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COLUMN&INTERVIEW

伊予の畑人たち~有機栽培農産物が必要な人々~

「有機栽培は安心安全なイメージ。だから少々高くても体のことを考えて有機栽培の農産物を買っています。」
そんな事をよく耳にします。
安心安全だから選ばれているという点では有機栽培、農薬を使用しないといった農法はその通りだと思います。

有機栽培はSDGsの達成にも結び付くと考えます。

例えば、目標3「すべての人に健康と福祉を」では、農薬を使わないことで人の健康だけでなく土壌やその周辺の環境も健康を守ることができますし、目標13「気候変動に具体的な対策を」では、農作物に影響を与える虫などに対して農薬ではなく生態系を活かすことで、自然循環機能を高め、気候変動による被害を抑えることにつながります。

このように、有機栽培されたものを選ぶメリットは様々あるのですが、今回は、有機栽培の農作物でなければ食べられない、体に悪影響が出る、といった深刻な環境下にある方たちとその支援をされている方をご紹介します。

化学物質過敏症と有機栽培農産物

「化学物質過敏症」という症状についてご存じでしょうか?少しずつ認知されてきていますがまだまだ理解が進んでいない症状です。

私の知り合いであるKさんは、奥様がある日、呼吸困難、脈拍異常、視界が閉ざされて見えなくなり、全身の震えから筋力脱力など様々な症状に見舞われました。それだけの症状に見舞われながら化学物質過敏症と診断されたのは発症から約半年後、大阪の専門医からでした。

発症原因は市販のカビ取り剤などに使われている塩素系界面活性剤でした。以降、化学物質に体が反応して、救急搬送される事もあり、奥様は美容室の仕事を辞めて療養に専念することになりました。

Kさんご夫妻は、もともとは、合成洗剤で洗濯したり、慣行栽培の農作物や一般のスーパーで販売されている製品を購入したりと、食品、日用品、化粧品等に気をつかうことがない暮らしをしていました。しかし、奥様の発症をきっかけに、家の中にある人工香料の臭いのする物、服や家具、布団や食器、日用品など処分せざるを得ませんでした。また、免疫を上げて解毒作用を高めるために無添加食品の摂取を始められました。

以降、美容室で化学物質の含まれた美容用品を使って施術をすることに疑問を感じるようになりました。そこで日用品、栄養機能食品、美容用品に至るまで100%無添加の物を揃えて、自身が化学物質過敏症を早期改善した実感と体験を多く伝えたい想いで無添加サロンAPPEL(アペル)をオープンしました。

Kさんご夫妻は現在、有機栽培で農業をされている自然食品の店『サングリーン』(愛媛県新居浜市)の店主を頼りに、サングリーン農園グループに入って有機栽培にいそしんでいます。

Kさんは「妻のような化学物質過敏症の方たちに、有機栽培農産物を食べてほしい、有機栽培が健康維持に良いことを証明したい。そのためにこれからも有機栽培を学び、楽しく実践していきます。」と力強く言われていました。

Kさんご夫妻は言います。

「完全無添加の生活から始める事は大変でしたが今はそれが当たり前になり、化学物質過敏症になった事に感謝しています。薬剤の体内蓄積により慣行栽培の農作物が食べられなくなり、有機栽培農産物を販売している数少ない店舗で購入するようになりました。微生物や土のエネルギー、太陽のエネルギーが体に良いこと、無添加、無農薬の食品、食材を基本に生活しているので自分達で有機栽培の野菜を作ってみたいと思い始めたんです。」

有機栽培を営むグループ「サングリーン農園」

Kさんご夫妻が頼りにされた『サングリーン』の店主である樋口さんは、店では自然食品が必要な方の為に自然食品を品揃えしていますが、日々口にする農作物についても同様に近郊の有機栽培農家の方に声をかけて有機栽培農産物だけを取り扱う産直市コーナーで取り扱っています。

有機栽培の農家は、家庭菜園や小規模農家が多く、サングリーンの様な店先のちょっとしたスペースでの販売で、種類をたくさん揃える事で必要な方が必要な量を買うことができます。

樋口さんは有機栽培をしてみたいが、どうやって作ればよいかわからない・・といったKさんご夫妻のような方に向けて自分の農園で一緒に試行錯誤しながらまずはグループで挑戦することを薦めています。

慣行栽培はJAや大規模農家の方など、レクチャーできる方が数多くいらっしゃいますが、有機栽培は収量と所得の関係から未だ広がっておらず手探りでいそしんでいらっしゃる方が多いのが実情です。

「悩みや試行錯誤などの想いを共有できる仲間とグループで栽培することで収穫できた喜びはひとしおです。有機栽培グループで、自然食品の話も深められ、仲間のみんなが健康に暮らしていけることが何よりです。」と樋口さんは言います。

ひらめきファームの有機栽培農産物

『サングリーン』の店先で、ひと際目立つ自然農法の野菜があります。農業を始めて1年目のひらめきファームで作られた野菜です。販促用のステッカーにもこだわっていて、ついつい手が伸びます。

ひらめきファームは新居浜市の「合同会社つくろ」が立ち上げた農業法人です。新居浜市上原地区が昔、平目木(ひらめき)という地域だった事に名前は由来しています。

代表の小西孝典、裕子さんご夫妻は、設計などの自営業の傍ら、月に1度の地域食堂オレンジキッチン(子ども食堂)や、制服リユースの活動など幅広い活動をされています。

有機栽培の農業に目を向け始めたのは新型コロナウィルス禍になってからでした。ステイホームで自宅にいることやマスクの着用機会が増えたことによる免疫力の低下を感じたことで、免疫力を上げるには食生活の改善として野菜の摂取、それもとびきり体にいい野菜をと思い、始めたのが自然農法でした。昔懐かしい味だったり、市販の野菜に比べてえぐみが少なかったり、評判もいいようです。

小西さんご夫妻は農家出身ではないため農業の知識はありませんでした。そのため、自然農法を勉強することから始められました。

雑草をすきこみ、米ぬかを撒くことで土をふかふかにします。そうすることで作物はしっかりと根を張りゆっくり育ち味わい深くなるような気がするそうです。

サングリーンさんの産直市以外にも新居浜市内外の産直市を中心に、個別注文も公式アカウントなどを活用して販路を広げられていたり、若手の就農者にも声をかけ農業の可能性を広げていこうとされていたりします。

小西さんご夫妻は「栽培品種は多品目。私たちが食べたい野菜や美味しかった野菜を作れば、きっと皆さんも食べたいはず。これからは農業で生計が成り立つことが一番の目標。」と笑顔で答えてくれました。

自然栽培のひらめきファーム以外にも、子ども食堂や制服リユース等、子どもの支援を行っている小西さんご夫妻だからこそ自然栽培の体にいい野菜と、子ども食堂等の活動が重なれば地域の子供たちの未来も明るい、希望が持てると感じました。

有機栽培の広がりが地球全体の健康と環境を守る

奥様の化学物質過敏症の発症から有機栽培を始めたKさん、自然食品が必要な方の為に有機栽培農産物に限った産直市コーナーを始めたサングリーンの樋口さん、子ども食堂や制服リユース活動をされている小西さんご夫妻が営む自然栽培のひらめきファームを取材して、有機栽培が必要な人や必要な人に届けようとする方の姿に有機栽培の可能性を感じました。

また、この可能性こそが有機栽培に関心を持つ人を増やし、その結果土壌を強くし持続可能な収穫を可能にしていくことで、おのずと地球全体の健康と環境を守ることにつながっていくのではないでしょうか?

【参考】
http://gaku-brand.com/appel_information.html
https://instagram.com/appel0519?igshid=YmMyMTA2M2Y=
(無添加サロンAPPEL :化学物質過敏症の方の相談等も受付出来る美容室 香りの強い方の来店不可)https://www.facebook.com/sungreen.higuchi/
(自然食品の店 サングリーン)
https://instagram.com/hirameki_farm_niihama?igshid=YmMyMTA2M2Y=
(ひらめきファームInstagram)

この記事を書いた人

秋山 直樹(あきやま・なおき)

新居浜子ども食堂ネットワーク(愛媛県新居浜市)事務局。 Hello New新居浜FMボランティアパーソナリティー、tokyo2020聖火ランナー。 コミュニティFMラジオでは障がい者の支援事業所を紹介し障がいのある方の理解促進に繋げる番組や地球温暖化、フードロスと子ども食堂、農業等、社会的な問題を一緒に考えるきっかけになる番組作りを目指し活動中。 Hello New新居浜FM  https://www.jcbasimul.com/radio/860/

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