森も人も健やかになる日本のアロマテラピー
温泉に行ってヒノキ風呂に入ると、穏やかな檜の香りで心底リラックスします。
森へ出かけ、澄んだ空気を思いきり吸い込むと、リフレッシュできますね。
森林浴をすると、ストレスが減り、免疫機能が上がることが分かっています。森林浴は、実は日本発祥で、アメリカでは「Shinrin-yoku」や「Forest Bathing(フォレスト ベイジング)」と言われ、新しい健康・リラックス法として注目されています。
そうは言っても、なかなか森へ行く機会がない、そんな方には手軽に森林浴気分が味わえる、日本の森のアロマテラピーをおすすめします。
私は家族の健康管理に役立てるアロマテラピーの教室を松山市内で開いています。子育てを通してできる範囲で国産の食べ物を選んできた中で、段々と、アロマテラピーでも日本の香りを使いたいなと思うようになりました。ヒノキやスギ、クロモジなど日本の森のアロマテラピーに出会い、今はその香りや持続可能な生産方法に魅力を感じています。
森のアロマで森林浴
森林の香りは、木々が出している「フィトンチッド」という成分です。これは「フィト(植物)」と「チッド(毒)」からきた造語で、1930年頃にロシアの生物学者、ボリス・P・トーキンが名付けました。フィトンチッドには抗菌・殺菌などの作用があり、害虫や有害な菌から自らを守ったり、強い日差しや虫食いで傷ついても修復したりする力を持っています。
フィトンチッドのおかげで、木は100年、1000年以上も生きられるのです。
アロマテラピー(芳香療法)では、植物を蒸留し、香りだけをぐっと濃縮して取り出した「精油」を使います。木々が出すフィトンチッドも同じ精油成分です。
室内でティッシュやヒノキの木片などに精油をたらしたり、ディフューザーで室内を香らせたりするだけで森林浴をした時のように、気持ちがすっきりし、心身の疲労回復につながります。
アロマと地球環境
天然香料である精油が、香水の原料やアロマテラピーとして広まってきた中で、絶滅の心配が出てきた植物があります。お香の原料にもなるインドのサンダルウッド(白檀)や、フローラルな香りが香水の原料として愛されたアマゾンのローズウッドは、乱獲が進み絶滅危惧種になっています。
一方、日本の森のアロマはヒノキ、スギなどの多くが間伐材を利用するので、使うことがむしろ森の手入れにつながります。適切に手入れされた森がたっぷりと二酸化炭素を取りこむことで、地球温暖化の防止にも役立ちます。
中でも、茶道の楊枝にも使われるクロモジの香りはリナロールが主成分で、これはローズウッドと同じであることや、鎮静、抗菌作用もあり、新しい森の香りとして注目されています。
日本人に合う日本の香り
香りが受け入れられやすい、というのも日本の森のアロマのもう一つの魅力です。
私は森のアロマの使い方を伝える、日本産精油アドバイザーの資格講座を開講していますが、ラベンダーやゼラニウムといった外国産のアロマの香りは苦手でも、日本の森の香りは家族に好まれる、という声はよく聞きます。
また、4年前から各地のイベントで森のアロマの体験ワークショップを続けてきました。森の香りは年代を問わず人気があり、試しにくんくんと嗅いでいた子供が、しばらくしてお母さんの手を引っ張って戻ってきたこともあります。日本人が昔からなじみのある、身近な植物の香りは、年代も性別も関係なく「好き」「落ち着く」という感想が多いことに驚きました。
これからのアロマテラピー
今はパソコンが普及し、家にいても鮮明な映像と音で自然体験や旅行ができる時代になりました。しかし、そこに潮の香りや森の澄んだ空気などの「香り」はありません。嗅覚は脳の本能に直結する原始的な感覚です。五感のバランスが欠けた情報ばかり取り込んでいては、人の感性も鈍ってしまう気がします。
また、ただ私たち人間が心地いいからという理由だけでアロマテラピーを利用すると、地球の裏側の環境を傷つけることにもつながりかねません。日本は実は森林率(土地の面積に対する森林の割合)が世界第三位の、自然豊かな森の国。愛媛にも香り高い森のアロマを作る生産者がいらっしゃいます。
目の前にある精油がどんな思いや背景で作られたものか、使うことでどんな未来につながるのかを知ると、その香りをもっと楽しむことができるでしょう。森も人も共に健やかになる日本の森のアロマテラピーを、ぜひ体験してみてください。
ヒノキ・スギ精油 (株)フジワラコーポレーション
クロモジ精油 NPO法人くまーるの森びと
クロモジ精油 NPO法人西条自然学校
参考文献 稲本正『日本の森から生まれたアロマ』 世界文化社 2010年
参考サイト 国立研究開発法人森林総合研究所