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【第3回〜前編〜】ファッションは世界第2位の環境汚染産業 大き過ぎる課題に対して、私たちができることとは/愛媛大学教育学部 竹下浩子准教授

2022年10月に環境省が始動させた「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」。2050年のカーボンニュートラル、そして2030年度の温室効果ガス削減目標達成に向けて、国民の行動変容やライフスタイルの変革を後押しするためにスタートしたもので、実現に向けた個別アクション「第一弾」として、「デジタルワーク」「住まい」「ファッション」が提案されました。

この連載の最後に取り上げるのは「ファッション」。愛媛大学教育学部准教授で、消費者教育などを専門とされている竹下浩子准教授に、ファッションがもたらす環境汚染、日本における大量生産・大量消費・大量廃棄の現実、そしてこの大きな課題を解決するために、企業や私たちができることについてお聞きしました。

【後編】として、ファッションを扱うイベント「せとうちTシャツアート展」を運営する重藤仁志さん、そして勢井智裕さんに、脱炭素や環境に対する考え方、今後のビジョンなどについてお話を聞きました。

▶︎第3回〜後編(せとうちTシャツアート展)〜の記事はこちら

プロフィール紹介

愛媛大学教育学部 家政教育講座 竹下浩子准教授
家庭科教育や消費者教育が専門。研究テーマは、食品ロスやファッション、プラスチックなど身近な生活から持続可能な社会について考えること。COP3をきっかけに環境に興味を持ち、6年間ドイツで環境教育やESD(持続可能な開発のための教育)について学ぶ。2013年より現職。

「ファッション」は世界第2位の環境汚染産業 日本で新品のまま捨てられる服は33億着

−最初に、先生が専門とされている「消費者教育」について教えてください。

竹下浩子さん(以下、竹下):まず、「消費者教育」には「消費者市民社会を構築しましょう」という前提があります。「消費者市民社会」というのは「消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会(消費者教育推進法)」と定義されています。

ちょっと難しい言い回しですが、要は自分たちの消費生活をより豊かに、より良い方向に向かわせるために、一人ひとりが意識しましょう、というもの。

例えば買い物に関して言うと「フェアトレードの物を買いましょう!」など「行動としてこれが正しいですよ」と促すのではなく、たまにフェアトレードの物を「選ぶ」ような意識を持たせることが大切。「環境に悪いものよりは、良いもの」を、自分で選ぶという意識ですね。それらを育てるための教育が、消費者教育です。

1枚のジーンズの売上の中で、それぞれの項目が占める割合を示したもの

−今回「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の個別アクション第一弾として「ファッション」が提案されています。そもそも、なぜ「ファッション」が選ばれたのでしょうか?

竹下:あまり知られていませんが、「ファッション」は「石油」に次いで第2位の環境汚染産業なんです。まず、綿花などの天然繊維を栽培する時にかかる水の消費量や農薬などによる土壌汚染が挙げられます。水の使用量を服1着に換算すると、なんと浴槽11杯分(約2,300ℓ)にもなるそう。また、世界中で使われている農薬の4分の1は綿花の生産に使われているという調査結果もあります。そして、ポリエステルなどの合成繊維を作る際の石油資源の使用や製造過程でのCO2排出などの環境負荷もあります。

【出典】SUSTAINABLE FASHION/環境省

竹下:ファッションの課題はこれだけではありません。私が注目しているのは、これらの服が「大量生産・大量消費・大量廃棄」されていること。例えば、日本で1年間に「新品」のまま捨てられている服の割合は「2分の1」。その数、実に33億着にものぼると言われています。あまり着用せずに手放されてしまう服が、1人あたり(年間平均)25枚あるという調査結果も出ています。

そして、日本の問題はこれらの服の98%を輸入に頼っているということ。服のタグを見ると「MADE IN JAPAN」に出会えることはほとんど無く、「ベトナム」「バングラデシュ」などが目立つと思います。つまり、大量生産は、人件費の安い国に発注することで成り立っているという事なんです。

「一着を長く着続けること」が、課題解決につながる 企業はサプライチェーンをシンプルに

−この大き過ぎるファッションの課題を解決するために、特にアパレル産業はどのような取り組みを進めると良いのでしょうか?

竹下:やっぱり、サプライチェーン※をシンプルにしなければいけない、と思っています。

先ほどもお話したように、日本で販売されている服は98%が海外製。綿花を栽培する国、生地を染める国、縫製する国…すべて国が違ってくるんですね。そうなると、製造を依頼している企業でさえも、どこでどう作られているのかを把握することができない。それくらい、ファッションのサプライチェーンは複雑なんです。だから、どこかの段階で深刻な人権問題が生まれていたとしても、分からないんですね。※サプライチェーン:製品の原材料の仕入れから販売、消費に至るまでの、一連の流れのこと(調達・製造・配送・販売・消費など)

ベトナムの縫製工場

以前、ある学生が卒論でファストファッションについて調べました。そこで、さまざまなアパレル企業にサプライチェーンについてヒアリングしたんですが、無回答もしくは「答えかねます」「分かりません」ばかりで、結局何も追うことができなかった。それが、全てだなと思いましたね。

企業はやはり、自分の会社で作っているもの、売っているものに対してもう少し責任を持たなければいけない。その製品が、どこでどのようにして作られたのか。どういうプロセスを辿って、いまこのお店に並んでいるのか。その情報を経営層だけにとどめるのではなく、店頭で服を勧めるアルバイト店員であってもきちんと説明ができるよう徹底しなければいけない、と考えます。

もともと日本はモノづくりを大事にして豊かになった国なので、モノを作る人にもっと敬意を払うべきだと思いますね。

−私たち、個人にできることはあるのでしょうか?

竹下:やっぱり一人ひとりが「一着を長く着続けること」だろうと思います。

私が子どもの頃、1980年代〜90年代までは、服1枚あたりの価格が現在の倍くらいあったんです。服を買ってもらう頻度も多くはなく「クリスマスにあのセーターを買ってもらった」という思い出は、未だ鮮明です。ジーンズも1本8,000円くらいするのが当たり前だったけれど、今の学生に聞くと「1本3,000円以下じゃないと買わない」と言う。でも、生地が良くないのですぐダメになってしまうんですよね…。

【出典】SUSTAINABLE FASHION/環境省

竹下:ただ一方で「多様性」が叫ばれる時代にあって、服というのは自身のアイデンティティを表現するものとして大切なツールでもありますよね。だから、その選択肢が少なくなってしまうと、ファッションの面白さや多様性を奪ってしまうことにもなる。何より「環境のために我慢する」だと、それは続きません。

なかなか難しい問題で、正解が無いな…とも感じています。

編集後記

記事に入り切らなかったのですが、これからは「平和」という視点も必要というお話がありました。「地球環境」などが注目されがちですが、「戦争を起こさないためにどうすべきか」考える段階にきているとのこと。ファッションについても、その背景には人権問題など、さまざまな問題をはらんでいる。そういった中で起こる国と国との摩擦で、「戦争」に発展することもあり得るそうです。特に服だけではなく、他にも多くの物を輸入に頼っている日本は、無意識のうちに戦争に関わっている可能性があることも自覚しなければいけない。今の子どもたちが、安心して生きていくためには、一人ひとりが「平和」の視点を持ち、自分の選んだモノ、行動がそこにどうつながっているのかを考えていくことが必要なんだと感じました。

三神 早耶(みかみ・さや)

愛媛県松山市在住。大学卒業後、広告代理店の営業や進行管理などを経て、2016年からフリーライターに。ビジネスメディアや、地元経済誌、企業のWebサイト等において、取材や記事の執筆をしています。私生活では2児の母。趣味はキャンプと仕事。

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