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COLUMN&INTERVIEW

これからの時代を生き抜くために ―非認知能力と環境教育から― 第2回 わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい!

1 すでに50年ぐらい前には…

さて、今回は非認知能力が注目を集めている背景について説明していきたいと思います。(第1回目の内容はこちら)

その前に、みなさんは今回のこのタイトルをご存知ですか?

ご存知の方は、きっと私世代または私より上の世代の方になりそうですね。

このキャッチコピーは、1970年代に丸大食品(丸大ハム)のCMに使われていた有名なコピーですね。

私の記憶では、小学生の頃にも流れていたはずです。実はこのコピー、認知能力と非認知能力を使って説明できるんです。

・わんぱくでもいい→認知能力だけの頭でっかちでなくていい
・たくましく育ってほしい→「たくましさ」のような非認知能力を育てていってほしい

…といった具合でしょうか。

つまり、いまから約50年前にはすでに非認知能力のようなものが大切だと大々的にPRされていたことになります。

もちろん、このCMだけではありませんよね!

「粘り強く」とか「あきらめないで」とか「人に優しく」といった言葉を、私たちは子どもの頃からそこかしこで投げかけられてきたはずです。

まさにこれこそが、非認知能力という名称は新しいけど、それぞれの力については以前からも大切にされてきたという理由です。

しかし、このCMから約50年も年数が経って、時代は大きく変化しました!

この変化と共に、子どもたちに「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」という願望は、子どもたちが「たくましく育たなければマジでヤバイ」という危機感へ変わったといっても過言ではないでしょう。

言い換えるなら、私たち大人は子どもたちをたくましく育てていかなければならない、ということになります。

2 AIに仕事が奪われる!?

時代の変化といえば、私が大学生の頃に使っていたポケットベルは、携帯電話へと変化し、いまとなってはスマートフォンにまで進化を遂げています。

実は、この間たったの25年ほどしか経っていないから驚きですよね。

そして、ここから約25年先の2045年には、シンギュラリティ(技術的特異点)といわれる飛躍的に科学技術が進歩する時期を迎えるそうです。

さらに、2007年に生まれた子どもの2人に1人が107歳まで生きられるといった推測も出されています。

いわゆる人生100年時代ですね。

これだけ見ても、少し先の未来が大きく変化していることを簡単に想像できそうですが、そこに拍車をかけたのが新型コロナウィルスでしょう。
最早、2年前の当り前が当たり前じゃなくなったことは、世界中の誰もが痛感しているところです。

こうして時代の劇的な変化に直面する中で、私の頭の中では、「世の中で生き残るものは、強いものではない、変化に対応できるものだ」というダーウィンの言葉がよぎってしまいます。

さて、コロナ禍の前から時代の劇的な変化を象徴していた一つに、AI(人工知能)があります。

AIは50年前と比べて圧倒的な存在感を出しています。
そして、日本で働く2人に1人が仕事を奪われるといわれるようにもなってしまいました。

でも、ちょっと待ってください!

私たちは、AIに仕事を奪われるととらえてしまってよいのでしょうか?

そんな後ろ向きなとらえ方ではなく、私たち人間がAIとパートナーを組んで、より豊かな社会を創り出していくという前向きなとらえ方はできないものでしょうか。

たしかに、AIは情報処理や情報管理などのいわゆる認知能力がすごいです。
人間よりも速くて正確、さらには24時間365日フル稼働できるわけですから、こんなに頼もしいことはありません。

そして、いまもなおAIの認知能力は向上し続けています。

しかし、そんなAIにできないといわれているのが、相手のわずかな表情や言動の変化に気づいて何があったのかを想像的に考えること、そして世の中の課題を発見してその課題を創造的に解決することなのです。

このように共感しながら他者に働きかけることも意欲を持って創造的に課題解決することも、人間が得意とするところであり、人間が世の中で果たすべき役割なのです。

そして、これらが非認知能力に紐づけられていることはもうおわかりでしょう。

つまり、この50年間でAIが認知能力に紐づく役割を果たしてくれるようになったおかげで、私たち人間は仕事を奪われるのではなくて、AIへその役割を任せられるようになったのです。

そして、私たち人間はAIにはできない、人間だからできる役割をより一層期待されるようになりました。

この人間に期待されている役割を果たすために必要な力が、近年では非認知能力と呼ばれるようになって、注目を集めているわけです。

3 日本の学校教育はいま…

しかし、だからといって認知能力が不要になったわけではありませんのでご注意ください!

前回も説明しましたが、ゴミの分別を的確にできるようになって地球環境を守るためには、認知能力も非認知能力も必要でした。

つまり、認知能力と非認知能力はどちらも大切なのです。

ただ、これまでは学校教育や受験勉強の中ではっきりとした形で育てるべきものだった認知能力に対して、なんとなく勝手に育ってくれていればよかったのが非認知能力でした。

それがいまでは、非認知能力も認知能力と同様に、人間だからこそ伸ばしたい力としてお座なりにしてはいけなくなってきたのだとご理解ください。

こうして、時代の変化と相まって近年注目を集めている非認知能力ですが、学校教育でも大きな変化が起こり始めました。

それが、新しい学習指導要領ですね。

学習指導要領の中には、もちろん知識・技能といった認知能力や思考力・判断力・表現力といったものが「生きる力」の柱となっています。

そこに、新たに加わった柱が「学びに向かう力・人間性等」といった非認知能力です。

ちょうど、2020年4月に小学校が、2021年4月に中学校が、この学習指導要領によって学校教育を開始しています。
高校は来年の2022年4月からです。

先ほどのような背景によって、学校教育も変化を始めており、同時に大学入試などにも単なる知識だけを問う問題から、自分の考えを述べたり、周囲と議論したりといった問題が積極的に導入されるようになりました。

このような教育の変化が現実に起こり始めていることも、非認知能力と関連付けてぜひ知っておいてください。

(なかやま よしかず)

出典:中山芳一(2018)『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』
同(2020)『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
いずれも東京書籍より刊行されています

この記事を書いた人

中山 芳一(なかやま・よしかず)

岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授 1976年1月生まれ(45歳)、岡山県岡山市在住 岡山大学教育学部を卒業後に岡山市内で学童保育指導員として9年間勤務。その後、学童保育の社会的価値と理論化の必要性を強く感じて、研究者を目指す。 大学院で教育方法学を学び、学童保育や乳幼児保育、さらには小中高から大学までの様々な現場で実践研究に従事する。現職の岡山大学では学生たちのキャリア教育を担当。 これらの経験から、あらゆる年代においてテストで点数にできない非認知能力を伸ばすことの意義と方法について執筆活動や講演活動を通じて全国各地へ発信している。 主な著書には… 『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍;2018) 『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍;2020) 『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP;2021) など多数

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