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COLUMN&INTERVIEW

「わたしに優しい社会」が地球のHappyをつくる ~愛媛からも広がるフェムテック~

「フェムテック」という言葉をご存知ですか?

2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされたので、聞いたことはある、という方もいらっしゃると思いますが、まだまだ詳しくはご存じない方も多いかもしれません。

「フェムテック」とはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語で、月経や妊娠、不妊、更年期など、女性が抱える健康の課題や悩みを、技術で解決する商品やサービスのことです。具体的には月経周期の管理アプリやオンライン相談サービス、より快適に過ごせる下着の開発といったものがあります。

また「フェムケア」という言葉もあり、これはFeminine(女性の)とケア(Care)の造語です。月経用の布ナプキンのように、テクノロジーに偏り過ぎないものを指すこともありますが、どちらも「女性の身体や健康のケアをする商品やサービス」という意味では同じように使われています。

女性特有の悩みは、女性同士であってもなかなか相談しづらく、話すこともタブーといった空気が以前はありましたが、SNSなどが普及して気軽に情報を発信、キャッチできるようになり、フェムテックの高まりによって、徐々に知る機会が増えていると感じます。

高まるフェムテックのムーブメント

女性にとって、仕事や子育てなど、働き盛りで忙しい20代後半から40代は、同時に女性ホルモンの影響を受けやすく、不調や女性特有の病気にかかりやすくなる頃と重なります。

不調があると仕事のパフォーマンスも下がり、少なからず家庭においても影響が出てしまいます。これまで女性自身が仕方ないとあきらめがちだったこうした女性特有の健康課題について、企業や社会全体で理解を深め、サポートしようという動きは日本でも高まっています。フェムテックは何も女性だけに関係することではないのです。

「わたしがHappy、世界もHappy」を愛媛から

このフェムテックの考え方が広がり始める以前から、女性が自分らしく生きるためのサポートを続けている株式会社エルパティオ(松山市)代表取締役の川﨑暁子(かわさきあきこ)さんにお話を伺いました。

(株)エルパティオ 代表取締役 川﨑暁子氏

川﨑さんは15年以上前にベビーマッサージ教室をスタートした時から「ママがHappyなら赤ちゃんもHappy」を軸に、現在はママが自分を楽しめる居場所「えひめママハウス」の運営や、保育園事業、そしてフェムケア商品の企画開発から販売、セミナー運営など多岐にわたる活動をしています。すべてに一貫しているのは「まず女性が自分自身を大切にすることで地域も環境も含めて社会が良くなる」ということ。

「えひめママハウス」でのベビーマッサージレッスン

その活動の根底には、ご自身の体験があるといいます。息子さんを妊娠中に切迫流産で手術をしたことから、自分自身の身体に目をむけ、大切にする必要性を感じました。また産後、大切なわが子が泣いてどうにもならず、母親としても一人の人間としても自信をなくしそうになった時にベビーマッサージに出会い、救われた経験から「まずお母さんがHappyじゃないと、赤ちゃんも周りもHappyにはなれない!」と確信したそうです。

その後、女性にもっと身体を大切にしてもらいたいと布ナプキンの会社を立ち上げ、積極的に座談会を開いて生の声を聴いたことが、後のフェムケア事業につながります。

座談会で女性たちの声を直接聞く川﨑さん

『布ナプキンの座談会をしていた頃、自分の身体のことをよく知らずに過ごしている方が本当に多いことにびっくりしました。冷えや不調があっても我慢しているんです。参加された方からは、「これまで聞いたり話したりする場がなかった、これからはもっと自分のことを大事にしたい。」と言って頂き、伝え続ける必要性を感じました。』

現在川﨑さんは、すべての女性が自分の身体と心に向き合い、自分を愛することで自分らしく生きるために「愛でる(まなでる)」という意味の「manaderu(マナデルゥ)」というフェムケア事業を進められています。座談会を開いたり、オリジナルで開発した、女性のデリケートゾーンケア用のオイルを商品化し、販売されたりしています。

県内ではフェムテックの情報や製品とリアルに接する機会がなかなかないため、2022年には県内初のフェムテック&フェムケアショップを期間限定オープンし、実際に手に取りながら話せる場を作りました。現在も継続してお話会などを開き、より多くの女性たちに知ってもらう機会を作られています。

フェムテック&フェムケアショップの様子

『女性がもっとカラダのことを知れば、自分のことが愛しくなって、生命や周りのことを大事にできるようになります。すると自分軸で選択できるようになるので、何が子供にとっていいのか、地球にとっていいのかを選択できるようになると思います。だから女性が選べるようになることは地球もHappy。
例えば、フェムケアで布ナプキンのことを知って、みんなが変わると地球は変わる。使い捨ての紙ナプキンが減ると、CO2を減らせることにつながっていく、そういうことを、決して押しつけるわけではなく、知識として持っておくことは必要だと思います。知らないと選択のしようがないですから。そういった意味からもフェムケアを伝えていくことは大事だと思っています。
私がHappyなら世界もHappyそうなったら地球もHappy ですね。今後もフェムケアを明るく話せる場を作っていきます。』

男性も女性も「共に知る」ことが「みんなに優しい社会をつくる」

(株)エルパティオでは、企業に向けて「フェムテック経営はじめませんか?」という啓発活動も進めています。経営者も従業員である女性も男性も一緒に女性の健康課題について知ることで、理解や思いやりがうまれ、女性が働きやすくなり、生産性も上がるといいます。

導入された企業からは「これまでは、女性に体調を訪ねることはセクハラになるのでは、と思って聞けなかったが、一緒に話を聞いたことで聞きやすくなった」という感想があり、「社内の風通しが良くなり、いいコミュニケーションができるようになった」「今までつらそうにしている奥さんへどう接していいか分からなかったが、言葉かけが変わって関係も良くなった」といった変化が起きています。

企業で行われたセミナーの様子

『ただ女性のことを知ってください、と押しつけるのではなく、お互いに相手のことを理解し合いましょう、という視点で伝えています。企業にとっては第一優先課題ではないので、まだ導入数は多くはありません。ただ、女性も体調が悪いことを伝えやすくなったり、男性も共通課題として認識したりすることでお互いへの思いやりが進み、それが「みんなに優しい社会」になると信じています。』

本当にみんながみんなに優しい社会になるために

企業の中だけでは解決しにくいデリケートな課題も、こうして他者が介することで、変にねじれることなくお互いの理解が深まると聞いて、この取り組みが今後も広がったらいいなと感じました。

また、忙しい日常を過ごしながら、地球や環境のことを常に意識することはなかなか難しいけれど、「自分のココロとカラダを大切に」して、自分や周りの人をハッピーにすることなら意識できそうです。

2020年は日本での「フェムテック元年」と言われるくらい、フェムテックやフェムケアに関わる企業は増え続けていて、政府も女性が働きやすい社会を作ろうとフェムテックを推進しています。これは、女性にとっての選択肢がたくさんあり、選べるようになる社会へ向かっているということ。一方で、国ごとの男女の格差を数値化したジェンダーギャップ指数は、日本は先進国の中で最低レベルの世界146か国中116位。幸せの指標は人それぞれですが、この数値だけをみれば、まだまだ女性が生きやすい社会になっているとは言えません。

女性たちが、自分たちの身体やライフステージに起きる変化を一人で抱えなくてもいい、人生を犠牲にしないのが「当たり前」になるには、国による環境整備に期待と関心を寄せると同時に、女性たち自身が「自分のカラダを良く知ろう」とすることがとても大切。そして女性も男性も、お互いの心と身体の変化をもっと理解し思い合えたら、みんなが人生を楽しめる、みんなに優しい社会になります。足元からじわじわと広げて、地球のHappyにつなげていきたいですね。

【参考サイト】
働く女性の健康応援サイト「女性特有の健康課題」(厚生労働省)
働く女性の健康増進に関する調査2018
ジェンダー・ギャップ指数 2022年(内閣府男女共同参画局)
(株)エルパティオ

この記事を書いた人

児玉 三由(こだま・みゆき)

Act Kie(アクトキエ)代表。アロマ空間プロデューサー。講師。アロマセラピスト。 家族の健康管理に20年以上アロマテラピーを利用してきた経験をいかし、2015年に起業。間伐材を利用した日本産、特に愛媛産の森林のアロマの普及に力を入れている。愛媛産の森と柑橘精油を使ったフレグランスアロマ「Kie(キエ)」開発。香りを通して自然と繋がり、人も地球も健やかになる暮らし方を提案中。 (公社)日本アロマ環境協会資格認定スクール運営。 https://act-kie.com/ https://www.instagram.com/miyuki.actkie_aroma/

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