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COLUMN&INTERVIEW

愛媛で育まれた行動力と忍耐力。15年の時を経て開花したお米の歯ブラシが解決するいくつもの課題

日本全国のホテルで使われている70%以上の歯ブラシが、愛媛県の4つの企業によって作られているということをご存じでしょうか。ホテル用歯ブラシは、愛媛の隠れた産業なのです。

新型コロナ感染症拡大による宿泊業に対する打撃に加え、原油や原料の高騰、さらには「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(略称「プラスチック資源循環法」、通称「プラスチック新法」)が2021年6月11日に公布、2022年4月1日に施行され、ホテル用歯ブラシというビジネスは次々に苦境に立たされました。

その渦中において、ホテル用歯ブラシの製造が追い付かないほど注文が殺到しているのが、愛媛の山陽物産株式会社です。

家業を継いだのち、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら柔軟に変化しビジネスを拡大している代表取締役の武内英治さんに、いま注目を浴びている“お米の歯ブラシ”の誕生ストーリーとサステナビリティへの貢献について聞きました。

(山陽物産代表取締役 武内英治 氏 画像提供:山陽物産株式会社)

開発のきっかけは1997年の「京都議定書」

読者の方は1997年に採択された京都議定書国際条約(通称「京都議定書」)について耳にしたことがあるかもしれません。京都議定書とは、京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された、温暖化に対する国際的な取り組みのための国際条約です。会議に参加した日本、アメリカ、EU、カナダ、ロシアなどの先進国全体で温室効果ガスを2008年から2012年の間に1990年比で約5%削減するという目標を定め、国・エリア別にEU8%、アメリカ合衆国7%、日本6%削減することを約束しました。

当時、プラスチックを主原料として商品を作っていた武内社長は、京都議定書の採択に瞬時に危機感を感じました。

山陽物産の製造していた歯ブラシをはじめとするアメニティのほとんどが、一度使われたのちに処分されるホテル向けのものでした。何かできないかと、使用された歯ブラシやカミソリ、ヘアブラシの回収も考えましたが、非効率的だと判断。環境問題についての話題や情報が限られ、カーボンニュートラルという言葉がまだ登場していない時代だったため、武内社長は使用するプラスチックの削減に取り組むことを決めました。

プラスチック削減のために代替となる素材を探す中で、武内社長はお米から作られる「ライスレジン」に出会います。ライスレジンとは、古米や破砕米など食用に適さないために廃棄されている米から作られるバイオマスプラスチックです。カーボンニュートラルであると同時に米の廃棄量を削減します。

武内社長はこの素材を使って、歯ブラシとしての強度と取引先が納得できる価格をクリアできる方法を模索しました。バイオマス原料の割合が高すぎると割れたり焦げたりしてしまい、最終的に30%という配合量で商品化に漕ぎ着けましたが、価格はどうしても従来の商品に比べ1割程度上がってしまいました。当時はまだサステナビリティに対しての意識が生活者の中で高まっておらず、環境に配慮したアメニティがホテルの付加価値とならない時代。当時の取引先の反応は「現行商品と同じ値段価格なら・・・」というものが多かったといいます。

「お米の歯ブラシを作ってはみたものの、15年間全然売れなくてもうやめようと思ったこともありますね」

もう止めてしまおうか・・・そんな考えがちらつきながらも、加速していく環境に対する世の中の動きを見て、同じプラスチックを使った商品を作り続けていてもいつか限界が来るだろうという予測は間違いではないはずだと、武内社長はさらなる模索を続けました。

流れを大きく変えた商品リニューアル

配合するライスレジンの割合や、歯ブラシの強度を確認しながら柄の部分をくり抜くなど、研究を重ねながら、価格面でも既存のホテル向け歯ブラシと比較検討されるレベルへと商品を改良することができ、サステナビリティへの取り組みがしっかりと伝わるようにとバイオマスマークも取得。2020年の東京オリンピックに合わせ、消費拡大やインバウンドでの消費拡大を予測し、2020年2月、満を持して業界初「生物由来資源(バイオマス)を配合したホテルアメニティシリーズ」としてリニューアル発売しました。

(お米の歯ブラシは約51%のポリプロピレンを削減、お米のヘアブラシは約52%のポリプロピレンを削減。画像提供:山陽物産株式会社)

しかしながら、新型コロナ感染症拡大防止のため2020年のオリンピック開催は1年延期され、2021年に海外旅行者や観戦者を大幅に削減した開催となりました。コロナ禍において宿泊業は苦戦を強いられ、連動してホテルアメニティの需要も減るという苦難を強いられました。

しかし、山陽物産にとっては追い風が強く吹きました。それが2021年6月11日に公布された前述のプラスチック新法です。プラスチック新法に対応できる商品として、お米の歯ブラシはTVや新聞、ネットニュースなどに次々に取り上げられ話題となり、今では生産が間に合わないほどになりました。

情報発信が生み出した売上と社員の幸せ

この成功要因として大きかったのが、発売時のモメンタムを最大化するために力を注いだ情報発信です。発売前に出展した2019年12月のエコプロ展(環境配慮型製品・サービスの展示会。毎年12月に東京ビッグサイトで開催)やPRリリースの配信が、メディアや企業と接点を生みました。

まだプラスチック新法が登場していなかったためすぐにメディアに大きく取り上げられることはあまりありませんでしたが、近年のSDGsの認知拡大も相まって少しずつ露出が増えました。そのメディアの情報に接触した他のメディアから問い合わせが増え、さらにプラスチック新法が制定されたことにより、引き合いが爆発的に増えました。

また、メディア露出は直接的な売上への貢献だけでない効果もあると武内社長は言います。それは従業員への影響です。自分の働いている会社や自分たちが関わっている商品が環境課題の解決に役立ち、そしてTVで紹介されているという様子を目の当たりにすることは、彼らの仕事への誇りや幸せにつながっていると、武内社長は嬉しそうに話します。

お米の歯ブラシが解決する脱炭素以外の課題

なかなか売れなかった15年の間、環境問題について様々なことを学び、人との出会いもありました。

熊本県阿蘇市役所の方の訪問を受けた武内社長は、休耕田が増えると水害に弱くなるという問題を知ります。ここ数年、日本各地で大雨による深刻な災害が起きています。お米の歯ブラシの生産が増えれば、その原料となる破砕米、 備蓄米、工業米などの非食用米が必要になり、休耕田である耕作放棄地での工業米の生産が必要になってきます。休耕田が利用されることは災害対策に役立ち、さらに雇用創出にもつながるという、脱炭素以外への社会貢献のポジティブな側面もあるということを知り、さらにやりがいを感じたそうです。

廃棄の課題に同業他社が協力し取り組む

お米の歯ブラシも、分別の基準はプラスチックとして扱われます。バイオマス原料を使うことで燃焼時に放出される二酸化炭素の量は50%削減できていますが、廃棄についてはまだ課題が残されています。その課題への取り組みとして、プラスチック新法をきっかけに全国の同業他社が協力して回収方法を考えるという動きが出てきています。

「全国のホテルアメニティ製造業者8社に声がけをしたら、8社すべてが集まったんです。今までライバル同士が協力するということは考えられなかったんですが、各社が業界全体の問題として取り組まなきゃいけないと感じていることが伝わってきました」

8社で廃棄歯ブラシを原料に戻す会社を探し、対応できる企業をようやく1社見つけたところだそう。これは、ホテル向けだけでなく将来的には一般流通の歯ブラシのリサイクルにもつながることも期待できます。

同業他社が協力して環境問題に取り組むという動きは、ファッション業界、化粧品業界でも始まってきています。複数の企業がタッグを組むと、1社で行うよりもスピード感があり、環境へのインパクトも大きくなります。今後こういった動きは他業種でも増えていくのではないでしょうか。

お米の歯ブラシが次に目指すもの

武内社長はお米の歯ブラシをホテル向けにリリースしたのち一般販売も開始し、そして現在アジアへとビジネスの場を広げています。お米の歯ブラシをはじめとしたバイオマスシリーズを、台湾、タイ、ベトナムといったmade in Japanのクオリティに信頼感のある国へ向けて紹介していると言います。

武内社長が掲げるモットーである

“時代の変化に合わせた商品を提供する”

を体現する武内社長。豊富なアイデアの源泉は常に高く張ったアンテナであり、成功の影にある幾多の失敗や壁に立ち向かう強さではないでしょうか。初めての試みでもまずはやってみるという行動力は、愛媛で育まれ、そして日本全国や世界へと広がっています。山陽物産から今後登場する商品にも注目したいと思います。

ECCCA ×YUIDEA共創プロジェクトとは

ECCCAは愛媛県の地球温暖化防止活動支援推進センターとして、地域環境を入口としたサステナブルな想いと情報を地域に届けるWEBサイトの運用を行っています。株式会社YUIDEAは企業や団体のマーケティングコミュニケーションやサステナブル・ブランディング支援を行う一方で、オウンドメディアを運用しています。

相互のゆかりの地から繋がる「人・場所・産品・取り組み」などを取材し、環境や気候変動、サステナブルな観点からコンテンツとして紹介し合うことで、新たなつながりを生み、ひろげていく共創プロジェクトです。

この記事を書いた人

吉田 凪沙(よしだ・なぎさ)

フランス建築資材輸入メーカーにてBtoBマーケティングに携わったのち、2つのアメリカ系化粧品ブランドにて12年以上勤務し、デジタルマーケティング、EC、コンシューマーエンゲージメントに従事。YUIDEAではサステナブル・ブランディング事業の立ち上げに参画し、マーケティング、ブランディングを担当している。https://sb-journey.jp/

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