サステナブルな想いと情報を未来へ~ECCCAの環境ウェブマガジン~

COLUMN&INTERVIEW

食品廃棄物から有機堆肥へ リジェネラティブ農業と循環型地域づくりの実践

大地の恵みは、大地に還す。

「昔の人は、食品廃棄物を燃やすという概念がそもそもなく、自然な営みのなかで堆肥にしてきました。土から生まれた農作物は、燃やしてCO2を出すのではなく、土に戻すべきではないか。そう考えて有機堆肥化の事業に取り組み始めたのが、私たちの出発点です」と語るのは、株式会社ロイヤルアイゼン(以下、ロイヤルアイゼン)代表取締役 副社長 姜公佑(キョウ コウスケ)氏だ。

ロイヤルアイゼンは廃棄物の収集・運搬・処理を中心に事業展開しており、生ごみと木くずを有機堆肥へリサイクルする松山市で唯一の総合リサイクルセンターを持つ。この施設は、食品廃棄物を高温で発酵させた有機堆肥をつくるプラントを備えた工場だ。松山市第1号の一般廃棄物処分業許可施設として2006年に本格稼働した。中央市場、学校給食、大手スーパー等と連携し、年間約3,000トンもの生ごみを堆肥へリサイクルしている。

(株式会社ロイヤルアイゼンのプラント工場外観)

食の安全と直結するリジェネラティブな農業

環境や食の安全面での影響から、化学肥料や農薬の使用を減らして土壌を再生させる“リジェネラティブな農業”への志向が高まりつつある昨今。先述の通りロイヤルアイゼンは化学肥料や農薬を用いることが主流だった頃から、有機堆肥化事業を推進してきた。そこにはどのような想いがあったのだろうか。姜氏は次のように語った。

「化学肥料を使うと土が固くなるため、幼い根が下に伸びていかないのです。根が下に伸びず、横に広がるため、水をふくんでも作物にうまく行き届かず、強風にさらされた時にもすぐに萎えてしまうなど脆弱な作物になってしまいます。虫などを排除するために農薬や肥料が使われるわけですが、そもそも、虫が食べない農作物を生活者が食べるというのはおかしいのではないか。そうした疑問から、有機農業は食の安全と安心につながるとの考えに至りました。いい栄養が十分に土にあるからこそ、ミミズや虫も土の中に生息でき、それらの微生物の影響により土のなかに栄養が戻り、おいしい野菜ができるのです。」

食品廃棄物を用いて品質のいい堆肥をつくることで有機農業に貢献したい。こうした確固たる想いから技術開発に取り組み、プラント工場の本格稼働までこぎつけたのだった。

有機堆肥ができるまでの流れ

有機堆肥は、まず自社及び委託業者によって持ち運ばれた食品廃棄物(生ゴミ)を粉砕することから始まる。粉々に粉砕することで、まんべんなく空気に触れさせるのが目的だ。そこに、街路樹を剪定した際に出る木くずを粉砕したもの(炭素)と、豚糞とおがくずの混合物(窒素)、米ぬかを混ぜる。こうして発酵環境を整え、さらに攪拌することで好機発酵を促すのだという。

高温で発酵した有機堆肥は微生物の活動が活発で、農産物の生産性と土壌の質向上に好影響を及ぼし、ひいては食の安全と安心に貢献する。さらに加えて、堆肥化は、食品廃棄物を焼却処分するよりもCO2等の発生を抑制できるため、気候変動などの環境面でもいいこと尽くめだ。

最初の1ヵ月における集中的な攪拌は施設内撹拌機を用いて行うが、2か月目からはショベル重機で撹拌を行い発酵促進を図るという。施設内撹拌機による撹拌で発酵熱が80℃前後まで上がり、後に60℃前後に下がった状態からショベル重機による撹拌を繰り返し、やがて発酵菌が活動しなくなる50℃になるまで、全行程で約6ヶ月もの時間をかけて有機堆肥へと再生させていく。

発酵時に発生する臭気については発酵槽を密閉式にしている他、臭気を吸引して約820℃の高温で分解する脱臭装置も備えている。また、清掃中に発生する汚水は二次発酵槽の水分調整剤として散布し、地球環境や社会環境、地域環境に配慮した新技術を採用するという徹底ぶりだ。

(プラント工場で有機堆肥をつくる工程)

みどりの食料システム法によって有機堆肥ニーズも高まるか

環境と調和する食料システムの確立を目的として、環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(みどりの食料システム法)が令和4年4月22日に成立し、5月2日に公布、7月1日に施行された。

気候変動による大規模自然災害、生産者の減少や地域コミュニティの衰退といった生産基盤の脆弱化、コロナ禍を契機とした生産・消費の変化、ウクライナ侵攻による食料原料や肥料の高騰など、食や農業にまつわる産業はさまざまな課題に直面している。背景にあるこれらの課題を踏まえ、みどりの食料システム法、未来の食料を安定供給を図ることを目指すものだ。とりわけ「化学肥料の使用量を30%低減」「耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%、100万haに拡大」など、農薬と化学肥料の削減に重点を置く。

農薬と化学肥料を原則として使わない有機農業を推進することは、生物多様性の保全や脱炭素、気候変動対策にとっても有効だ。

(出典:みどりの食料システム戦略, 農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/index.html

農薬や化学肥料の使用量を減らし、有機農業の割合を増やすとなると、必要になるのは大量の有機堆肥だ。しかも生産量や品質を担保するためには、より品質のよい有機堆肥への需要はこれからますます高まるに違いない。

ロイヤルアイゼンとしても、この政策を受けて処理能力を上げていくことは考えていく構えだが、敷地と予算の問題が大きく立ちはだかるという。

地域農家の同意を得るのに2年を要した

ロイヤルアイゼンの工場を建てるにあたって、地元住民との話し合いは実に2年にも及んだという。

「ゴミ処理場をなぜここに作るのか」という声に対して、「臭いも汚れも出さない、良質な有機堆肥を無償で提供する」と粘り強く説得を繰り返した。

姜氏は当時をふり返って話す。

「農家の方々も自分たちの農地が衰退していることに対しては危機感があったのだと思います。けれども、ずっと化学肥料を使って作物が確実に育ってきていたのに、試したことがない肥料をいきなりは怖くて使えない、という気持ちもあったようで、最初のうちは有機堆肥を無償で提供しても取りに来る人は誰もいませんでした。事業をはじめて最初の5年くらいは、作った堆肥が余ることの方が多かったんです。置き場所をとるから、せっかく作ったのに、廃棄物として処理したら? と言われたこともあります。」

5年にわたる停滞期間だったが、何をきっかけに好転したのだろうか?

「3名の農家さんが、自分の農地の一部で有機堆肥を使ってみてもいいよ、と手をあげてくれたのです。そうして小さな試みから始めて、実際に育ててみると、野菜もよく育ったし、品質もとてもいいものが出来たのです。」そうした実証から、地域の農家に利用が拡大していったという。

地域の農家へは、無償で有機堆肥を提供するだけにとどまらない。有機堆肥を撒く作業は、中腰の姿勢で手作業にて行うと丸2日かかるという。高齢化が進み、そうした作業が困難な農家に対して、堆肥を自動散布するトラックを自社で投資し、支援している。これにより、1枚の畑に対しての堆肥散布が15分で出来る。こうした農家に寄り添う支援により、地域農家による堆肥利用量も増加の一途をたどっている。

地道な取り組みと共に、長い年月をかけて有機堆肥の在庫が徐々に減ってきて、今では需要が急拡大しているという。

(近隣の農家に堆肥を自動散布するトラックを提供し、有機農業を支援している)

地域と連携した食品リサイクル ループ

大量生産・消費・廃棄のシステムから循環型社会に向けて方向転換するために、食品廃棄物の減量化と原材料としての再利用を促進する「食品リサイクル法」が2001年に施行された。

愛媛県では、ロイヤルアイゼンと小売業のフジ(株式会社フジ・リテイリング)と地域の農家の3者が協力し、地域循環型食品リサイクルに取り組んでいる。スーパー「フジ」各店舗で発生する食品残渣を原料に、ロイヤルアイゼンで堆肥化。その堆肥を使って農家が生産した野菜を、「フジ」各店舗で販売するという仕組みだ。堆肥化を活用した食品リサイクルを推進することによって、廃棄物の減少、地域循環型社会の構築、地域の農業活性化に効果があるだけでなく、有機農業により食の安心が担保され、地産地消の推進にもつながっている。

(出典:愛媛県ホームページ「えひめの循環型社会づくり」, 2014年)
https://www.pref.ehime.jp/h15700/4731/kigyou/k_2304.html

食品ロス問題や環境問題が深刻さを増すにつれて、生産者や企業のみならず、生活者にも堆肥化の関心やニーズが高まりつつある。シェアファームや家庭菜園など生活者が自分のできる範囲で有機農業を実践するケースも増えており、ロイヤルアイゼンの有機堆肥は農家以外にも需要が広がっている。

姜氏によると、生活者層においてロイヤルアイゼンの有機堆肥の購入が目立ちはじめたのが2017年頃からだ。ホームセンターで販売されている堆肥は通常価格で約300~400円だが、ロイヤルアイゼンは15㎏の有機堆肥を100円で販売する。この100円の有機堆肥は、袋代などの原価の関係でホームセンターでは販売できない。にもかかわらず、松山市内外の家庭菜園利用者がクチコミでロイヤルアイゼン本社やリサイクルセンターまで買いに訪れる。

(100円で販売されている有機堆肥「えひめの人にいい堆肥」)

食品廃棄物の分別にも正しい理解を

ロイヤルアイゼンに集められる食品廃棄物や生ゴミは、松山市内の学校給食、中央卸売市場や東温市内の学校給食及び市有施設、松山刑務所といった公共施設からも回収している。

しかし、回収で難しいのは、調理の際に油を用いた総菜類の食べ残しだと姜氏は指摘する。「良質な堆肥に適しているのは野菜や穀類、つまり土で育ったものなのです。堆肥が浸透しているのはとてもいいことなのですが、一方で、食べ残したり食品廃棄物を出したりしても堆肥になるなら大丈夫と、誤った認識が進んでしまう懸念はあります。本来は、どうしても食べられない部分だけを堆肥化するのが本質です。」

姜氏の言葉通り、ロイヤルアイゼンが最終ゴールとして描くのは、生ごみを焼却する施設が減っていくことに他ならない。そのためには学校などを通して「(堆肥化されるなら)残してもいい」ではないことを教育する機会を得ること。さらに言えば、堆肥化できるものとできない生ゴミを正しく分別しようとすることだ。

また、スーパーなど小売店の売り場は生活者との貴重なタッチポイントだ。より多くの生活者を巻き込んでいくには、この場を生活者にむけた“環境啓発”の場と捉え、有機堆肥と食品リサイクルで作った野菜の価値を訴求したり、「食べ残し」を減らそうと呼びかけたりすることも重要な意味を持つだろう。

地域における好循環が円滑にめぐり、安心・安全な野菜を食べられる。それだけでなく、その野菜を購入することを通じて環境にも貢献できる。ロイヤルアイゼンが長い歳月をかけて積み上げてきた真摯な取り組みによって、その循環は守られ、さらに大きな推進力になっていく。

【参考サイト】
株式会社ロイヤルアイゼン
http://www.ca.pikara.ne.jp/royalaizen/

みどりの食料システム戦略, 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/index.html

ECCCA ×YUIDEA共創プロジェクトとは

ECCCAは愛媛県の地球温暖化防止活動支援推進センターとして、地域環境を入口としたサステナブルな想いと情報を地域に届けるWEBサイトの運用を行っています。株式会社YUIDEAは企業や団体のマーケティングコミュニケーションやサステナブル・ブランディング支援を行う一方で、オウンドメディアを運用しています。

相互のゆかりの地から繋がる「人・場所・産品・取り組み」などを取材し、環境や気候変動、サステナブルな観点からコンテンツとして紹介し合うことで、新たなつながりを生み、ひろげていく共創プロジェクトです。

この記事を書いた人

内藤 真未(ないとう・まみ)

広告代理店クリエイティブで経験を積んだ後、事業会社のハイファッションEコマース事業部のディレクターと編集に長く携わる。並行して、コーポレートサイト・EC・オウンドメディア等あらゆるWEBサイトの運営や広報に従事。2018年からはBtoC新規事業開発マネジャーを務めた。2021年にYUIDEA入社後はサステナブル・ブランディング事業推進責任者として、オウンドメディア『サステナブル・ブランド・ジャーニー』運営の他、プログラム開発やコミュニケーション設計の提案などを通じて企業・団体のサステナブル・ブランディング支援に取り組んでいる。 https://sb-journey.jp/

バナー:地球は今どうなっているの?