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COLUMN&INTERVIEW

これからの時代を生き抜くために ―非認知能力と環境教育から― 第1回 非認知能力ってスプーンを曲げる力!?

1 非認知能力は認知能力にあらず!

みなさん、こんにちは。今回から5回にわたって、みなさんに「非認知能力」という力についてお話していきます。早速ですが、改めて今回のタイトルをご覧ください。非認知能力はスプーンを曲げる力かどうか…もちろん違いますよね!

スプーンを曲げる方の力は、みなさんもよくご存知の「超能力」であって、非認知能力ではありません。ウソのような本当の話なんですが、以前は実際に超能力のようなものと勘違いされていた方もいらっしゃったんです。しかし、最近になって非認知能力は、子どもたちの教育・保育から、社会人のビジネスに至るまで幅広く普及し始めました(さすがに、超能力と間違われることもなくなりましたね…)。この非認知能力がなぜ注目を集めているのかは、次回に詳しくお話しますので、今回は非認知能力そのものについて説明していきましょう。

みなさんは、「認知能力」という言葉を聞かれたことがありますか?
認知能力とは、特にテストなどで明確な点数にできる力のことを指しています。つまり、テストで点数にして認知できる(わかる)能力こそが認知能力という括りになるのです。それでは、みなさんにとって身近な認知能力といえば…、例えば、読み、書き、計算や英語力、様々な知識の習得やIQ(知能指数)となります。これらはいずれもテストや検定などがありますもんね。

一方、この認知能力に「非(あらず)」がついたのが非認知能力です。一言で言ってしまえば「認知能力ではない力」となるでしょう。先ほどの通りにとらえるなら、テストなどで明確な点数にできない力のことを指します。そんな力ってどんなものがあると思いますか?

例えば、コミュニケーション能力はわかりやすいかもしれません。他者と意思疎通を図るための言語的ないし非言語的なコミュニケーション能力なんて、テストで点数にされたら驚きますよね!
このほかにも、忍耐力、自制心、やる気、自信、思いやり、協調性…などなどもテストで点数にすることはできません。これらの力を総称して、非認知能力という言葉ができ、いま注目を集めているわけです。

2 自分の中の情動と他者との関係性の力

非認知能力について、さらに詳しく説明していきます。まずは、私たちがもともと「力」とは呼ばすに、「心」とか「気持ち」と呼んでいたような自分の内面にかかわるものを能力に置き換えたのが非認知能力です。また、自分の内面だけでなく、先ほどのコミュニケーション力や思いやり、協調性などのように、他者との関係性にかかわってくるものも非認知能力としています。

そのため、OECD(経済協力開発機構;2015)では、非認知能力のことを「社会情動的スキル」と提唱したのです。まさに、他者との社会的スキルと自分の内側の情動的スキルを併せもった非認知能力ということになりますね。

いかがですか? 非認知能力についてどういうものかご理解いただけましたか?
非認知能力は、これまでも「EQ(心の知能指数)」や「人間力」などとも呼ばれてきました。次回に詳しく説明しますが、以前から大切にされてきた学力(認知能力)とは異なる力が、非認知能力という名称となって再注目されたとご理解ください。
そして、どうしてこの非認知能力が地球環境をテーマにした本誌で取り上げられているのか、おわかりでしょうか?

3 地球環境を守るためには非認知能力が必要

みなさんは、ごみを廃棄されるとき、ごみの分別をされるはずです。
「可燃ゴミ」「不燃ゴミ」と表記されていれば、紙類は可燃の方で、カン類は不燃の方ですよね。さらに、リサイクルできるものについては、可燃と不燃以外の所に分別することもいまや当たり前になっています。このようなゴミの分別が地球環境を守ることにつながっていくことを確信して、私たちは日々注意しながらゴミを捨てているわけです。これって、認知能力と非認知能力のどちらが必要になりそうですか?

言うまでもなく、あらゆるゴミを、可燃と不燃、リサイクルなどに的確に仕分けできる知識は必要です。この知識の習得は、認知能力につながりますね。しかし、仮にこの知識があったとしても、面倒くささが先行したり、自己中心性が強く出たりすれば、折角習得した知識も役には立ちません。このとき、知識を生かすことができるのは、規範意識であったり、周囲への気配りであったり、地球環境への憂慮であったりするわけです。これを誘発してくれる力が、非認知能力であるからこそ、地球環境を守る上で非認知能力は欠かせない力だといえます。

逆に、当初はゴミの分別に対する知識がなかったものの、周囲がやっていることに関心を持てたり、可燃や不燃やリサイクルに興味・関心を強く持てたり…などの非認知能力が本人の中に備わっていれば、そこから知識を習得して、その知識を活用できるようになっていけることでしょう。つまり、ゴミを分別するための知識(認知能力)は確かに必要なのですが、周囲の人たちや地球環境のために自ら得た知識を生かすためには、非認知能力もまた欠かすことはできないのです。

そんな地球環境のために欠かすことのできない非認知能力について、次回は、近年になってなぜこれほど注目を集めているのか、その背景について説明していきますね。

(なかやま よしかず)

出典:中山芳一(2018)『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』
同(2020)『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
いずれも東京書籍より刊行されています

この記事を書いた人

中山 芳一(なかやま・よしかず)

岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授 1976年1月生まれ(45歳)、岡山県岡山市在住 岡山大学教育学部を卒業後に岡山市内で学童保育指導員として9年間勤務。その後、学童保育の社会的価値と理論化の必要性を強く感じて、研究者を目指す。 大学院で教育方法学を学び、学童保育や乳幼児保育、さらには小中高から大学までの様々な現場で実践研究に従事する。現職の岡山大学では学生たちのキャリア教育を担当。 これらの経験から、あらゆる年代においてテストで点数にできない非認知能力を伸ばすことの意義と方法について執筆活動や講演活動を通じて全国各地へ発信している。 主な著書には… 『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍;2018) 『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍;2020) 『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP;2021) など多数

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