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COLUMN&INTERVIEW

牛のメタンガスを減らす作戦

※はじめに
この記事は専門知識を明確に記載しているわけではありません。あくまでも環境保護に意識を向けている方、特に今回は楽しく食事を作る・食事をするすべての方に是非読んでもらいたいと思っています。(こんな方にお勧め:大学生、主婦、肉好き、環境保護意識の高い方)

こんにちは。
今日は6月29日、「29(ニク)の日」ということで、牛に関する環境テーマを紹介したいと思います。

さて、地球温暖化が危惧されて久しいですが、大きな要因の一つとされているのがメタンガスによる温室効果です。なぜならメタンガスは二酸化炭素よりも約25倍もの温室効果があるといわれているからです。

そんな中、近年注目されている取り組みがあります。それは牛のメタンガスを減らす作戦です。今回のコラムでは牛のメタンガスを減らす作戦について次の3点から環境保護社会の「いま」を紹介したいと思います。

この記事でわかること

1.なぜ牛のメタンガスを減らす必要があるのか
2. 減らす作戦とは具体的にどのようなものか
3. 実現性はあるのか

なぜ牛のメタンガスを減らす必要があるのか

まず、なぜ牛のメタンガスを減らす必要があるのでしょうか。

国連食糧農業機関(FAO)によると、人為的な原因による温室効果ガスの放出のうち14.5%は家畜に起因し、そのうち3分の2は牛によるものだといいます。

また、日本政府によると農林水産分野の温室効果ガス排出量は約5000万トン(2018年度現在)であり、そのうち、牛などのゲップと排泄物から出るメタンと一酸化二窒素は約1370万トンと3割弱に上ります。

これらのデータからわかるように温室効果ガス削減を進めるにあたり、牛によるメタンガスを削減することは必要不可欠なものとされているのです。

ここで、牛によるメタンガスはどのように生成されてしまうのでしょうか。

牛は胃で餌を消化する際、温室効果が二酸化炭素の約25倍もあるといわれているメタンを発生させ、ゲップで放出します。

牛は合計で4つの胃を持っていますが、そのうち「第1胃」内に生息する微生物がメタン発生に関与していると考えられています。

減らす作戦とはどのようなものか

具体的に減らす作戦として環境保護分野ではどのような動向がみられるのでしょうか。

3つの作戦があります。

作戦1.〈赤い海藻でメタンガス85%カット〉

現在最もメタンガス削減に効果的と考えられるのが、ある「赤い海藻」によるメタンガス削減です。

この赤い海藻はカギケノリとよばれるものです。

オーストラリアの国立研究機関であるCSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)とジェームズクック大学が発表した研究論文では、このカギケノリを牛の飼料に混ぜることでゲップによるメタンの放出を削減できると発表しています。

具体的な方法は、小さく刻んだカギケノリを牛の飼料に全体量の約0.2%加えるだけ。その方法による削減率はなんと約85%です。

さらにカギケノリの導入により飼料自体の総量も削減可能であるということが明らかになっています。
牛はゲップをすることでエネルギーを大きく浪費するのでゲップを削減することでそもそも牛が消費するエネルギーを抑制することが出来るからです。

作戦2.〈不飽和脂肪酸カルシウムでメタンガス15%カット〉

日本国内での取り組みとして、農林水産省では、不飽和脂肪酸カルシウムの導入化を目標にした研究が進められています。

餌の成分研究では、乳牛用飼料に不飽和脂肪酸カルシウムを加えると、ゲップ中のメタンガスを最大15%カットすることが明らかになっています。

2021年度にカルシウム添加飼料の支援金を導入し、酪農家の温暖化対策を後押しすることが目標です。

作戦3.〈排泄物対策〉

農林水産省は、排泄物対策では温室効果ガス削減につながる栄養バランスを考慮した餌を研究しています。

現時点で、牧場で実証実験を行い、その牛肉を「地球環境に優しい肉」として出荷している例もあります。

栃木県にある前田牧場では、ホルスタイン牛を肥育し、赤身牛を出荷しています。この赤身牛ができるまでに前田牧場では温室効果ガス排出の少ない肥育工程を踏んでいます。

また、家畜排せつ物を用いてメタン発酵を行うことによりそれらをバイオガスとして生産するシステムも開発されています。

バイオガス生産システムの確立により家畜糞尿処理が大幅に軽減され、さらに化石燃料に変わる再生可能エネルギーを生み出すことができるので一石二鳥と言えるでしょう。

実現性はあるのか

ここまでで紹介した方法は実現性があるのでしょうか。

例えば1.で紹介したカギケノリによる削減計画は着々と進んでいます。

CSRIOとジェームズクック大学の論文からカギケノリの有効性を知った、起業家のジョシュ・ゴールドマンは海藻研究者のレオナルド・マタと共に「Greener Grazing」というプロジェクトを立ち上げました。(※)

現実的に世界の牛の飼料に導入するにはカギケノリが約20億トンも必要になります。商業的な収穫は2021年に計画されています。

また同様の動きを見せている、2018年にスウェーデンのストックホルムで創業した「Volta Greentech」という企業があります。

このように、世界では身近かつ大規模な環境汚染要因を解決しようとする動きがみられます。

(※)Greener Grazing
ゴールドマン氏がCEOを務めるオーストラリス・アクアカルチャー社の、カギケノリを大量生産可能な規模で生産する初の養成所となるための取り組みの一環としてベトナムとポルトガルの施設で進めている研究の一環を指します。

まとめ

いかがでしたか?私たちの食卓の主役になることの多い牛肉ですが環境保護が重視される現在では家畜の環境問題について注目されていることはもちろんですが、「環境保護のためには肉を食べるな」という主張をされる流れも否めません。

本当に肉を食べるのをやめるべきか、気にせず食べればよいか、環境に優しい肉を意識して消費するのが良いか食への意識は十人十色だと思います。

また、同じ自然に生かされている生物の将来を見つめることで少しでも地球への愛情を深めてほしいと思います。

そうすることで環境保護へ近づくことが出来るのではないでしょうか。

このテーマにした理由は環境問題と私たちの生活がどのように関係しているのかを知ることで日々の生活に何かプラスしたいという方のサポートできる情報源になればと考えたからです。

今後も様々な情報を発信していきますのでぜひ参考にしてみてください!

このコラムの執筆者(学生推進員 八木新葉)

【参考文献】
1)New Sphere 『地球を救う?牛排出のメタンを減らす海藻、量産化に取り組む米企業
2)公益財団法人黒潮生物研究所『カギケノリ
3)WIRED『「赤い海藻」が地球を救う?牛のゲップによるメタンガスを大幅に減らす取り組み
4)伊藤里香『「藻」で牛のメタンガスを減らす。世界が注目するスウェーデンの気候変動テック』『IDEAS FOR GOOD社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン』(2020年6月25日)
5)TC HUB『牛に海藻サプリを与えるとメタンガス排出が82%減少、豪連邦科学産業研究機構とカリフォルニア大学が報告』(2021年3月23日)
6)JIJI.COM『温暖化対策、牛のげっぷ抑制へ 胃の微生物や餌を研究-農水省』(2021年4月11日)
7)浅井真康『家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用』『農林水産省農林水産政策研究所 令和2年度畜産環境シンポジウム』(2020年9月28日)2020_sympo_asai.pdf (maff.go.jp)
8)前田牧場『地球にやさしいお肉。』前田牧場の赤身牛(2021,04-10)

この記事を書いた人

ECCCA

愛媛県地球温暖化防止活動推進センター 愛媛県における温暖化防止活動をサポートし、実践活動、情報提供やコーディネートを行っています。

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