小学生結成NGO・Bof、モザンビーク人留学生インタビュー|愛媛とモザンビークの架け橋になる
アフリカ南部の国、モザンビーク。1992年の内戦終結後、インフラ整備事業などが経済をけん引し安定的な経済成長を遂げている一方、世界最貧国のひとつであり、教育、水衛生環境、保健医療などに大きな課題を抱えている。
モザンビークと愛媛の交流は、内戦で出回った銃を回収し農機具や自転車と交換する「銃を鍬に」プロジェクトにNPO法人えひめグローバルネットワークが参画したことをきっかけに始まった。(えひめグローバルネットワークへの取材記事はこちら)
その後も同NPOを中心に支援活動や交流は続き、2009年には、愛媛大学とモザンビークにあるルリオ大学との間で、学術交流協定が締結された。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会においては、モザンビークの「ホストタウン」として愛媛県が登録されるなど、年々関係が深まっている。
今回は、愛媛とモザンビークとの架け橋となる活動を行うNGO(松山市登録NPO)、Bridge of friendship(Bof)のメンバーと、愛媛大学大学院に所属するモザンビーク人留学生のミカナルドさんにそれぞれの活動や活動にかける想いを聞いた。
Bof結成のきっかけとなった新玉小学校での国際交流授業
愛媛県松山市立新玉小学校は、ユネスコスクールとして10年以上地域とともに活動し、ESDの理念を大切に、モザンビークとの交流を中心とした国際理解教育に継続して取り組んでいる。そんな新玉小学校で行われた国際交流授業での体験を通して国際交流に関心を持った子どもたちが主体となりBofは発足した。
メンバーは、新玉小学校の卒業生7名(取材時は中学1年生)で、リーダー、副リーダー、経理、司会・書記、広報などそれぞれが役割を担っている。また、見守り隊として、えひめグローバルネットワーク代表理事の竹内よし子さんらがサポートを行う。
新玉小学校の国際交流授業では、モザンビークの文化や現状を学ぶ授業やクイズ大会、モザンビーク人パラリンピック選手との交流会など、さまざまな取り組みが実施されている。その取り組みの一つとして実施された、バザーイベントでの体験がBof結成のきっかけとなった。
(新玉小学校での国際交流授業の様子と子どもたちの手作り横断幕)
バザーは子どもたちの手作り商品を販売し、その売り上げをモザンビークなどに寄付する仕組みになっていて、集まったお金の一部は、東京2020パラリンピック陸上モザンビーク代表イラーリオ・シャベラ選手の目の手術やメガネの購入に当てられた。手術は無事成功し、彼の視力は自動車の運転が可能なほどに回復した。
(手術が無事成功したイラーリオ選手)
自分たちの活動が人の役に立っていることを実感できた体験は、やりがいと自信につながり、「やってみたい」気持ちを後押しすることとなったのだろう。リーダーの山崎蒼さんは「バザーで集まったお金でイラーリオ選手のメガネをプレゼントできた。イラーリオ選手の眼が見えるようになってとても嬉しかった」と誇らしそうに話した。
自分たちの「楽しむ」気持ちが一番大事
団体名の「Bridge of friendship」には、「松山とモザンビークとの友情を絶やさずつないでいきたい」というメンバーの想いが込められている。そんなBofは3つの目標を掲げている。一つ目は、松山の人にモザンビークを知ってもらうことで松山とモザンビークの人々の心がゆたかになること。二つ目は、松山市の人々の国際理解・国際化が進み、多文化共生社会づくりに役立つこと。三つ目は、SDGsの目標達成に貢献すること。
具体的には、モザンビーク・ノート、松山・愛媛ノート作成や新玉地域の方に向けたクリスマスバザーイベントの開催に向けた準備を進めている。モザンビーク・ノートは、モザンビークの文化や暮らしなどを紹介する冊子で、松山・愛媛ノートは、愛媛・松山の文化や暮らしを紹介する冊子で、印刷しモザンビークの小学校に送るそうだ。クリスマスイベントは、新玉地域の方に向けたバザーイベントで、モザンビークの伝統布カプラナで作ったぬいぐるみや巾着、サツマイモのつるで作ったリースや松ぼっくりのツリーなどを販売予定とのこと。
(モザンビークの伝統布「カプラナ」)
(Bofメンバーお手製のカプラナ布で作ったぬいぐるみやサツマイモのつるで作ったリースなど)
そんな彼女たちが活動する上で大事にしていることとは?
「自分たちの“楽しむ”気持ちが一番大事」「私たちは楽しいからやっている。やらされているのではなく、してあげたい気持ちがみんなにある。そしてそれを楽しくやっているから、みんなからパワーを感じる」と山崎さん、森松さん、安永さんらは明るく話す。
「SDGsや国際交流の実践、持続可能な社会づくり」となると難しく捉えてしまいがちだが、彼女たちの大事にしていることこそ、重要な視点になるのではないだろうか。
「今後やってみたいのは、漫画や本をモザンビークに贈ること。輸送費や翻訳版を集めたり、悪影響を及ぼさない内容を選んだり、準備が必要だけど……。メンバーが漫画やアニメ好きなので、モザンビークの方に日本のアニメ・漫画文化を知ってもらいたいと思っています」とお気に入りの漫画を紹介しながら楽しそうに話してくれたことがとても印象に残っている。モザンビークと日本に友情の架け橋をつなぐBofの活動に注目していきたい。
貧しい地域でもできる感染症対策を模索
愛媛大学大学院でマラリアやデング熱など蚊が媒介する感染症について研究を行うミカナルドさん。モザンビークのルリオ大学卒業後、ヨーロッパへの留学やJICAのABEイニシアティブへの応募を試みるが上手くいかず、進学を諦めかけていたところ、ルリオ大学と愛媛大学の窓口的役割を担う栗田英幸先生との出会いが縁となり、愛媛大学への留学が実現した。
(中央がモザンビーク人留学生のミカナルドさん)
ミカナルドさんは、蚊が媒介する感染症を減らすための予防策を提案するために研究を行う。蚊や環境、人間が作り出した住宅の仕組みを理解し、マラリアなどの感染症の発生数を減らす環境をどう作ることができるか、気候変動に適応するための対策として、どういうことができるかを日々試行錯誤している。
WHOが2021年12月6日に発表した「世界マラリア報告書2021」では、2020年に世界中で推定2億4100万人がマラリアに罹患。感染者数の約95%がアフリカ地域に集中していることが報告されている。モザンビークでは、600万人以上が罹患、2万人以上が死亡していることからも、同国にとって深刻な問題であることが分かる。
モザンビークでは、マラリアによって命を落とす可能性が常にあると言う。スプレーで除ける対策や、蚊がウイルスを保有していても人に感染しないようにする研究が行われている。蚊に刺されないためのネット(蚊帳)をつくる研究も行われているが、貧しい地域の人々はこの蚊帳を漁に使ってしまう。感染症対策よりも毎日を食いつなぐことの方が重要なのだ。貧困と感染症を巡る問題の根深さを痛感する。
国の50%以上が貧困層のモザンビーク。アメリカをはじめ世界的にマラリアを撲滅する活動はさまざま行われているが、成功していない。ミカナルドさんは根本的な対策が必要と考え、住宅に工夫を施すことで感染症を防ぐ方法を模索している。
それは、家に入るドアに少し傾斜を掛け、ドアが自動で閉まるようにするという方法だ(ドアを開けたら、そのドアが戻ってきて勝手に閉まる仕組み)。これであれば、村人の家のドアの角度を変えるだけでできる。高度で最新の技術を使う必要も、高価な部品を新しく買う必要もないのだ。
(現地で実験中の家屋)
「お金がある人は対策ができる。網戸を付けたり、蚊帳を使ったり。それができない人にこそ支援が必要。どんなに貧しい地域であってもできる、村の人の習慣の中で取り入れられる方法で解決したい。村人に少しでも変化をもたらしたい」とミカナルドさんは抱負を語る。
モザンビークにあるミカナルドさんの自宅で実験したところ10匹程の蚊が減った。モザンビークが雨季になる12~3月、特に貧しい地域を選んで、現地でのモデル実験を予定している。
日本にも潜むマラリア流行の可能性と気候変動
地球温暖化による気候変動によって、蚊が媒介する感染症は増える。例えば、気温の高い時期が長くなると、蚊の活動長期化・生息域拡大が進行する。また、特定の時期の雨量が増えれば、蚊の発生数、そして媒介される病原体の数が増え、人体に侵入する機会も増えることが予測されている。
日本の衛生環境や現代の生活スタイルでは感染リスクが低いとされているが、「日本でも感染が流行する可能性はある」とミカナルドさんは指摘する。例えば日本には、お墓にお花をお供えする習慣がある。気温の高い状態が続くお盆も変わらずそうする人が多い。放置された花立てに溜まる水はかなり不衛生な状態になっている。そういった場所から蚊は発生する。今のところ、日本ではマラリアなどの感染症が流行していないため、問題になっていない習慣は、気候変動が進んだ時には問題になる可能性があるのだ。
モザンビークでは、プラスチックや缶のゴミに溜まっている水が蚊の発生原になっている。日本とモザンビークでは状況は異なるが、蚊が増える環境を作り出しているのは人間という点では共通している。途上国、先進国に関係なく、私たちの習慣を変えていく必要がありそうだ。
愛媛とモザンビークの交流についてのミカナルドさんの感想
ミカナルドさんは研究の傍ら、新玉小学校や愛媛県立松山東高等学校など愛媛県の学校やえひめグローバルネットワークを訪問し交流活動も行う。モザンビークの料理を一緒に作ったり、科学のことを話したり、さまざまな交流を行ってきた。
そんな経験を通して、子ども時代に留学生を通じて国際的なことを学べる機会のある日本の教育システムにとても感激しているという。それは、このような交流の場でモザンビークの話を伝えていくことで、「アフリカと言えば、ジャングルで何もない場所」と思い込む人がいなくなり、現地に対する理解が深まるからである。
また、教える立場で訪問していても、逆に子どもたちから教えられることもたくさんあるという。例えば、先生がいない間に自分たちで掃除を始める。休み時間は騒いでいても、授業の始まる直前になると子どもたちの自ら静かにする。この様子を現地の友人に話したところ、友人は「信じられない!」と驚き感激していたそうだ。「自分が実際に訪問して体験しているからこそ、リアリティを持って友人に話すことができる」と嬉しそうに話すミカナルドさん。このような国際交流の仕組みを現地に持ち帰り、実践していきたい想いもあるそうだ。
いつかはモザンビークに帰って、留学の経験を還元したい。
日本は、夜誰かに窓を開けられる、壊される心配なく眠ることができる。青信号を渡るときも安心して渡ることができる。バナナがほしいと思ったとき、スーパーに行けばバナナを買うことができる。このように、日本の日常の中では、安心・安全・安定が約束されている。
モザンビークは、そんな日本とは真逆の状況で、日々の暮らしの中でストレスを感じることが多い。「日本の方が便利で住みやすい。言葉で説明するのは難しいが、それでも、モザンビークは自分にとって良い国なのだ。いつかは自国に帰り、留学で得た経験を還元したい」とミカナルドさんは熱く想いを語った。
「今後も愛媛とモザンビークの交流がずっと続くように祈っている」と話すミカナルドさん。特に愛媛大学による留学生の受け入れを続けてほしい願いが強いようだ。愛媛大学への一人目の留学生は、現在ルリオ大学の副学長になっている。愛媛に来ることでモザンビークに戻った後も貢献できるポジションに就くことができる、そんな交流が続くこと。それが彼らの願いとしてある。
日本では、モザンビークをはじめとするアフリカの国々について学ぶ機会が限られているため、アフリカに対する理解はなかなか広がっていない。愛媛県とモザンビークで行われているような本物の交流を続けることで、そのような国々を身近に感じ、理解を深めていくことができるのではないか。そして理解が深まることで、自分たちの暮らしや身近なことから行動を変えていくことにつながるのだろう。
SDGsの特徴にもあるように、貧困や環境など地球規模で解決すべき課題は、先進国、途上国ともに担っている。だからこそ、協力し合える方法を互いに模索していくことが求められているのではないだろうか。
【参照サイト】
ユネスコスクール 公式ウェブサイト
松山市立新玉小学校
Malaria No More Japan
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