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COLUMN&INTERVIEW

SDGs連載【第7回】薬局の看板にSDGs?保険調剤薬局がSDGsに取り組む理由とは!?/今治市 平野薬局

持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標「SDGs(エスディージーズ)」。
今回は、このSDGsに関する取り組みをご紹介する連載の【第7回】。2018年に地域ESD活動推進拠点に登録された平野薬局の代表であり薬剤師の松田泰幸さん、同社SDGs担当の伊藤ことみさんにお話をお聞きしてきました!

「健康と環境は表裏一体」と語る松田さん。
同社がエコやSDGsに取り組むようになったきっかけ、社員がSDGsを「自分ごと」にするための取り組み、さらには”処方箋が無くても立ち寄れるような薬局”にするためのビジョンまで、詳しくご紹介します。

プロフィール紹介

株式会社 平野 代表取締役・薬剤師
松田 泰幸さん

株式会社 平野 SDGs担当
伊藤 ことみさん

平野薬局は1953年、菓子や果物を販売する「平野屋」に併設する薬店という形で創業。
1980年には、調剤専門薬局を開局。現在は、今治市で保険調剤薬局を7店舗運営する。
その他にも、通院が困難な方に向けた在宅業務や、介護施設への訪問による薬の受け渡し・服薬指導、一般薬の販売ほか、料理教室・ヨガ教室・健康づくり教室といったヘルスケア事業など、幅広いサービスを提供している。

2016年には、eco検定アワード2016エコユニット部門にて優秀賞を受賞。
2018年には、地域ESD活動推進拠点に登録。
さらに2020年には、環境ひとづくり企業大賞2019中小企業区分において優秀賞を受賞した。

(参考URL)
▶︎eco検定アワード/東京商工会議所
▶︎地域ESD活動推進拠点/地域ESD活動支援センター
▶︎環境ひとづくり企業大賞/環境人材育成コンソーシアム

(左)松田泰幸さん(右)伊藤ことみさん

健康と環境は表裏一体。会社の理念とSDGsのゴールがリンク

–薬局である貴社が、環境問題に取り組むことになったきっかけは何だったのでしょうか?

松田泰幸さん(以下、松田):
そもそも当社は、薬局として薬をお渡しするだけではなく、お客様のQOLをアップさせること、健康になってもらうことを経営理念に掲げています。

「健康」と「環境」は表裏一体で、健康な暮らしは環境に大きく依存します。そういった背景から、2009年より環境問題への取り組みをスタートしました。

まずはみんなでエコの基礎知識をつけようと「eco検定」の受験をスタート。

これは、地球・環境問題・持続可能な社会に向けたアプローチなど、エコに関する幅広い知識を問われる試験で、当社ではほとんどの社員が受験し、知識を身につけています。

さらに、2013年には環境省が定めた環境経営システムに関する第三者認証・登録制度である「エコアクション21」を取得しました。

(参考URL)
▶︎参考:eco検定/東京商工会議所
▶︎参考:エコアクション21/一般財団法人 持続性推進機構

–社員みなさんで、エコに関する知識をつけられたと。SDGsもその一貫なのでしょうか?

松田:SDGsの取り組みをスタートしたのは、つい2年半ほど前のことです。愛媛県中小企業家同友会が主催するSDGsに関する勉強会や、SDGs関連のフォーラムに参加し知識を深めると、SDGsのゴールと当社の方針がリンクしていることに気付いたんです。

当社は「健康で環境にやさしい暮らしの実現」を目指し、薬局を運営してきました。これが、薬局が目指すべき本質だと思っています。これはいわば「持続可能な未来」のこと。SDGsのゴールを達成することで、当社の理念の達成につながるということになります。そこで、会社をあげてSDGsに取り組むことになりました。

令和元年にオープンした平野みらい薬局 看板にはSDGsのロゴマークが

自分たちの業務とSDGsのゴールを紐付け、重点ゴールを設定

–社内で、どのように取り組みを進められたのでしょうか?

松田:会社として、トップダウンで「SDGsやりなさい」ではなく、みんなで取り組むキーワードとして進めました。伊藤さんのような、若手の総合職の方々に中心となってもらい「SDGsとはこういうこと」という資料を作ってもらったりして…

伊藤ことみさん(以下、伊藤):
実は私が入社した時、名刺に「SDGs担当」と書いてあるのを見て、正直「何これ!?」と思いました(笑)SDGsについて、入社まで知らなかったんです。でも、その後SDGsに関するフォーラムに参加したり、有識者の方々とワークショップをしたりする中で、自分たちにできること、会社で取り組めることは何か、ということを考えるようになりましたね。

松田:入社して間も無い若い社員が頑張っている姿を見て、ベテラン社員も「自分たちもやらないと」という思いが芽生え、会社全体で取り組むことができました。本当に彼女たちには感謝ですね。

–SDGsに関して、具体的にどのようなことに取り組まれたんでしょうか?

松田:まず、SDGsのゴールと自分たちの業務を結びつけて考えるワークショップを開催しました。SDGsは新しい考え方ではなく、私たちの仕事の延長線上にあるもの。自分の仕事や会社としての業務がどの目標と繋がっているのか、各自で考えて紐付けしました。

–SDGsと業務を関連づけた結果、どのようなことが見えてきたんでしょうか?

松田:本業と関連する7つのゴールを抽出しました。その中でも特に関連の深かった4つについては、平野薬局としての「重点ゴール」として位置付け。SDGsの目標を通して、会社として、個人として目指すゴールが明確になりました。

▶︎SDGsについて/平野薬局

–「経営指針」にも、SDGsを取り入れられているとか。

松田:はい。当社は、年に一度「経営指針」を発表しているのですが、各自がSDGsと関連付けた個人目標を設定し、その全員分を指針書に掲載しています。皆、迷った時はこの指針書を見直し、行動指針にしたり目標を振り返ったりしていますね。

これは「ゴール8:働きがいも経済成長も」に関わることですが、この経営指針を検討するタイミングで、労働環境や就業規則の見直しを目的とした”働きやすさ”に関するアンケートも実施しています。そこで、組織として弱い部分・強い部分を洗い出し、弱い部分については「課題」として取り組んでいます。

当社は圧倒的に女性社員が多いため、「女性が働きやすい職場」にするのが命題。なので、例えばご主人の都合で県外に引っ越してしまう総合職の方をフルリモート勤務にしたり、男性社員の方も育休を取得してもらったりと、社員のニーズに沿った新しい取り組みを積極的に進めています。

39期間(2020年度)の経営指針書

処方箋が無くても立ち寄れるような薬局へ

–貴社としての、今後のビジョンはありますか?

松田:当社の2025年までのビジョンとして「健康なときも、そうでないときも、一番に思い出してもらえる存在でありたい」を掲げています。

それに向けた取り組みの一つとして、管理栄養士さんの採用を積極化しています。「医食同源」という言葉があるように、健康作りは日頃の食生活が大切。食事について、その分野のプロが薬局にいるということは、非常に心強いことです。例えば骨を丈夫にするというテーマでカルシウム豊富な料理レシピを紹介する健康教室を開催してもらったり、健康に関する掲示を作ってもらったりしています。また、薬を取りに来られる際に、栄養相談もできる体制にしています。日頃から予防や未病について意識を高めることで、手遅れになって薬が増えたり、入院したりする患者さんを少しでも減らせればと思います。

伊藤:私も、処方箋が無くても立ち寄れるような、そんな薬局にしたいと思いますね。薬の飲み方や健康について、気軽にしゃべって帰れるような薬局づくりを目指していきたいです。

平野みらい薬局店内 健康レシピの掲示やエコショップも

–SDGsは、2030年をゴールとしています。貴社として目指すゴールはありますか?

松田:おっしゃる通り、SDGsは「2030年までの目標」ですが、ここは通過点かなと考えています。「健康づくり」自体は、ずっと続く終わりのないもの。永遠に関わっていく課題ですね。

ただ、将来的にはSDGsに関する連携先が増えていて、当社だけでなくさまざまなステークホルダーと一緒になって取り組んでいければいいなと思っています。

編集後記

平野薬局さんには、病気や健康に関するコラム、管理栄養士さんが作成されたレシピ、エコ活動など幅広い情報が記載されている「平野医薬だより」という冊子があり、取材させていただいた7月には400号を迎えられました!1987年に創刊されたという事で、当時から「薬を渡すだけではない」という姿勢で経営されていたことが垣間見えます。

今回の取材で、平野薬局さんの中でSDGsが浸透する過程がとても美しく理想的だと思いました。まずはみんなで知識を身につけ、そのあと業務に紐づけることで「自分ごと」とし、具体的な目標に落とし込む。こうやって、多くの組織でエコやSDGsについての意識が高まり、それがどんどん広がっていけば、SDGsのゴールも見えてくるのかも知れません。

この記事を書いた人

三神 早耶(みかみ・さや)

愛媛県松山市在住。大学卒業後、広告代理店の営業や進行管理などを経て、2016年からフリーライターに。ビジネスメディアや、地元経済誌、企業のWebサイト等において、取材や記事の執筆をしています。私生活では2児の母。趣味はキャンプと仕事。

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