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COLUMN&INTERVIEW

環境都市フライブルク市と松山市のつながり、そこから生まれる未来へ向かう取り組み

「身近な自然があってこそ私たちの営みがあり、地球があってこそ松山の環境があります」との想いに基づき、

愛媛県松山市は、市と市民・事業者・団体が協働して地球にやさしい日本一のまちを目指している。その松山市は、環境政策の先進都市として知られるフライブルク市と長年にわたり姉妹都市として交流を深める。環境を大切にする志を持つ2つの都市がどのようにつながり、そのつながりから生まれるアウトカムがどのように市政や市民生活に活かされているか。松山市役所 観光・国際交流課 土居幹也氏と、環境モデル都市推進課 石丸梨香氏に話を聞いた。

環境都市フライブルク市と松山市の交流

フライブルク市(フライブルク・イム・ブライスガウ)はドイツの西南端、フランスとの国境近くに位置する。1992年にはドイツ国内における「環境首都」に選ばれ、環境政策の進んだ都市として有名だ。なかでも交通政策は徹底している。CO2削減に市全体で取り組んでおり、市内中心部への自動車の乗り入れを制限して自転車専用道路とし、公共交通機関のトラム(路面電車)の拡張工事も推進する。2012年時点で、フライブルク市における自動車登録台数は40%弱で、自動車より徒歩・自転車・公共交通機関を活用するライフスタイルが浸透していることがわかる。

(自転車や徒歩が主な移動手段となっているフライブルク市街)

一方、愛媛県松山市も市役所に環境モデル都市推進課を設け、「環境モデル都市まつやま」として持続可能な脱炭素社会を実現するために、地球温暖化対策・環境教育・環境美化の推進に関する事業を推進する。

フライブルク市と同様に市街地に路面電車が走る松山市でも、公共交通をはじめ、歩行者や自転車に配慮した「歩いて暮らせるまちづくり」に取り組む。この他、自然と都市が調和する地球にやさしい日本一のまちを指し、環境全般に関する総合的な計画のもと、様々なイベントを開催したり、市民への啓発活動を行ったりしている。

(松山市の環境モデル都市の取り組み概要)

では、フライブルク市と松山市は何をきっかけにつながりが生まれたのだろうか?

「環境への取り組みから繋がりが生まれたのではなく、もともとは人材交流から始まったのです」と土居氏は説明する。交流の始まりは、1961年にまで遡る。戦後の産業復興を図ろうとしていた松山市が、同じく戦後にめざましい復興を果たした西ドイツへ青年派遣を計画した際に、快く引き受けてくれたのがフライブルク市であった。それから両市は相互交流を続け、1985年には4月にフライブルク市長が来松、8月には松山市の中学生がフライブルク市を訪れたのを機に、両市の友好交流は大きく進展した。そして1989年に松山市は、友好交流を続けてきたドイツ・フライブルク市と姉妹都市提携を結ぶに至った。

両市の交流は、文化から経済まで幅広い分野に及ぶが、とりわけ昨今では環境シンポジウムの開催など環境をテーマとした交流が活発だ。

文化面では、1990年に松山市が、フライブルク市に日本庭園を建設。門や石垣、灯籠など趣向が凝らされた本格的な日本庭園で、日本文化を身近に感じさせる場所となっている。そして松山市にも、友好の証として松山市内の公園内にフライブルク庭園が建設された。ここには有名なモニュメントである大聖堂をイメージした塔など、フライブルク市の様々なものがモチーフとして導入されている。

(左:松山市内にあるフライブルク庭園と 右:フライブルク市内にある日本庭園)

他にも、フライブルクバッハ合唱団と松山バッハ合唱団が合同で「姉妹都市交流演奏会」を相互の都市で開催したり、フライブルク市のアーティストによる「5人の芸術家展」を開催したり、映画制作者が姉妹都市に関する映画制作のため来松したりと、文化・芸術における交流も盛んだ。

環境・市政における交流では、2016年2月にフライブルク市の環境保護局長が愛媛大学で開催された「地域主導による地球温暖化対策フォーラム」に出席し、温室効果ガス削減への取組みや脱炭素時代へ向けた都市政策をテーマに講演を行った。そして、同年10月には、フライブルク市で開催された「地域再生可能エネルギー会議」にて松山市副市長が出席し、松山市の環境施策について発表を行った。

2019年に姉妹都市提携30周年を記念してフライブルク市を訪問した際には、太陽光発電が導入されている市庁舎や気密性の高い環境住宅などを見学したという。そして同じタイミングで、“環境面でより効果的な協力をしよう”という目的のもと、松山市の環境学習施設「まつやまRe・再来館」とフライブルク市「エコステーション」によるエコフレンドシップ協定を再締結した。

「まつやまRe・再来館(りっくる)」を環境啓発の拠点に

まつやまRe・再来館(愛称:りっくる)は、ごみ減量・リサイクルを啓発し、気候変動について学習できる施設だ。環境保全に関連する展示や環境をテーマにした講座を頻繁に開催する他、松山市シルバー人材センターやハートフルプラザろはすと協力し、紙すき製品や着物のリメイク製品、古着、お菓子等の販売を行う。

フライブルク市の環境啓発施設「エコステーション」と連携協定を結び、ハーブ園や自然の生態系を身近に感じるビオトープを造るなど、市民の憩いの場として、子どもからお年寄りまで多くの世代に親しまれている場所だ。

(まつやまRe・再来館の外観、屋根には太陽光発電パネルが設置されている)

(まつやまRe・再来館にはハーブ園やビオトープもある)

運営は、当館設立に直接かかわった市民等が立ち上げたNPO法人「ふれあいエコクラブ」。環境意識の高い市民の集合体で、有償ボランティア約50名が日頃から熱心に議論を交わして企画運営をしている。例えば、まつやまRe・再来館で開催される「楽楽リサイクル講座」は、年間約200回以上開催。環境課題に関する学びだけでなく、寄せ植えや金継ぎなど、身近で自然に親しめたり、楽しみながら取り組めたりする内容も多く、子どもからお年寄りまで多くの世代にとって親しみやすく参加しやすいよう工夫が凝らされている。

(食品ロス削減をテーマにした、玉ねぎの皮でエコバッグの絞り染めを行う親子イベント)

環境教育、ESDを通じた子どもたちの国際交流

環境教育においても、姉妹都市であるフライブルク市との連携を強める。

まつやまRe・再来館では、公募による15名程度のメンバーで月1回程度の体験学習を通じて環境保全について考える「りっくるエコキッズ」という活動を行っている。この集大成として、エコフレンドシップ協定を結んでいるフライブルク市の環境啓発施設エコステーションと交流を行い、環境学習成果を発表しあった。

りっくるエコキッズは2021年度、「プラスチックって便利!でも、本当に必要?」というテーマで学習に取り組み、使い捨てプラスチックの必要性について考察した結果を発表した。

フライブルク市には海がないため、海岸の漂着ごみを見る機会がない。オンライン発表の際、エコステーションに集まった子どもたちは実際に松山市の海岸で集めたマイクロプラスチックを興味深く観察していたという。また、プラスチック製品が土や水の中で分解されるか、との実験に用いられたストローを見て、フライブルク市ではすでにプラスチック製のストローは使われておらず、代わりにガラスや紙で作られたストローを使っていると情報交換を行った。

2回目の交流会では、フライブルク市のエコステーションで学習をしてきた子どもたちは「チョコレート工場」と題し、フェアトレードについて考察するプロジェクトの成果を披露した。

チョコレートを作るうえで一番労力がかかる農家に行き渡るお金が一番少ない現状や、児童労働などを解消するためのフェアトレードだが、認証マークの中には根拠のないものもあり注意が必要だということ。カカオ農家を救済する方法として、チョコレート工場をカカオ生産国内に作り仲買人を減らすことが有効ではないか、これにより現地での雇用も生まれる等の考えを発表した。

(フライブルク「エコステーション」と、りっくるエコキッズがオンラインで交流した)

こうした取り組みを積み重ね、かつてりっくるエコキッズだった子どもが、市が主催する他の環境イベントに度々参加するなど、環境に関心がある層が育ってきている。

また、まつやまRe・再来館には自然環境学習を推進する「まつやま自然ネットワーク」という団体も活動しており、こちらは幼少期から自然に親しむ体験を増やせるようなイベントや情報を発信し、豊かな自然を未来に残すために行動する人々の輪をひろげる。

一方で、松山市が直接運営している環境教育も充実している。例えば、夏休み中には、松山市内の小学4年生から6年生を対象に体験型の環境講座「サマー!エコキッズスクール」を開催。松山市内の色々な企業・団体が講師を務める。たとえば太陽光パネルに関する製品およびサービス事業を展開する株式会社エヌ・ピー・シーは、太陽光電池でソーラーカーを走らせる企画を担当。あるいは古紙リサイクルをはじめ地域の資源再生をめざす事業を行う株式会社カネシロは、古紙回収の仕組みを学ぶリサイクル工場見学を担当した。

なかでも子どもたちの関心を多く集めたのは、港湾業務艇「くるしま」に乗って海上パトロールを行いながら松山近海のゴミ浮遊状況を調べるという体験イベントだ。四国地方整備局 松山港湾・空港整備事務所の協力のもと海洋環境について知識を深めながら、海洋環境問題について楽しく学んだ。

(「サマー!エコキッズスクール」で海洋環境問題について学ぶ子どもたち)

石丸氏によると、SDGsのなかでも「海の豊かさを守ろう」というゴールに興味・関心を示す子どもが多いという。参加者からは「ふるさとのきれいな海を守るために今後はボランティア清掃などに取り組みたい」「海のごみを回収する船の仕事があることを知り、海ごみに対する意識が変わった」「知ること、そして行動することの大切さを親子で学べる良い機会になった」等の声が寄せられた。

また、市主催で定期的に開催されているまつやまミニ環境フォーラムでは、食品ロスや海洋ごみ問題、生物多様性など最新の環境問題について市民が気軽に学べる機会を提供している。

環境問題は多岐に渡る中で、松山市ではより多くの市民に興味・関心を持ってもらうためどのように企画を立案し、運用しているのだろうか。

「企画に関わるメンバーは全員仲が良くて、ふだんのおしゃべりの延長のような感じで案を出し合っています」と環境モデル都市推進課の石丸氏は明るく笑う。「これはさすがに無理じゃないかっていうような無謀なアイデアからスタートすることもあります。そこから“これなら出来そう”という内容に調整していって企画を詰めていくんです。環境について知りたいけど、何から始めたらいいか分からない。そんな方のために堅苦しくない内容で、解説もわかりやすくすることは心がけています。」

身近に豊かな自然環境があってこそ、私たちの営みがある

松山市には川や海、そして山もあり、自然豊かな環境だ。それゆえに、冒頭に紹介した「身近な自然があってこそ私たちの営みがある」と実感しやすい環境だとも言えるだろう。地域ひいては地球環境を大切にしたいという想いの源泉としても、子どもの頃の原体験はとても大事な意味を持つ。

フライブルク市でも、松山市でも、子どもたちが起点となり「自分の地域を守りたい」と身近なところからできることを行動し、発信し、取り組みが広がっていく。

そもそも日々のくらしや企業活動を含め、あらゆる営みは、地球がなければ成り立たない。気候変動や環境課題への取り組みは「善行」ではなく、むしろ私たちが安心して幸せに暮らせる未来を守るために必要不可欠なのだ。

松山市とフライブルク市のように、距離が遠く隔たっていても、ひとつの想いのもとにつながり、交流をふかめることはできる。そうした国や地域のつながりが、さらに広範囲に展開していくことで、環境や社会にいい変化が生まれ、未来の当たり前ができていくのではないだろうか。

【参照サイト】
まつやまRe・再来館(愛称:りっくる)
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisetsu/kankyo/kankyouj_rikkuru.html
https://rikkuru.jp

まつやま自然ネットワーク(愛称:しぜんネット)
https://www.matsuyama-s-net.org/

ECCCA ×YUIDEA共創プロジェクトとは

ECCCAは愛媛県の地球温暖化防止活動支援推進センターとして、地域環境を入口としたサステナブルな想いと情報を地域に届けるWEBサイトの運用を行っています。株式会社YUIDEAは企業や団体のマーケティングコミュニケーションやサステナブル・ブランディング支援を行う一方で、オウンドメディアを運用しています。

相互のゆかりの地から繋がる「人・場所・産品・取り組み」などを取材し、環境や気候変動、サステナブルな観点からコンテンツとして紹介し合うことで、新たなつながりを生み、ひろげていく共創プロジェクトです。

この記事を書いた人

内藤 真未(ないとう・まみ)

広告代理店クリエイティブで経験を積んだ後、事業会社のハイファッションEコマース事業部のディレクターと編集に長く携わる。並行して、コーポレートサイト・EC・オウンドメディア等あらゆるWEBサイトの運営や広報に従事。2018年からはBtoC新規事業開発マネジャーを務めた。2021年にYUIDEA入社後はサステナブル・ブランディング事業推進責任者として、オウンドメディア『サステナブル・ブランド・ジャーニー』運営の他、プログラム開発やコミュニケーション設計の提案などを通じて企業・団体のサステナブル・ブランディング支援に取り組んでいる。 https://sb-journey.jp/

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