気でいること。安心して暮らせること。そして何より、楽しいからやる、やりたいからやる、そんな主体性が自立した地域づくりには欠かせないですね。」

大津さんは明るく笑った。

・令和3年度ふるさとづくり大賞

総務省が主催する「ふるさとづくり大賞」は、豊かで活力ある地域社会の構築を目的に、全国各地で「ふるさと」をより良くしようと頑張る団体や個人を表彰する。無茶々園は令和3年度の「ふるさとづくり大賞」団体表彰を受賞した。

(令和3年度ふるさとづくり大賞の盾がオフィスの入口に飾られている)

「柑橘を使った地域発のブランド開発、漁業者と連携した環境維持活動、福祉事業への参画、新規就農者の確保・育成の他、段々畑を活用した観光事業や廃校となった小学校の活用などを通じて、ふるさとづくりに積極的に取り組んでいる」と、これまでの地域活性化の取り組みが包括的に評価されてのことだ。

しかし大津さんは「まだまだ道半ば。よりより地域、よりよい組織を目指してこれからもがんばりたい」と未来を見据える。

多くの人の共感があってこそ、サステナブルになる

・無茶々園の未来ビジョン、新しい産直モデルの再構築

大津さん、そして無茶々園は、自らの事業ビジョンや地域の未来をどのように描いているのか。

「F(食料)E(エネルギー)C(福祉)W(雇用)の自給による、自立した地域づくりを目指していきたいです。都市部やアジア諸国との共生も重要なテーマです。IUターン希望者が生きがいと共に生活できる雇用や住環境を整備したり、海外技術者・実習生を積極的に受け入れたりして、ネットワークを強化していこうとしています。

これまでもそうしてきたように、共生圏をつくり、協力し合って関係性をつくっていくことで事業は成長していきます。日本の農業をよくしていき、社会や環境の課題も解決して、次の世代に引き継いでいく。21世紀型の社会変革、世直し運動だと言ってもいいかもしれません。」

(オフィスの入口で来客者を出迎えてくれる無茶々園の黒板)

・誰かがいて、自分がある

「世のため、地域や家族のため、そして自分のため。どれも大事です。主体は地域に暮らす一人一人のみなさんです。その人たちが、どう生きたいか。その主体的な想いをつなぐ役割を私たちのような団体や企業が協働して担い、win-winの関係をつくっていく。

そのためには、支援や応援を得ることも必要です。だから私たちも、自分たちの取り組みやこれからの事業構想を分かりやすく発信したりシェアしたりしながら、“これいいですね”と応援したくなるような働きかけを行っています。」

種をまけない農家に未来はない、と大津さんは明言する。

高齢化や農業後継者不足、温暖化など地域の課題は尽きることがなく、世界的にもあらゆる分野でサステナビリティへの意識や実践が求められている。環境省では「地域環境共生圏」、農林水産省では「みどりの食糧システム戦略」などの政策も打ち出されている。

実験園からスタートした無茶々園。この原点が、長い時を経てもなお、すべての活動のすみずみにまで行き届いている。自社の取り組みや事業そのものが持続可能であり、それによってその地域の活性化や自立が促進され、

その結果として持続的に、豊かに暮らしていける地域になっていく。

自給的・主体的な地域力の創造と再生、循環型の環境を目指すあらゆる企業や団体にとって、無茶々園は地域づくりやサステナブルな事業開発の好モデルとして、これからも大いなる示唆を与えていく存在にちがいない。

【参考サイト】
無茶々園
サステナブルコスメアワード 2021受賞コスメ
令和3年度ふるさとづくり大賞 受賞者の概要

【企画紹介】

ECCCAは愛媛県の地球温暖化防止活動推進センターとして、地域環境を入口としたサステナブルな想いと情報を地域に届けるWEBサイトの運用を行っています。株式会社YUIDEAは企業や団体のマーケティングコミュニケーションやサステナブル・ブランディング支援を行う一方で、オウンドメディアを運用しています。

相互のゆかりの地から繋がる「人・場所・産品・取り組み」などを取材し、環境や気候変動、サステナブルな観点からコンテンツとして紹介し合うことで、新たなつながりを生み、ひろげていく共創プロジェクトです。

この記事を書いた人

内藤 真未(ないとう・まみ)

広告代理店クリエイティブで経験を積んだ後、事業会社のハイファッションEコマース事業部のディレクターと編集に長く携わる。並行して、コーポレートサイト・EC・オウンドメディア等あらゆるWEBサイトの運営や広報に従事。2018年からはBtoC新規事業開発マネジャーを務めた。2021年にYUIDEA入社後はサステナブル・ブランディング事業推進責任者として、オウンドメディア『サステナブル・ブランド・ジャーニー』運営の他、プログラム開発やコミュニケーション設計の提案などを通じて企業・団体のサステナブル・ブランディング支援に取り組んでいる。 https://sb-journey.jp/

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