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CARBON NEUTRAL

【第3回〜後編〜】「環境を守ること」を押し付けるのではなく、参加者が気づき行動できるイベントに/せとうちTシャツアート展

2022年10月に環境省が始動させた「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」。2050年のカーボンニュートラル、そして2030年度の温室効果ガス削減目標達成に向けて、国民の行動変容やライフスタイルの変革を後押しするためにスタートしたもので、実現に向けた個別アクション「第一弾」として、「デジタルワーク」「住まい」「ファッション」が提案されました。

この連載の最後に取り上げるのは「ファッション」。愛媛大学竹下准教授に続き【後編】として、せとうちTシャツアート展 代表である重藤仁志さん、そして勢井智裕さんにお話をお聞きしました。環境負荷の大きな産業である「ファッション」を扱うイベントを運営するお二人が、「脱炭素」についてどのように考えられているのか。そして、エシカルファッションにも繋がる今後のビジョンまで、詳しくご紹介します。

▶︎第3回〜前編(愛媛大学竹下准教授)〜の記事はこちら

イベント紹介

せとうちTシャツアート展
「せとうちTシャツアート展」は真っ白なTシャツに応募された作品をプリントし、会場に展示するイベント。終了後、展示されたTシャツは応募者に届けられる。開催当日には来場者から投票を受け付け、優秀作品も決定。2022年は、ふたみシーサイド公園「道の駅ふたみ」「梅津寺海岸」「城山公園」の3箇所で開催された。

取材が「脱炭素」を考えるきっかけに オーガニックコットンも導入していきたい

−最初に、このイベントについて詳しく教えてください。

重藤仁志さん(以下、重藤):この「Tシャツアート展」は、今年で8回目を迎えるイベントです。もともとは「双海町」を盛り上げようという目的で、当時の地域おこし協力隊の方と一緒に「ふたみTシャツアートフェスティバル」という名前でスタートしたもの。コロナ禍で2回開催を断念したものの、2022年に「せとうちTシャツアート展」として再開しました。

2022年度の作品募集チラシ

−毎年、どのくらいの方が参加されるのでしょうか?

重藤:応募数としては、毎年200件ほどです。応募いただくのは、写真を撮ったり絵を描いたりするのが好きな方が多い印象ですね。来場者数はカウントしていないのですが、当日、素敵だと思うTシャツに「投票」する仕組みがあります。その投票数は、トータル2,000件くらいありましたね。本当にたくさんの方に来場いただいています。

−今回、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の個別アクション第一弾として「ファッション」が選ばれています。イベント開催にあたって、「脱炭素」などを意識されることはありますか?

勢井智裕さん(以下、勢井):正直、そこまで大きなことは考えていなかったんです。逆に、今回の取材のお話をいただいてから、重藤さんと一緒に考える機会ができ、そこを目指していくことも一つの案だなと思うようになりました。

重藤:というのも、「せとうちTシャツアート展」のイベント協力についていただいていて、高知県・黒潮町で長年「Tシャツアート展」などを開催されているNPO砂浜美術館の考え方に「今、地球にとって大切なことを伝えていく作品を作り、砂浜美術館から世界中に発信していく」というものがあって。最近では、Tシャツの原材料となるオーガニックコットンを、一般の皆さんに栽培してもらう取り組みもスタートされています。僕自身も、同館の考え方をリスペクトしているんです。

せとうちTシャツアート展 代表 重藤仁志さん(右)、勢井智裕さん(左)
取材は勢井さんの経営する「えひめキッチン(大街道)」で行われた

−オーガニックコットンは、一般的なTシャツよりも使用水量が圧倒的に少なく、肥料や農薬も殆ど使われないことから、農機などからのCO2排出量も少ないと言われていますね。

重藤:そうなんですよね。だから、せとうちTシャツアート展でも、現在は一般的なTシャツにプリントしていますが、オーガニックコットンで作られたTシャツと選べるようにすることも考えています。ただ、調べてみるとなかなかコスト面が高くなってしまうようで…。まだ準備は整っていませんが、導入を検討している段階です。

勢井:また、直近では会場での古着のTシャツ回収も考えています。まだ着られるものはその場で販売したり、着られないものはリサイクルしたり…。一枚のTシャツを長く着ることも、エシカルファッションに繋がりますよね。

「楽しむ」ことが最優先 「環境」についての気づきや行動は、自然に生まれるもの

−展示されたお写真を拝見していると、素敵なデザインのものが多いですね!販売はされないのですか?

勢井:まさに「販売しないのですか?」というご意見は、毎年いただいています。だから、そういった展開も今後は考えています。Tシャツを展示する時、応募者の方々のコメントも表示しているんです。それを読むと、それぞれの皆さんの想いが伝わってくる…。そうすると、そのTシャツを購入した方は「大切に着よう」と思いますよね。

重藤:デザインした方の想いも、付加価値になります。そして、検討している「オーガニックコットン」も、同じく付加価値になる。価値が高まれば、ユーザーは「大切にしよう」「長く着よう」と思えますよね。そうしてエシカルファッションに繋がるといいな…と考えています。

勢井:あと、「脱炭素」に限らず「環境」という広い視野にはなりますが、僕たちのイベントは海岸で開催することが多くあります。だから、海洋ゴミについて考えたり、ビーチクリーンなどの活動に興味を持つきっかけになればいいな…とも考えていて。実際に過去のイベントでも、展示を観に来たついでにビーチクリーンして帰って下さる方がいらっしゃいました。

他にも、現在Tシャツを展示している柱には「竹」を使っているんですが、それを放置竹林の竹に切り替え、少しでも竹害を減らすとか…アイデアは、沢山ありますね。

−お話を聞いていると、すごく可能性を秘めたイベントなのだなと感じました。

重藤:僕たちのイベントは、とにかく「楽しむ」という事を大切にしています。環境のことについても、決して参加する人に押し付けることはしたくなくて。だから、今後も積極的に「環境」について発信はしないと思います。ただ、僕たちが環境を意識しながらイベント運営することで、応募してくださった方々、来場してくださった方々の中に、気づいて「自分もやってみたい」と思う方が出てきたらいいな…とは考えています。そういう自然な形をとれるところも、「せとうちTシャツアート展」の良いところですね。

編集後記

インタビューの中で、ECCCA WEB MAGAZINE編集の山中さんが、

「Tシャツアート展」というイベントを、環境を意識した形で運営することによって、来場者の方が気づき「ちょっと行動して帰ろうかな」「次から、こんな事に気をつけてみようかな」と思えたり、応募者の方が「せっかくデザインしたものだから、長く大切に着よう」と思えたり…。そういう意識や行動が、自然と生まれるイベントって素敵ですね。

と、おっしゃっていたのが印象的でした。大々的に啓発するのではなく、「気づき」が生まれる場を作る。イベントを楽しみながら、環境について考える。そうやって、人々の日常に少しずつ地球環境を考えるきっかけが増えていくといいな…と感じました。

三神 早耶(みかみ・さや)

愛媛県松山市在住。大学卒業後、広告代理店の営業や進行管理などを経て、2016年からフリーライターに。ビジネスメディアや、地元経済誌、企業のWebサイト等において、取材や記事の執筆をしています。私生活では2児の母。趣味はキャンプと仕事。

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