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COLUMN&INTERVIEW

SDGs連載【第6回】「住みつづけられる*まちづくり」を目指して/八幡浜 愛媛ダイビングセンターの取り組み

持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標「SDGs(エスディージーズ)」。
今回は、このSDGsに関する取り組みをご紹介する連載の【第6回】。2020年に環境省の「エコツーリズム大賞パートナーシップ賞」を受賞した、愛媛ダイビングセンターの代表である中岡惠司さんにお話をお聞きしてきました!

「海ゴミ回収は、住みつづけられる*まちづくり活動の一環!」と語る中岡さん。海ゴミ問題に取り組むきっかけ、山・川・里・海の魅力の維持保全、さらには官民学と連携した南予全域の地域活性化の取り組みについて、詳しくご紹介します。

プロフィール紹介

愛媛ダイビングセンター CEO
海洋ゴミ海岸漂着物等対策協議会 会長
中岡 惠司さん

ダイビング歴30年以上、潜水本数2万本以上のダイビングのプロ。
2007年に東京から愛媛県に移住し、八幡浜にダイビングショップを構える。
四国の海の素晴らしさを伝えるため、海中ガイド、体験ダイビング、ライセンス取得をサポート。
2008年より珊瑚の修復固着活動や海底清掃活動をスタートし、2018年には「海底ゴミ海岸漂着物等対策協議会」を発足。
2020年に、第15回エコツーリズム大賞パートナーシップ賞(環境省)を、2021年に第6回四国環境パートナーシップ表彰 地域課題解決部門(四国EPO)受賞、第15回三浦保環境賞 愛媛県知事賞。
◎参考リンク:第15回エコツーリズム大賞 パートナーシップ賞(環境省)
◎参考リンク:第6回四国環境パートナーシップ表彰(四国EPO)

【出典】可笑しなDivingドキュメンタリー(愛媛ダイビングセンター)/地域主体の “海底清掃” ボランティア活動

八幡浜の海底で1tのゴミを発見…海底ゴミに向き合う事を決意

–ダイビングショップを経営されている中岡さんが、海洋ゴミ問題に取り組まれるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

–中岡 惠司さん(以下、中岡):
愛媛ダイビングセンターでは、2008年より環境保全活動を実施してきました。さらに、2012年頃からは海開き前の海底清掃活動をスタート。その活動を続けていくうち、不法投棄された大量の海底ゴミがあるのではないか…と思われる場所を特定しました。環境調査のために潜ってみると、空き缶などの小さなゴミだけでなく、冷蔵庫、洗濯機、そして業務用のエアコンやトラクターのタイヤなど、とにかく巨大なゴミが積み重なり、”ゴミの山”ができていたんです。それを見て、これは決して漂流してきたものではなく、意図的に不法投棄されたゴミだ!と確信し、とてもショックを受けました。それと同時に、海底ゴミに徹底的に向き合う事を決めました。

その後、同じ志を持つ企業と協力し、そこで発見した海底ゴミを回収。その量、なんと1t!当日は、40名程のボランティアの方が参加してくださり、ゴミの仕分けや、食事の準備などを手伝ってくれました。それが、2019年の3月のことです。

–1tものゴミが…不法投棄というのは「山」ではよく聞きますが、「海」のイメージはありませんでした。

–中岡:そうですね。日本では、山などへの不法投棄はニュースになりますが、海中の”見えないゴミ”は話題になりにくい。今回ゴミを回収したエリアは、そもそも釣りで賑わっている場所でもあり、また柵が無くトラック等から直接ゴミが捨てやすかったんでしょう…たった1カ所潜っただけでこの惨状。あまり知られていない世界ですが、これが現状なんです…私は、海底ゴミは陸上の3倍以上はあると想定しています。

【出典】可笑しなDivingドキュメンタリー(愛媛ダイビングセンター)/八幡浜の海底不法投棄の悲惨過ぎる実情!

海だけでなく、山・川・里の魅力を守り、観光資源へ

–1tのゴミを回収された後、どのような事に取り組まれたのでしょう?

–中岡:海ゴミは、拾うだけではなくなりません。拾うと同時に「ゴミを捨てづらい環境づくり」が重要だと考えます。例えば、ダイバーが潜る、観光スポットにするなどのエコツーリズムやエシカルツーリズム的な観点が必要だと思いました。誰だって、人が多く訪れる場所や、美しい場所にゴミを捨てようとは思いませんよね。

その環境づくりのために、継続的に環境意識の高いダイバーを育てています。「一潜一塵(イッセンイチジン)」として、ダイバーには1回潜る毎に1つの海洋ゴミを回収するよう呼びかけています。そして、そのゴミを一時保管するための「海美箱(ウミバコ)」を海辺に設置。さらに、海美箱の中身を、月に1回自治体に回収していただく仕組みづくりも行いました。

この「海美箱」ですが、ダイバーの環境意識の醸成だけでなく、地域のPRにもなるんですね。南予の海に遊びに来た人がこの箱を見たら「ここは、地域を良くしようとまち全体で取り組んでいるんだな。この先が楽しみだな。」となり、観光のリピーターや移住にもつながります。

【出典】可笑しなDivingドキュメンタリー(愛媛ダイビングセンター)/“海美箱(ウミバコ)” と言う名の海洋ゴミ保管箱を愛媛県の南予の海辺に設置!

–ダイバーさんの環境意識を育てることが、ゴミを捨てづらい環境づくりに繋がると。

–中岡:ダイバーだけではありません。海を仕事場とする地元の漁師さんにも理解を促しています。生物の多様性から、宇和海の海藻が温帯種から熱帯種に変わってきていること、生態系の変化が起きていること、実際に「アジやひじきが獲れない」などの問題とも繋がっている事など…一つひとつ丁寧に説明します。そして、環境問題に興味を持ってもらい、私たちの活動に参加してもらえるよう動いています。

そうして、ダイバーや漁師さん、地域の方々に、きちんと背景を理解した上で今起きている問題に向き合ってもらう事で、オピニオンリーダーを育てたいと考えています。

–海に関わる人、皆で理解を深めることが重要なのですね。中岡さんは、海だけでなく山・川・里など幅広い活動に取り組まれているとお聞きしています。

–中岡:はい。私の海の環境保全活動については、これまでも様々なメディアに取り上げて頂いておりますが、これはあくまで南予全域の「住みつづけられる*まちづくり」の一環です。海の活動だけでなく、山・川・里の事業者の方々とも連携し、地域力を育む活動を行っています。

昨年「南予地域エコツーリズム推進協議会(準備会)」を発足させました。愛媛県南予地域には、豊かな自然環境と歴史、食(郷土料理)、文化、第一次産業(農業・林業・水産業)があります。この事業の目指すところは、地域に暮らす人々が、地域の魅力「山・川・里・海」を維持保全しながら磨きをかけ、さらに歴史を伝承。古きよき伝統文化を守りながらも、新たな文化も形づくる。そして、南予地域における知られざる「観光の魅力」を全国に発信し、豊かな自然と歴史を体験しながら学べる「体験型観光」を構築する。
そんな構想を描き、実現に向けた取り組みを進めています。

▶︎参考:南予地域エコツーリズム推進協議会Facebook

八幡浜の魅力を発信し「住みつづけられる*まちづくり」へ繋げる

–南予全域の街づくりにも取り組まれていらっしゃるとか。

–中岡:はい。近年力を入れているのが、この八幡浜から始まり、南予全域の「住みつづけられる*まちづくり」ですね。現在、八幡浜の人口は32,000人程度ですが、人口減少は年々加速しています。もっと八幡浜の魅力を引き出して、それを発信していかなければならない。それも、行政主導から脱却し、自分たちの力でやる必要があります。

しかし、そのためには「民間」の力の底上げが必要。私も「資源保護と地域振興」、またSNSでの魅力の配信方法やICTの活用方法など、経済研究会をはじめ様々な場所で講演し地道に啓蒙しているのですが、マンパワーと時間が足りません。

それで、現在は行政と共に「地元の学生が民間をサポートする仕組みづくり」をスピード感持って進めています。学生が、強みの発掘や魅力の配信方法のスキルを身につけ、それを民間企業に伝える。さらに、民間がそこで得た知識やノウハウを活かして自走できるような構想を描いています。

私のように個人であっても、情熱を持って取り組めば、官民学を連携させ、地域を動かすことは出来ます。大切なのは「活動の仕方」であり、この活動が次なる世代への覇気、励みへと繋がっていくことを望み、活動しています。

(西条市 ジオパーク・ガイドの会にて講演)

–民間企業それぞれが、魅力を発信するスキルを身につければ、八幡浜全体が活性化しそうですね!最後になりましたが、SDGsの達成目標の年2030年、その時に「こうなっていれば…」という構想はありますか?

–中岡:2030年ですか…やはり「住みつづけられる*まちづくり構想」が実現していることを望みますね。それを、自分の目で見たい!地域変革が実現して、さらには全国から注目されるまちづくりになっていればいいなあ、と。

具体的にいうと、オピニオンリーダーが育ち、環境意識の高い学生たちが、地元に残って活躍してくれている事を望みます。そして、自然環境の保護に積極的に取り組むまちづくりが進んでいて、地域の「自然」「文化・歴史」を活かした観光が行われている。それに伴って、交流人口や移住促進が実現し、人口も増えている。それを、一過性で終わりかねない行政主導の施策ではなく、行政にサポートを頂きながら民間が自ら取り組むまちの実現です。つまり、官民学との連携を図り「子供たちに夢をもたらすまちづくりの達成」ですね。

–なるほど、子ども達の未来を見据えた取り組みなんですね。

–中岡:はい。以前、小学生向けに海の現状を伝える機会があったんですが、「海がこんな状況になってしまったら、将来どうする?」と聞いてみました。すると「生活できるような海に行けばいいもん!」という答えが。とてもショックを受けた記憶があります…そしてその時「ふるさとがいちばん住みやすい、大切にしたい」と子供たちが思えるまちにしたい、と強く思いました。

地域の子供達の将来のことを考えたら、誰かが改革しないと子供達の未来はないと思っています。自然環境の変化も、人口減少も、待ってはくれません。今後も、スピード感を持って取り組みを進めていきます。

(小学生向けの講演の様子)

取材後記

取材で愛媛ダイビングセンターの事務所に入る時、おもむろに非接触体温計を手にした中岡さんは、ご自身のおでこにだけそれを当て、平熱表示を見せてくれました。自分自身が熱を測るものだと思い込んでいた私は拍子抜け。なぜ来訪者ではなくご自分だけ熱を測ったのかお聞きしてみると「まず三神さんを信用しているし、三神さんから見たら、たくさんのお客様を相手にしている、僕が一番心配でしょう!笑」と笑っていらっしゃいました。常に、相手の立場で考える、そういうお人柄が伝わってきた出来事でした。そこが、環境、地域の未来など、「人」のことを想った行動につながるのだろうと感じました。

実は今回、「貴社にとってSDGsとは?」という質問を想定していました。でも、今回の中岡さんの取材では一度たりとも「SDGs」という言葉が出てこなかった。SDGsの目標の解決を目指しているのではなく、目指しているところがSDGsの目標とたまたま一致した、ということなんですね。海の課題、地域の課題の解決にまっすぐに取り組み、それを一つずつ実現させていく。今後の中岡さんの活動、そして八幡浜、南予全域の未来がすごく楽しみです!

 

この記事を書いた人

三神 早耶(みかみ・さや)

愛媛県松山市在住。大学卒業後、広告代理店の営業や進行管理などを経て、2016年からフリーライターに。ビジネスメディアや、地元経済誌、企業のWebサイト等において、取材や記事の執筆をしています。私生活では2児の母。趣味はキャンプと仕事。

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