「やさしい未来」をつむぐ大王製紙 ~生理の貧困と脱炭素に向けた取り組み事例~
大王グループの経営理念「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」には、事業活動において世界中のステークホルダーのみならず地球環境も含め、あらゆる対象に向けて、豊かさの先にある「やさしい未来」を実現する企業でありたいという想いが込められている。これを誠意と熱意をもって成し遂げるというのが、創業者である井川伊勢吉氏が提唱した創業の精神だ。
この経営理念を深化させ、パーパス(存在意義)として再定義し、3つの「生」すなわち「衛生」「人生」「再生」をバックキャスティングによって成し遂げるという新たなビジョンを掲げ、取り組みを策定した。「衛生」「人生」については、生理の貧困に寄り添うための「奨学ナプキン」。そして「再生」については、カーボンニュートラルの実現を目指す。
サステナビリティ・ビジョンと、3つの「生」に込めた想い
大王製紙がパーパスとして策定した「やさしい未来」は、どのように実現するのか?
やさしさという抽象的な概念を、大王製紙は3つの「“生”きる」を含んだ言葉に落とし込む。1つ目は衛生。 すなわち衛生用品や習慣の普及により人々の健康を守り、あらゆる地域で共生社会を実現させる。 2つ目は人生。より良い暮らしを叶えるサービスを提供し、人生の質を向上させて、心豊かで幸福を感じられるようにする。3つ目は再生。環境保全への積極的な取り組みを通じて自然豊かな地球へと再生し、多様な生物が共生・繁栄できる状態にする。
また経営理念では、大王製紙のイニシャル「D」「A」「I」「O」を事業展開するうえでの4つの柱に据える。「D」はDedicated=ものづくりへのこだわり。「A」はAttentive=地域社会とのきずな。「I」はIntegrated=安全で働きがいのある企業風土。「O」はOrganic=地球環境への貢献をそれぞれ表している。
(大王グループのパーパスとサステナビリティ・ビジョン)
大王製紙が思い描く「やさしい未来」が実現したら、人の暮らしと地球環境は、それぞれどのような状態になっているだろうか。
人に対する「やさしさ」は、貧困問題が解決し人々の生活水準が向上し、健康的な生活が保障されている。世界中の人々が幸福度の高い心豊かな生活を送っている。
地球に対する「やさしさ」は、多様な生物が共生・繁栄する自然豊かな地球が再生(リジェネレーション)されている。それらを目指して、サステナビリティ・ビジョンを制定し、実現にむけてバックキャスティング法で、3つの「生」を成し遂げるべく取り組みを進めている。
多様性のある社会へ、「生理の貧困」に寄り添うプロジェクト
- だれかではなく、あなたのそばに。
人に対する「やさしさ」、貧困問題そして衛生、これらの要素を掛け合わせたプロジェクトとして、大王製紙は社会問題として顕在化した「生理の貧困」に着目。これからの未来を支えるZ世代、学生を支援したいとの考えから「奨学ナプキン」を企画した。
生理の貧困とは、経済的な理由で生理用品を購入できない女性がいるという社会問題で、女性の健康や尊厳に関わる重要な課題として官民連携で対応が協議されている。厚生労働省が行った「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」(2022年2月)では、新型コロナウイルス感染症発生後(2020 年2月頃以降)から調査時までの間に生理用品の購入・入手に苦労したことがあるかという問いに対して、「よくある」「ときどきある」(以下、「ある」)を合計した割合は8.1%(244 人)だった。
年代別にみると、18・19 歳、20 代以下で「ある」の割合が他の年代より高い。また世帯収入別にみると、「100 万円未満」「収入なし」「100 万円~300 万円未満」の順に「ある」の割合が高くなっていた。生理用品の購入・入手に苦労したことが「ある」と回答した人(244 人)を対象に、その理由を尋ねたところ、「自分の収入が少ないから(37.7%)」「自分のために使えるお金が少ないから(28.7%)」「その他のことにお金を使わなければならないから(24.2%)」等の経済的な理由が多く挙げられている。
(出典:『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査, 厚生労働省, 2022年)
生理の貧困は、単に生理用品が買えないという問題だけでなく、腹膜炎や不妊症など重大な健康障害の原因にもなりうると専門家は指摘する。衛生的な生理への対応は個人の問題であるのみでなく、社会全体で取り組むべき問題なのだ。
大王製紙は、「エリエール」をファミリーブランドとした生理用品ブランド「エリス」を展開することから、多様性のある社会でひとりひとりの生理に寄り添うプロジェクト「meet my elis」を 2022年4月に始動した。
「だれかではなく、あなたのそばに。」のメッセージのもと、より多様なニーズに応えるべくブランドを刷新。このプロジェクトの一環として、さまざまな理由から生理用品の入手に困っている学生の方を対象に、生理用ナプキンを1年間無償でプレゼントする「奨学ナプキン」を開始した。
奨学生に選ばれた方には生理用ナプキンをプレゼントするだけではなくモニターになってもらい、エリスを使った感想や生理に関する悩みをアンケートにて回答する。生理についての困りごとやニーズなど、リアルな声をすくいあげ可視化することで、より多様なニーズに応えた商品を展開するブランドを目指す。
(奨学ナプキンとしてプレゼントされる生理用ナプキンセット)
- サンプリングやブランドムービーで、ブランドの姿勢を誠実に伝える
さらに「エリス」の想いを多くのターゲットユーザーへ届けるべく、リニューアルしたエリスの生理用ナプキンを設置したサンプリングイベントを全国 10都道府県で実施。合計 8 万個のサンプルセットを配布した。
(サンプリングで配布されたエリスの生理用ナプキン)
併せて、「わたしの生理」と題したブランドムービーを公開。それぞれの場所で生きる等身大の女性たちが「わたしの生理」をテーマに、ひとりひとり違う生理に対する想いや悩みを語る内容だ。こうしたリアルな声を受け止めたり発信したりすることを通じて、「ほかのだれかではない、あなた」の気持ちに寄り添う商品を届けていくというブランドの姿勢を真摯に訴求する。
(YouTubeで公開されたブランドムービー「わたしの生理」)
- SNSを中心に、生活者や企業から多くの賛同と応援
2022年4月7日~5月20 日にかけて奨学生を募集したところ、「素敵な取り組み」「必要な人に届いてほしい」など多くの賛同や応援の声がSNSに寄せられ、大きな反響を呼んだ。
1,000 名の募集に対して応募総数は 9,000 件を突破。予想以上の反響と期待の大きさを受けて、1人でも多くの方に寄り添いたいとの想いから、さらに 1,000 名の奨学生を追加。対象となる奨学生を計 2,000 名に増やすことを決定した。決定した奨学生 2,000 名に対しては、1回目の生理用ナプキンの送付を 6月30日から順次開始している。
「奨学ナプキン」の応募時に回答してもらった「生理に関するアンケート」結果によると、
9,000 名を超える応募者のうち4割強が「生理用品の購入にほぼ毎月苦労している」と回答。「生理の貧困」の深刻な現状が浮き彫りとなった。
購入に苦労した理由としては、経済的な理由をあげる声が7割弱に上ることが明らかになった。また、生理用品が手に入らなかったときの対策としては「交換回数を減らす」「洋服で代用する」「外出しない」などの実態が判明。そのほか、「生理の知識がない」「学校を休ませてもらえない」など、生理に関するさまざまな困りごとが顕在化した。
大王製紙は今後もメーカーとして貢献できることを世の中に提供していきたい考えだ。
二酸化炭素排出量を実質ゼロにするためのロードマップ
- 再生可能エネルギー、リサイクル発電の本格稼働にむけて
「やさしい未来」を実現するためのもう一方、すなわち環境の面では、サステナビリティ・ビジョンの中でカーボンニュートラルに向けたロードマップを作成した。石炭からフェードアウトし再生可能エネルギー等へのエネルギー転換、省エネルギーの推進、吸収源の拡大の3本柱で構成。なかでも再生可能エネルギー=石炭からのフェードアウトを最優先課題に据える。
大王グループが排出する温室効果ガスのうち、三島工場で使用する石炭から排出するものが約6割を占める。脱炭素にむけて水素やアンモニア等の方策についても議論する必要はあるとしながらも、まず今できることとして、いち早く三島工場の石炭使用量を削減したい考えだ。
(三島工場ではバイオマス発電設備の新設工事が完了、再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用した電力販売を開始した)
2030 年までに三島工場に廃棄物由来燃料を利用するリサイクル発電設備を新設。これにより、三島工場の石炭ボイラー3缶のうち、1缶を停止する。2缶目については、2020年に稼働したバイオマス発電設備(FIT販売)の電力販売が2040年に終了するのに伴い、自家消費に切り替えて2缶目を停止する予定だ。3缶目については、水素やアンモニアといった新燃料に期待をかける。しかしこれは自社だけでの取り組みが難しいため、2021年6月に「四国中央市カーボンニュートラル協議会」を発足させ、将来の燃料(水素、アンモニア)について情報収集、議論を行っているという。
インフラ整備等を地域や自治体と協働し、カーボンニュートラルの実現を目指していく。
- 発電効率を高めるのに有効な技術開発
エネルギー自給率の低い日本において、これまでは単に焼却されていた廃棄物を燃料として利用することが化石燃料削減に有効な手段として検証を進めている。
有効利用されていない廃棄物には多くの塩素が含まれる。この塩素は高温域において鉄を腐食させる性質があることから、発電用ボイラーでは事故防止のために塩素を含む燃料は敬遠される。そこで大王製紙では、塩素腐食の高温領域を回避すべく、通常の発電設備よりも低温の蒸気を利用するリサイクル発電設備の導入を計画している。2022年度には、福島県のいわき大王製紙で第1号機が稼働する予定だ。
リサイクル発電をさらに高効率化するために今後は、塩素濃度の高い燃料を利用できるようにするための腐食対策技術の開発が必要であり、メーカーや関係官庁とも協力して検討していくという。
「紙のまち」として地域の特色を活かしつつ、サステナブルな付加価値を
大王製紙の本社がある四国中央市は16年連続で紙の出荷額で1位を達成しており、「紙のまち」として知られる。これは他でもない、自治体・地域と共に製紙・流通・加工・物流等の関連産業が一体となって取り組んできた結果だ。そして世界的な脱(または減)プラスチックにむけた機運の高まりは、天然素材である「紙」には追い風となるだろう。
しかしその一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するのに伴い、とりわけメディア関連においてはペーパーレス化が進み、紙の需要が減少している。このリスクに対しては、板紙・段ボール・包装用紙・機能紙といった梱包用紙や、ティシュペーパー・トイレットペーパーなどの家庭紙へと生産をシフトすることで、生産量を落とすことなく地域の雇用を維持・創出する。これにより、SDGsゴール8「働きがいも経済成長も」にも貢献する。
SDGsゴール14「海の豊かさを守ろう」については、プラスチックに代わる新素材を開発し、海洋プラスチックごみ問題に対応する。一例として、木材繊維を微細化したセルロースナノファイバーは軽量・高強度・保湿効果など機能性に優れており、自動車・健康・美容などの生活の質の向上につながる分野への環境配慮商品の展開が期待できるという。
先に紹介した生理用品ブランド「エリス」でも、パッケージおよび個包装に大王製紙として初めて紙包装を採用したサステナブルナプキン『エリス 素肌のきもち ナチュラルシリーズ』を2022年7月からEC限定で販売を開始した。
これは“わたしと地球にやさしい生理用ナプキン”をコンセプトにしており、パッケージと個包装に無漂白の紙包装を採用することで1枚当たりの使用プラスチック量(化繊含む)を約31%削減(自社従来品比)する。
(パッケージや個包装に紙を採用したサステナブルナプキンは自社従来品比31%のプラスチックを削減する)
プリント類には植物由来のボタニカルインキを用い、ナプキンの表面シートには肌への負担を軽減するオーガニックコットンを採用。環境に配慮しつつ、生理の憂鬱な期間を快適にすごせる工夫を凝らした商品開発事例と言えるだろう。
もちろん、製紙業を含めた素材産業の多くがエネルギー多消費型産業であり、いまだ多くの化石燃料に頼っている現状も重要な課題として忘れてはいない。各自治体で単純焼却されている廃棄物が多くあることから、これをうまく活用して、地域全体で二酸化炭素の排出量削減に取り組みたい考えだ。これには2030年までに新設計画中の廃棄物由来燃料を利用したリサイクル発電設備が有効な手立てになるはずだ。
こうした様々なサステナビリティへの取り組みを通じて、大王グループは環境負荷軽減と経済どちらにも好影響を及ぼしながら、地域の製紙・流通・加工・物流等の関連産業も含めた「紙のまち」の長期的な発展に寄与していく。
※メイン画像提供:大王製紙株式会社
【参照サイト】
大王グループ サステナビリティ・ビジョン
『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査, 厚生労働省
「meet my elis」プロジェクト始動
奨学生 2,000 名へ生理用ナプキンを順次送付開始
エリスブランドムービー:「わたしの生理」
『エリス 素肌のきもち ナチュラルシリーズ』EC 限定販売開始
【企画紹介】
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相互のゆかりの地から繋がる「人・場所・産品・取り組み」などを取材し、環境や気候変動、サステナブルな観点からコンテンツとして紹介し合うことで、新たなつながりを生み、ひろげていく共創プロジェクトです。