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CARBON NEUTRAL

【第1回】「脱炭素につながる働き方」テレワーク・地方移住・ワーケーションをどう実現するのか/サイボウズ株式会社

2022年10月、環境省は新たに「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を始動させました。これは、2050年のカーボンニュートラル、そして2030年度の温室効果ガス削減目標達成に向けて、国民の行動変容やライフスタイルの変革を後押しするためにスタートしたもの。この実現に向けた個別アクション「第一弾」として、「デジタルワーク」「住まい」「ファッション」が提案されました。

今回は「デジタルワーク」をテーマに、コロナ禍以前よりテレワークを率先して導入してきたサイボウズ株式会社(松山オフィス)カスタマー本部ローカルブランディング部 部長の久保正明さんに、お話をお聞きしました。同社のテレワークの具体的な状況、テレワークがうまくいく企業・そうでない企業の特徴、そしてカーボンニュートラルに向けた最新の取り組みまで、詳しくご紹介します。

会社紹介

サイボウズ株式会社
1997年愛媛県松山市で創業したIT企業。主に「kintone(キントーン)」「サイボウズOffice」などのクラウドサービスの開発、販売、運用を担う。現在は国内外に複数のオフィスを構え、従業員数は969名(2021年12月末時点/連結)。「100人いれば100通りの働き方」という考えのもと、2005年頃から働き方改革に乗り出す。社長の青野慶久氏は、内閣府などで働き方改革プロジェクトのアドバイザーなども務めた。

「働く場所は関係ない」オフィスに縛られない働き方が、当たり前に

–最初に、貴社について教えてください。

久保正明さん(以下、久保): サイボウズ株式会社は、「サイボウズOffice」「Garoon」などのグループウェアや、プログラミングの知識が無くても短時間でビジネスアプリを作成できる「kintone」などのサービスを開発・販売・運用している企業です。また、近年では企業の制度・風土改革を支援するための「チームワーク総研」を立ち上げ、自社で実践した取り組みに基づいた組織づくりのためのメソッドを提供しています。

カスタマー本部ローカルブランディング部 部長 久保正明さん

–「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の具体的な内容に「デジタルも駆使して、多様で快適な働き方・暮らし方を後押し(テレワーク、地方移住、ワーケーションなど)」とあります。  貴社では、コロナ禍以前から「テレワーク」に取り組まれていらっしゃったそうですね。

久保:はい。当社では10年以上前からテレワークの導入に取り組んでおり、在宅で仕事をする人は多かったですね。今で言うと、松山オフィスには100名ほどが所属していますが、出社して仕事をしているのは半分以下です。中でも開発メンバーは総勢50名ほどいますが、今日出社しているのは5名くらいです。

私が所属する部署には、今年度7名の新入社員が入社したのですが、そのうち数人は沖縄や兵庫など、サイボウズがオフィスを構えていない土地で仕事をしています。もう「働く場所は関係ない」という感じですね。

「新しい豊かな暮らし」に向けた個別アクション。テレワークの推進により、通勤に伴う「移動」が減少し、一人あたり840.3kgのCO2削減が期待される

【出典】脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動/環境省
【出典】脱炭素につながる新しい豊かな暮らしの10年後(関連資料)/環境省

久保:「IT業界」なので、そもそもリモートで働くという風土はありました。基本的に「紙」の資料は使わず、会議にはPCを持って参加。議事録もその場で作成し、グループウェアですぐに情報共有します。そうなると「場所」って、関係無くなるんですよね。

「営業職」の場合は、主に社外の方々と「対面で会うことが重要」と言われる事も多くあります。でも、サイボウズの営業はパートナーと呼ばれる販売店向けに、ある程度決まったサービスについて営業支援しています。なので、社外の方とのやりとりも問題無くリモートで出来ています。

また、近年ではNPO法人などに向けたサービスも展開しているのですが、松山に居ながら北海道や東京など、全国の方々の対応をしています。「実は、私たち愛媛の松山から参加しているんです」と話すと「え、四国ですか!?」と驚きが生まれ、一気に心の距離も縮まったりして(笑)

ただ、試験的に「リアル」を取り入れる取り組みもスタートしています。これは、実際に集合して合宿などを実施する場合に、会社が補助するというもの。チームビルディングの一環ですね。

テレワークが軌道に乗らない原因は「コミュニケーション」にあり 事前の準備と風土づくりを

–「テレワークを導入したい」という考えはあるものの、一歩踏み出せない企業も多いと思います。これまでさまざまな企業のIT支援に携わられた久保さんですが、成功した企業にはどのような特徴があったのでしょうか?

久保:やっぱりIT化がうまくいった企業には「組織で課題を共有できる」風土があった気がします。それぞれが自分の意見を言えて、共有しあえる環境が重要だと思いましたね。

当社でも「情報をオープンにすること」は非常に大切にしていて。例えば役員会議の内容もその日のうちに議事録が公開されます。だから、会社として大事な決め事が、どのような経緯で決裁されたのかということが社員にも分かる。意見があれば、それも登録できる仕組みになっています。

そうすることで、社内での情報格差・権力格差が無くなり、組織間の壁を無くすことにも繋がります。自然と、社員の主体性も上がってくるんですよね。

–なるほど。ただ、テレワークに挑戦したものの、うまくいかなかった…という事例もよく耳にします。

久保:そうですね…。コロナ禍で「とりあえず、やらなきゃ!」と半ば勢いで始めてしまった場合、うまくいかず「やっぱり出社に切り替えた」というケースも少なくありません。そういった企業さんがおっしゃるのは「雑談ができなかった」ということ。コミュニケーションに課題を感じる方が多かったようです。

やはり、クラウド上で情報共有できる体制を整えるとか、Zoomをはじめとするツールの整備など、対面でなくともコミュニケーションがスムーズにとれる環境を準備しておく必要があったのだろうと思います。

–テレワークにおける「コミュニケーションの課題」、本当によく聞きます。貴社では、そういった課題はありませんでしたか?

久保:やはり当社はグループウェアの会社ですので、もともとオンライン上でのやりとりが非常に多かったというベースがあります。現在、出社している人の数は5分の1程度になっていますが、逆にグループウェアのコメント数は5倍くらいになっています。つまり「コミュニケーションの場所」がリアルからクラウドにシフトした、というイメージですね。

例えば、業務上で気がついたことがあれば掲示板を立ち上げて、それに対してみんなが意見を書き込むとか。仕事のことだけでなく、「今日、昼休みに○○を食べたらすごく美味しかった!」というような、雑談だったりとか…。とにかく、コミュニケーションは活発です。

–情報の見える化、環境の整備、そして風土づくりが大切なんですね。多くの企業でテレワークが順調に回れば、脱炭素にも繋がりますよね。

久保:はい。やっぱり「脱炭素のために、取り組みを進めましょう」というのは、なかなか難しいと思っていて…。まず、働く人たちにメリットがあることが大切。自分たちが楽しく、働きやすい状態を目指していたら、実は「これ、脱炭素につながるよね」という形が理想なのかなと思います。

「カーボンニュートラルについてできることを考える」PJもスタート サイボウズらしいアプローチを目指す

–今回の国民運動では「デジタルも駆使して、多様で快適な働き方・暮らし方を後押し(テレワーク、地方移住、ワーケーションなど)」とされています。地方移住やワーケーションについても少しお聞きしたいのですが、貴社では既にそのような事例もあるのでしょうか?

久保:はい。最近「地方移住」する人が何人か出てきています。もともと東京オフィスに勤務していたけれど、佐賀県の実家に戻ったとか、明石に移住したとかですね。

「ワーケーション」については、私自身、モニターという形で何ヵ所か行かせていただきました。環境が変わるので集中して仕事ができるし、楽しくてリフレッシュもできる。「ワーケーション」自体はすごく良いと思いますが、これを一般のサラリーマンがやろうとするとハードルが高い…。

業務としてそこに行く必要は無いのに「ワーケーションのために、旅費と宿泊費用を会社が負担」というのは、このご時世なかなか難しい。だから推進するのであれば、国からの補助が必要不可欠かなあ…とは思います。

古民家ゲストハウス「内子晴れ」でワーケーションを体験する久保さん

久保:あと、地方移住やワーケーションを推進するのであれば、経営者の意識や覚悟という面も大事だと思っています。働く場所を選ばない状況を実現するには、最低限「ペーパーレス」が必要。「会社に資料があるから、仕事できない」という状態ではできません。また、さまざまな制度を整えることも必要ですし、みんながそれを許容できるという社内風土も大切でしょう。

先ほどテレワークのお話でもありましたが、やはり事前の準備や制度・風土づくりが重要だと思います。

–ありがとうございます。最後に、今後のビジョンについて教えてください。

久保:2022年2月に「カーボンニュートラルについてできることを考える」という目的で、社内で10名ほどのメンバーが集まって活動を始めました。当社も上場企業ですし、脱炭素に向けた何かしらのアクションを起こす必要があると思っています。単純にカーボンクレジットを購入するなど、すぐにできる取り組みもあるとは思いますが、そうではなく「サイボウズらしいアプローチ」ができないかと模索しているところです。

例えば、現在ある企業で「自社がどのくらいのCO2を排出しているのか」を算定するソフトウェアが開発されています。IT化もそうですが、何かを進める際には、まず現状を把握する必要がありますよね。そういった情報を共有する部分でのサポートなど、「当社だからできること」を検討し、進めていきたいと思っています。

編集後記

「脱炭素」と「デジタルワーク」。最初は、頭の中で結びつかない二つの言葉でしたが、通勤による「移動」が減ることにより大きなCO2削減効果がある事を知りました。また、場所を選ばない働き方に必要な「ペーパーレス」を実現できれば、二酸化炭素を吸収してくれる森林を守ることができ、紙の廃棄によるCO2の排出も防ぐことができるそう。テレワークなどの実施によって多様な働き方が可能となり、働く人たちが幸せになる。結果的に「脱炭素」にも繋がる。今回、国が積極的に運動を開始したことで、理想のサイクルが回り始める日も近いかも知れない…と感じました。

三神 早耶(みかみ・さや)

愛媛県松山市在住。大学卒業後、広告代理店の営業や進行管理などを経て、2016年からフリーライターに。ビジネスメディアや、地元経済誌、企業のWebサイト等において、取材や記事の執筆をしています。私生活では2児の母。趣味はキャンプと仕事。

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