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COLUMN&INTERVIEW

100円で始めるサステナブル(3)貧困女性が起業家に!グラミン銀行の融資

今回は、貧しい人の自立を助ける「マイクロクレジット」という仕組みについて紹介します。

貧しさが借金の連鎖になるのはなぜ?

買い物で使うクレジットカード、住宅ローン、奨学金など。借入(ローン)は、必要なお金が手元にないときに、後で返す約束でお金を借りる便利なしくみです。

クレジットカードの「credit」は「信用」を意味しています。安定した収入があって信用が高い人は、安い金利でお金を借りることができます。

そうでない貧しい人たちは、高い金利でしかお金を借りられません。金利の支払いのため、借金に借金を重ねる人もいます。貧困の連鎖から抜け出せない原因の一つになってしまうのが、高金利の借り入れなのです。

例えば、審査を通過しなければ借りられない銀行の住宅ローンは、年1%を切る金利が珍しくありません。(2021年現在)

一方で、誰でもすぐ借りられる「消費者金融」では、年18%もの金利が発生するものもあります。

ノーベル平和賞を受賞「グラミン銀行」

1976年にバングラデシュで生まれた「グラミン銀行」は、貧しい人だけを対象に、無担保・低利子の貸し付けをしています。お金を借りている人の9割以上が女性です。彼女たちも、高利子の貸し付けに苦しんでいました。

女性たちは、借りたお金を元手にしてビジネスを行い、自分の稼ぐ力によって、貧困から抜け出していきます。

初めて社会とつながる女性たち

グラミン銀行のしくみについて説明します。

お金を借りるためにはまず、5人のグループを作って参加します。5人は連帯して返済の責任を持ちます。担保がない代わりに、グループ内の互いの信用が、返済を滞らせない働きになっているのです。

借り入れをしたメンバーたちは、毎週開かれる集会に参加します。メンバーの多くは、学校教育の経験がほとんどない貧困女性です。集会を通して、リーダーを担ったり、進行役をしたり、仕事について情報交換したり、銀行のスタッフとやりとりしたりします。

家庭以外で何か役割を貰うのが初めて、という女性も多くいて、彼女たちは銀行での活動を通して自信を付けていきます。

次の世代へ、貧困の連鎖を断ち切る

女性たちは、借り入れた資金で様々なビジネスを行います。

ミシンを購入して縫製をしたり、電話を購入して住民にレンタルしたり、牛を飼って酪農をしたりします。

ビジネスを軌道に乗せ、貧困から抜けだす経験をしたメンバーたちは、子供に教育を受けさせるようになります。グラミン銀行の用意する住宅ローンで、自分の家を建てる人も多くいます。雨漏りがする茅葺き屋根の家での生活をやめ、衛生的な環境で暮らせるのです。

子供に教育を受けさせることや、あばら家に住まない事は、グラミン銀行が借り手に示している指針でもあります。

彼女たちの成功がもたらす生活改善は、単に毎日の食べ物に困らないということに留まりません。子どもたちへの貧困の連鎖をも断ち切るものになっているのです。

グラミン銀行を創設したムハマド・ユヌス氏は、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。こうした貧しい人のための貸し付けの仕組みは「マイクロクレジット」と呼ばれ、各国に普及しています。

日本にもあったマイクロクレジット

同じように、困窮した人を対象に、事業資金を貸し付ける仕組みが、1800年ごろの日本にもありました。

薪を背負って本を読む銅像が有名な、二宮金次郎。

没落した家や藩に、すぐれたアドバイスを提供してまわり、次々と家や藩、村を再興していきます。生涯にわたり600もの村を再興しました。

二宮金次郎が作ったのが「五常講」という融資制度です。

こちらも担保は必要ない代わりに、借り入れをしている人同士で連帯責任を持つ仕組みでした。貸し付けを受けた農民たちはこの融資で、新しい作物を作るなどの新ビジネスを始めることができました。

スタートラインは意志の力

二宮金次郎は、困っている人誰にでも手を差し伸べたわけではありません。

評判を聞いて金次郎の知恵を借りに来た人を、何度も追い返し、それでも重ねて足を運んだ人にだけ、知恵を授けていたそうです。

さて、バングラデシュのグラミン銀行はというと、借り入れを受けるのに条件があります。研修を受けて、メンバー5人が全員口頭試験に合格することです。

研修で学ぶことの一つが、自分の名前を書くことです。学校教育を受けていない女性たちには、自分の名前を書くことも生半可なことではなく、研修時間外にも練習して名前を書けるようになる人も居ます。

2つの仕組みから見る、持続可能なヒント

ノーベル平和賞を受賞した「グラミン銀行」の取り組みと、現代の信用組合のルーツと言われる「五常講」。今も受け継がれる2つの仕組みの共通点は何か考えてみました。

・貸し付ける相手は、貧しい人たちだったこと
・小さなグループ内での信頼関係を担保にしていたこと
・ビジネスが上手くいくよう手助けし、返済後も自立した生活が続くよう支援したこと
自分で生活を変えようとする意志のある人を選別するしくみがあったこと

「貸付」だからできること

貧しい人たちを貧困の連鎖から救うために、「寄付」ではなく「貸付」をしているグラミン銀行について紹介しました。

寄付、という無償の取り組みで、人が救われることもたくさんあります。一方で「与えるだけ」の支援は、受け手がどうしても受け身になりがちです。

その人の持っている、自立する力を引き出すサポートができるのは「貸付」という制度ならではかもしれません。

途上国から先進国へ

グラミン銀行を手本にしたマイクロクレジットは、発展途上国から先進国へ広がっています。

日本でも、子どもの貧困や、ひとり親家庭、非正規雇用など、さまざまな形の貧困問題があります。グラミン銀行の取り組みを日本版で運営する “グラミン日本”という団体もあり、私たちが少額から支援できる仕組みもあります。

例えば、毎月100円を、融資を受けているメンバーの電気代として寄付するというものです。再生可能エネルギーを扱う電力会社と契約することが必要なので、エネルギー問題と貧困問題に対して両方アクションが起こせる、という面白い取り組みですね。

まとめ…支援の仕組みも「持続可能」か

持続可能な社会のための支援は、その支援自体が「持続可能なしくみ」であるからこそ、沢山の人に行きわたります。

グラミン銀行は、始めはNGOとしてスタートし、現在は銀行として活動しています。従業員は約2万人です。収益をあげ、事業として続けていける仕組みだからこそ、現在も多くの人をサポートできているのではないでしょうか。

サステナブルに関心を持たれている皆さんの中にも、世の中をより良くする仕組みをつくりたい!という方がいらっしゃると思います。

「支援をする側も、される側も、みんながプラスになる仕組み」になっているかどうかは、その支援が持続可能かどうかの大きなポイントではないでしょうか。ぜひ、考えてみてください。

この記事を書いた人

平岡 瑞希(ひらおか・みずき)

社会保険労務士法人はなみずき(愛媛県松山市)代表。ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。 中小企業の年金・退職金コンサルティングが専門分野。金融教育の普及啓発に力を入れ、企業の労務顧問、従業員へのライフプラン研修を行う。2児の母。趣味は読書とパラグライダー。「おかねとの楽しい付き合い方」を広めるべく活動中。 https://hanamizuki.or.jp/

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