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COLUMN&INTERVIEW

絵本で世界のプラスチック問題を解決する壮大な夢

地球温暖化を意識し始めた頃、プラスチックが環境を汚染し地球温暖化の要因の一部になっていると聞いた事があります。

その後、マイクロプラスチックといった微小なプラスチックが海洋生物の生態に小さくない影響を与えている事も知りました。

そんな大人でも難しいと敬遠しがちな話を、子どもでもわかりやすく、世界中の人が手に取れば理解できる事を目指して描かれた絵本があります。

つなげ ビニーのゆめ

今回は、この絵本の作家でありプラスチックの問題解決の為に絵本を世界の子どもに届ける事業を展開している南大樹(みなみ たいき)さんにお話しを伺っていきます。

南大樹さんプロフィール

2000年生まれ。小学生時代を経済成長真っ只中のインドで過ごす。中高と東京で野球に明け暮れ、高3の夏には東東京準優勝を経験する。

高校卒業とともに自分が好きなことをするのを辞め、使命感を大切にする生き方を始める。神戸大学へ進学し、アルバイトをしてお金を貯めて、パキスタン・ネパール・ウガンダ・ケニアなど様々なところへ赴き、スポーツの普及活動に取り組みつつ、様々な世界の片隅を自分の目で見て感じる。その中で感じたことをもとに、ゴミに関する環境活動を始める。

その後、精神的及び哲学的な苦しみと向き合う中で、「生きる」と向き合い直す必要性を感じ、岡山県の山間の空き家を購入して移住。最近はひたすら土との対話を続けている。

海外での経験がゴミについて考えるきっかけに

――南さんは大学進学後にお金を貯めて様々な国に行かれたとのことですが、海外ではどんなことをされていたのですか?

――南大樹さん(以下、南):もともとアジアやアフリカなど様々な国に行き、ストリートサッカーをしている子どもたちに混ざって一緒にサッカーをして、ハイタッチをして帰る、ボロボロのボールを使っている子どもたちにはボールをあげて帰るという活動をしていました。その中で、道に落ちている大量のゴミに目が行くようになりました。

――たくさんのゴミが…現地の子どもたちはこのゴミについてどう思っていましたか?

――南:たくさんの子どもたちが、ゴミだらけで臭くて汚い場所で最高の笑顔でサッカーをしているんですね。

ある時、サッカーをしたあとに子どもたちに一緒にゴミを拾おうと言ってみました。そしたら「なんで?」と鼻で笑われてしまいました。

ここから、なぜこのゴミがここまで道に散乱しているのかということを考えていくことになりました。

教育・文化・歴史、あらゆるものが現実を創り出す原因に

――このような現状についてまずどのようなことを考えられたのでしょうか?

――南:まず行きあたったのが「貧困の正義」でした。これは僕が小さい頃にインドに住んでいた時に知ったことでもありました。

世界の発展途上国と呼ばれるような多くの国が同じような状況なのですが、「最貧困層」がかなりの数いるのが現実です。

その人の中には、道端に落ちているゴミを漁って、リサイクルできそうなプラスチックなどを集めて業者に持っていくんですね。それで数十円のその日暮らしのお金を稼ぐわけです。

つまり、現実的な話をすると、道端に落ちているゴミを無くしてしまうと、そういった人たちの仕事がなくなってしまう可能性があります。そうなんです。多くのポイ捨てする人、また、それを悪いと思わない人はこれを主張するのです。

「ポイ捨てを無くしたらゴミ拾いの仕事が無くなるじゃないか。」「ゴミをポイ捨てするのは、仕事を与えているということなんだ。」と。

ゴミをポイ捨てすることが「正義」になるという主張がまかり通っています。

――「ゴミをポイ捨てすることは正義」という考えに驚いております。

――南:そうですね。次に「インフラの貧弱性」があります。そもそもゴミを拾っても、捨てる場所がありません。ゴミ箱が少ないのです。なぜなら「ゴミ収集車」が来ない場所が多いからです。

ゴミ収集車があんなにちゃんと来る日本は実はとても珍しいです。途上国ではゴミ処理場の数自体が少ないとされています。そこにコストをかけられないのが現実です。それに日本のようにどこでもコンクリートの道があるはずもないので、ゴミ収集車が通れない、あるいは行けない場所がたくさんあります。

――確かに、日本とは違って道路が整備されているところは少ないイメージです。

――南:他にも日本と違うところがあると考えたのが「教育と文化性」です。

日本では昔から、ほぼほぼ単一民族で、他国に支配されることなく、豊かな自然環境と共に独自の文化を育んできました。例えば鎖国下にあった江戸時代では、今では考えられないほどの循環型社会が成り立っていました。

「もったいない」という言葉が最も象徴的ですが、こうした歴史の中で「使い終わったモノも大切にする」「毎日のように掃除をする」などなどといったことを家庭でも学校でも教えられて育つ環境が創られました。そんな美徳的文化性は日本独自のモノなのです。

海外はそんなことはありません。学校の先生の方が子どもの前で堂々とポイ捨てをするし、親も子どもの前でなんの悪気も無くポイ捨てをします。

多くの途上国は一度列強の植民地となりました。そこで強制的に近代化させられた、もしくは近代化の道具にされた国が多く、自国のもともとあった文化や精神性がたくさん破壊されました。今では田舎の村人たちでさえも、大量生産・大量消費への憧憬はとても強いのです。

プラスチックの生産量が突如急激に増え始めたのが1950年以降ですが、もともとゴミの大半が自然物だったわけですから、ポイ捨てをしてもどこか川に流してもたいして問題はなかったわけです。突如入り込んできたプラスチックに対して、適切な意識の転換が図られなかったツケが今も尾を引いているのです。

それは、強制的な近代化のせいで風土に根差した文化性が破壊され、近代への憧憬が強くなり過ぎたせいで、自分たちの力で問題意識を持って自分たち自身の文化性を更新することに至らなかったということでもあります。教育・文化・歴史、あらゆるものが現実を創り出す原因となっているのです。

自分自身の気付き、そして絵本を出版することを決意

――この経験は南さんご自身にどのような変化をもたらしたのでしょうか?

――南:これらのポイ捨てをする原因に気づいたあと、「なんでポイ捨てしたらダメなの?」と聞かれたら答えられない自分がいることに気が付きました。そこでポイ捨てをしてはいけない科学的な根拠を探し始めました。

そこで「海洋ゴミ問題」の存在に初めて出会いました。たくさんの海洋生物がプラスチックを誤飲していること、酷い場合にはそれで食欲減退が起こったり体調不良が起きて死んでしまったりという現状を知りました。さらには2050年には海の魚の量よりもゴミの量の方が多くなるという話を聞き、美しき景観としての「海」も失われつつあることを知りました。

そしてなんと、その出所のほとんど(約6~8割)が「街から流出している」というデータに行き着いたのです。びっくりしました。驚くことに、道端にあるゴミは巡り巡って海まで飛ばされることがあるというのです。川にゴミを流している村の人たちは、絶対にこのことを知らないし、ポイ捨てをする人も、このことを知らないと思いました。

この現実さえ知ってもらえれば、後の対策は各国、各市民、各文化の中で独自に行われていくべきだと思いました。なので、まずはこれを一人でも多くの人に伝えたいと思いました。

――なるほど、そして絵本を描かれることにしたのですね。

――南:はい、この現実をどのように途上国の人に伝えていくかを考えた時に、「絵本」というツールに行き着きました。

大人の人に、他国から来た青年がこの現実を伝えても多くの人が見向きもしないだろうし、鼻で笑うだろうと思いました。世界中を回って講演会をするわけにもいかないし、日本のいち学生が突然途上国の国の政府に押しかけて、「これは問題だ!」と言っても相手にされないことは目に見えていました。

そこで「子どものチカラ」に託すしかないと思いました。今の時代なら啓発動画をYouTubeにあげるなどといったやり方がコストも低く抑えられて有効なのではないかとも思いましたが、僕が届けたかったのはデバイスなど持っていない子どもたちでした。

そこで現実的に名もなき学生の僕にできることは絵本を描くことくらいしかない、そしてそれをより多くの子どもたちに届けて、心を動かして現実を知ってもらうしかないと思ったのです。

絵本の絵を描いてくれたのは友人です。全国の50名近くの大学生がこのプロジェクトに関わってくれて、制作や宣伝などを一緒にやってくれました。

そんな過程を経て、1年かけて作ったのが絵本『つなげ ビニーのゆめ』でした。

素人絵本なのでクオリティは低いですが、伝えたいメッセージはたくさん詰め込みました。YouTubeに読み聞かせ動画がアップされているので、もしよろしければ見てみてください。
https://www.youtube.com/channel/UCKzbG6xQqcrWPPkoixb8m7w

――私も購入しました。とても素晴らしい内容でした。

――南:ありがとうございます。この絵本で子ども以外に伝えたかったことは、人間の不誠実性についてです。

人間はたかが”いち生物”にすぎませんが、想像をする力に長けています。しかし、それを人間中心の想像に留めてきたのが近代の本質でした。

これからの時代を創っていく中で「環世界(それぞれの生物の感じる世界)」に思いを馳せることは非常に重要だと考えています。

その中で有機物と無機物の境をつけるのもなんだか失敗の原因な気がしたので、主人公をビニール袋にすることで、無生物にも魂を宿すアニミズム的な温もりを入れ込みました。

なぜかビニール袋はとてつもなく悲しむことになるのです。それでもビニール袋は強く生きるのです。人間の薄情さをひしひしと感じるようなそんな作品に仕上げました。

クラウドファンディングで総勢700名以上の方がご協力してくださり、日本の子どもたちにもたくさんの絵本を届けることができました。日本全国の幼稚園や保育園にも置かせていただいたりしています。

そして、海外版の絵本も数千冊印刷することができました。現在は、コロナの影響で受け入れを停止している国が多く、思うように配送できていませんが、これからゆっくりとたくさんの子どもたちに絵本を届けていく予定です。

JICAの青年海外協力隊の方も協力して下さったりして、少しずつ輪が広がりつつあります。途上国に足を運ばれる方などがいらっしゃいましたら、数冊数十冊でも絵本を携えて届けに行ってくださると幸いです。

――最後にこれからの活動の予定や続編や違う絵本を描く予定を教えてください。

――南:現在は、岡山県の山奥で「生きる」ということにひたすら向き合っています。生と死に対してもっと真摯に向き合っていたいし、その中で環世界を謳歌していきたいと思っています。

アーティストや作家や百姓など、色々な取り組みをしていますので、もしご興味があれば是非追ってみてください。https://www.youtube.com/channel/UCLnmzYTGYHJGR3h2EaZ3rQQ

絵本の二作目は、また時が来たら制作したいと思っています。

――南さん、ありがとうございました。これからの南さんの活躍にも期待、応援しています。

いかがだったでしょうか?

南さんには私がボランティアパーソナリティーでお世話になっている新居浜市のコミュニティFMラジオ「地球を守ろうラジオ」に電話でご出演していただいた経緯があります。

環境問題を子供向けにメッセージを込めた絵本にして世界に届けるというクラウドファンディングを立ち上げた大学生のその後を今回また取材させていただく機会が出来て興味深いお話しを聞くことが出来ました。

【参考】
この絵本を購入したい、応援したい場合はこちらのサイトで販売されています。(在庫わずか)
https://nan1art1abo.theshop.jp/items/41884529

地球を守ろうラジオ(不定期放送:HELLO NEW 新居浜FM78.0
2019年1月1日に放送された第一回目はECCCAの連載動画でおなじみの谷口たかひささん、第三回目はECCCAにご出演いただいています。

この記事を書いた人

秋山 直樹(あきやま・なおき)

新居浜子ども食堂ネットワーク(愛媛県新居浜市)事務局。 Hello New新居浜FMボランティアパーソナリティー、tokyo2020聖火ランナー。 コミュニティFMラジオでは障がい者の支援事業所を紹介し障がいのある方の理解促進に繋げる番組や地球温暖化、フードロスと子ども食堂、農業等、社会的な問題を一緒に考えるきっかけになる番組作りを目指し活動中。 Hello New新居浜FM  https://www.jcbasimul.com/radio/860/

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