高山良二さんインタビュー 命をかけた支援でカンボジア復興と世界平和の実現に取り組む
1970年から20年以上にわたり内戦が続いたカンボジアでは、内戦時に埋められた地雷が今でも数多く残っている。とりわけタイとの国境沿いのバッタンバン州カムリエン郡タサエン村は、ポルポト軍が最後の砦として立て籠もり、激戦がくりひろげられた地だ。プノンペン政府軍とベトナム軍も入り乱れて戦った場所であるために、各軍の残した大量の地雷が埋められたまま放置されている。
内戦終結後も、住民たちが農作業や日々の暮らしを営む中で何十件もの爆発事故が起きており、あまりにも危険なために村の開発が進まず、カンボジアで最も貧しい地域の1つだった。
IMCCD(国際地雷処理・地域復興支援の会)理事長をつとめる高山良二さんは、1年の大半をカンボジアで過ごし地雷・不発弾の処理を行いながら、タサエン村の自立を目指して、インフラ整備・教育・地場産業の発展など包括的な地域復興に取り組んでいる。
2022年6月、愛媛県松山市内にあるIMCCDの事務所を訪ね、高山さんにお話を聞いた。
地雷を処理して、カンボジアに暮らす人々の命を救いたい
- 必要があるから行くんじゃない、自分が行きたいから行く
高山さんは、かつて自衛官としてカンボジアPKO(国連平和維持活動)への参加をきっかけに、カンボジアの過酷な現状をこのまま見捨てることはできないとの思いを強く抱いた。
不発弾の爆発で死んだ少年、子どもを亡くして泣く母親を目の当たりにし、「見て見ぬふりはできない。自分にできることがあるのにやらなければ、きっと後悔する。後悔して人生を終えたくない」と。
- 住民参加型の地雷処理、支援から教育へ
しかし、カンボジアに埋められた地雷は600万個という途方もない数で、予算も人手も足りず、実現は不可能に思えた。それでも高山さんは決して諦めず「どうすれば出来るか」を考え続けた。
そして思い至ったのが「住民参加型の地雷除去活動」だった。地雷を除去できるカンボジア人を育成すれば、処理できる地雷や不発弾の数は大きく増える。例えば地雷原を金属探知機で調べながら進むのに、わずか40cmの距離で1時間かかることもあるという。
けれども地雷処理ができる人材を育ててチームで作業にあたれば、33人のグループで1ヵ月に1ヘクタール、それを3つのグループで行えば、月あたり3ヘクタール、年間では30ヘクタールを超える土地が農地として使える計算になる。
こうして高山さんが率いるIMCCDは、住民を雇用して仕事を生み出し、地雷処理の技術を教え、自らが村の地雷を除去できる仕組みを構築。現地住民の中から地雷探知員を募集し、正当な賃金を支払ったうえで6週間の研修を実施した。この住民参加型地雷除去活動により、地雷による被災者の減少や貧困の解消、さらにはその地域の農業と経済を復興させることにもつながったのだ。
(対人だけでなく対戦闘車の大きな地雷も埋められている / 写真提供IMCCD)
- 命をうばう地雷原から、命をはぐくむ安全な土地へ
「現状の悲惨さを見た誰かが行動を起こさねばならない。平和な未来を切り開くために、誰かが負の遺産を背負って、解決のために汗を流さなければならない」と決意した高山さんの切実な思いが結実し、地雷原だった土地が今では広大な農地になっている。
キャッサバ芋が多く収穫できるが、時期によってサトウキビやお米も栽培。その他にもマンゴーなどのフルーツも豊富だ。
(マンゴーを育てている農家 / 写真提供IMCCD)
農作物が栽培できるようになっただけではない。地雷除去に参加している村民たちからは「自分たちが地雷撤去した土地で子どもたちが笑顔で走り回っている。そんな未来のためなら自分の危険など惜しくない」と、自らの手で、大切な家族の命や村の未来を守れていることが彼らの自信と誇りにもつながっているのだ。
地域と共生しながら取り組む、真の復興支援
- 経済的に自立してこそ復興
『国際地雷処理・地域復興支援の会』との名称が示す通り、IMCCDの目的は地雷処理だけではない。
(愛媛県松山市内にあるIMCCDオフィスに掲げられた直筆の看板)
地雷原を安全に耕作できる農地に変えて作物を育ててきたが、地雷除去は復興の一助にはなるものの、それだけではカンボジアの復興はできないと高山さんは気づいた。
農作物のままでは価格が非常に安いため、何らかの加工をして付加価値をつけなければ利益にならない。
そこで高山さんは地場産業の会社に「この地域のビジネスモデルになってほしい」と説得し、加工所を建設。「ソラークマエ」と呼ばれるキャッサバ蒸留酒やお米の焼酎、ドライフルーツなども次々に商品開発に取り組んだ。
(カンボジアで製造販売されているソラークマエは、日本の酒類メーカーからの評判も高い/ 写真提供IMCCD)
- 難しいことを自分でやるからこそ信頼関係ができる
「ひとつとして、すーっとスムーズにいくことはない。壁を越えたら、またすぐに次の壁にぶちあたる。その繰り返しです。」
カンボジアでのプロジェクトは、どれひとつとして簡単なものではない。たとえば、お米を加工して焼酎を作ったときは、鹿児島で芋焼酎を作っている人から直々に教わりながら見よう見まねで、何度も失敗しながらも諦めずに試行錯誤を重ねた。
「どれだけ失敗しても自分でやらないと。難しいことを自分でやるからこそ信頼関係ができる。面倒くさい、いやなことを避けたいからといって中間業者に頼むのでは、表面的な解決にしかなりません。それで地元の人の協力や賛同が得られたり、win-win になったりするわけがない、というのが私の考えです。」
(蒸留工場での作業の様子 / 写真提供IMCCD)
その苦労が結実し、キャッサバ芋・サトウキビ・ジャスミン米を使った酒類の製造は軌道にのり、今では日本企業からも高い評価を得ている。
これら様々な取り組みにより、タサエン村は人々が安心して暮らせるようになり、人口も5,000人から7,000人にまで増えてきた。
- 日本企業や支援者と連携して、さまざまな取り組みを展開
復興に必要なことは他にもたくさんある。
当時、粗末な井戸で水汲みをしようとして事故にあい、亡くなった少女がいたという。また、雨が降るとぬかるんでしまって人が歩くこともままならなくなる道は、道路として整備が必要だ。そういった生活に欠かせないインフラを整えることも高山さんやIMCCDの重要なミッションだった。
井戸については、日本の企業や個人の支援者に働きかけて実に80基を設置。主要道路についても整備を進め、雨季でも車やバイク、自転車や歩行者の通行が可能に。雇用創出の面では、日本企業を4社 誘致。そのうちの一つ、紙製品を製造販売する株式会社キンセイは、着物を包む“たとう紙”の制作スタッフとして60名の女性たちを雇用した。
(井戸に喜ぶ村の子どもたち / 写真提供IMCCD)
- 教育による貧困からの脱却支援
タサエン村では、貧困ゆえに学校に行けず、無学の人も多かった。学校へ通えたとしても、校舎はボロボロで教育に適した環境とは言い難い。貧困から抜け出すためには教育が大切だと、高山さんは日本で寄付金を集めて学校を設立した。
高山さんのこの活動を知った日本の企業から、村にもっと多くの学校をつくろうと支援の声が集まり、さらに新しく4つもの学校が建設された。現在は日本語クラスが2つ、コンピューターを教えるクラスが1つある。
現地での教育支援は、バッタンバン州から愛媛県へ留学生を招聘するカンボジア人留学生の支援事業にも発展した。この事業で松山市内の大学を卒業した留学生は愛媛県内で就職し、講演会や交流会等でカンボジアの紹介を行うなど、カンボジアと日本の懸け橋になるべく活動しているという。
愛媛県とのパートナシップとクラウドファンディング
- トラクターと緊急車両を送り、地雷除去後の村に産業拡大の希望と安心を
(寄付は READY FOR サイトから6/23(木)23:00まで受け付けている)
2021年、IMCCDの活動を支援したいと愛媛県から申し出があり、愛媛県立農業大学校で使われていた農業用の大型トラクターがカンボジアのバッタンバン州に寄贈された。このトラクターは10ヘクタールにおよぶ畑の耕作や除草作業などに活躍し、生産効率は格段に向上した。
その成果を愛媛県に報告したところ、新たに愛媛県の井関農機、上島、伊方、愛南町、八幡浜地区施設事務組合から県を通じて合計5台の車両が提供されることとなった。5台のなかにはトラクターだけでなく、カンボジアで不足している救急車3台と消防車1台を含む。
昨年は民間企業から寄付が寄せられ、官民一体となった支援で現地への輸送が実現したが、今回は大型車両が5台と規模が大きいため、輸送にかかる費用をクラウドファンディングで募る。
https://readyfor.jp/projects/IMCCD-tractor2022
2022年6月13日現在、500万円の目標金額に対して、250人から511万円を超える寄付が集まった。寄付は引き続き6月23日23:00まで受け付けている。
「これまで多くの方にご協力をいただき、おかげさまでこれまで行ってきたクラウドファンディングではすべて目標額を達成することができました。タサエン村の住民たちにとってもこの事業は「希望」そのものであり、今後も拡大させていく必要があります。地雷が除去された後、誰もが希望をもって生きていける村づくりを行うために役立てていきます」と高山さんは継続的な支援と協力を呼び掛ける。
尚、クラウドファンディングに寄付をすると、カンボジアでの地域活動の視察ができるという。現地への視察や地元の住民との交流を求めて、下は小学生から上は80代までの老若男女がこれまで日本からカンボジアを訪れているという。
生きる希望と、生かされている意味
- ほんとうの幸せを知らないから、「これでいいんだ」と思いこんでしまう
「私の講演を聞いた小学生から、高山さんの話を聞いて生きる希望が出てきました、と言われたことがあるんです。これはどういうことかというと、子どもが大人に失望しているんですよね。このままでは国や社会がだめになっていくのではないかと、子どもたちは本能的に感じ取っているのではないでしょうか。」
高山さんはこのように話し、そもそも現代社会が忙しすぎて、「何のために生まれてきて死んでいくのか」を考える暇がないことを問題として指摘する。
(高山さん直筆の書「思い」が掲げられたIMCCDオフィス)
「もっとこんな社会になったらいいのに、と望む人はたくさんいる。けれども多くの人が諦めてしまうんです。本質論で考えると大事なことが見えてくるし、やらなければならないことも明確になる。でも、ご都合主義で考え動く人があまりにも多いので、結局は社会がいい方向に変わっていきづらいのではないでしょうか。
本来、幸せになりたいのは世界中の誰しもの願いなのに、ほんとうの幸せが何かを知らないから、これでいいんだ、このままでいいのだと錯覚してしまう。」
社会や世界でいま起きていること。問題になっていること。そういった一つ一つに対して「どうして、こういうことが起きているのか?」と関心を持ち、自ら調べ、学ぶことが大事だと高山さんは説く。知らないことには苦手意識があるから逃げてしまいたくなるかもしれないけれど、逃げてはいけないこともあるのだと高山さんは語気を強くした。
- 後から来る人たちのために
高山さんが行うあらゆる活動の源泉は「後から来る人たちのために」という想いに集約される。
命の危険に常に晒される地雷や不発弾の処理。方々に頭をさげては交渉し、実現させる資金調達。自治体や企業に働きかけて協力を得ながら、カンボジア・タサエン村に暮らす人々の環境をよくするためにインフラや教育を充実させる。
なぜそこまでするのか、と問われることも多いという。
「これらの活動はすべて、私が好きだからやっているんです。やりたいからやっている。カンボジアが私を必要としているのではなくて、私がカンボジアを必要としているのではないかとさえ思います」と語る高山さんの顔は明るい。
「カンボジアの人は愛国心が強い。愛国心だけでなく、家族愛、地域愛、人間愛を素直にもっているところが素晴らしいです。家族や地域とのつながりのなかで自分が生かされているということを謙虚に感じることが大切。それをカンボジアの人々から教わりました。」
(カンボジアの子どもたちからは親愛をこめて「ター」と呼ばれている高山さん / 写真提供IMCCD)
岩下光由記氏の著書『前世から届いた遺言』 を引き合いに出し、高山さんは自身の人生観を「無限大の人生のなかのほんの1点」だと話す。「先祖をたどっていくと、それこそ無限大の脈々とつづく繋がりから自分の今の人生がある。その無限大のなかで、今この時代に自分が生かされている意味というものを、すごく考えます。」
「たんぽぽの綿毛がありますよね。次のたんぽぽが咲くために、ふわーっと飛んで行って、新しい場所に着地する。それがたんぽぽの綿毛の使命です。平和な国際社会に貢献したい。戦争があるような社会を後世に残したくないと現場から訴え続けたいです。」
“いい人生”を送るための条件をそぎ落としていくと、シンプルに3つの要素にまで絞りこまれる。すなわち、「1日3食を食べられる」「家族と近隣住民が安心して仲良く暮らせる」「小さな幸せを確保できる」。これはとりもなおさずSDGs:国連で採択された持続可能な開発目標の幾つかとも合致する。まさに今、私たちのひとりひとりが追求すべきテーマでもあるのだ。
- 心にうまれた共鳴や感動を、行動につなげていく
自らの命、人生をかけて、多くの人々の幸福や平和のために尽力しつづける高山さんの想いや活動に胸を打たれる人は少なくない。けれどもその時に抱く感情とその共鳴を、ただその場限りのものにしてしまい、すぐにかき消えるままにして何も行動を起こせないのであれば高山さんの真摯な願いや想いを踏みにじることに等しい。そうしないために必要なのは、自分ができることを「本質論」で捉え、誠実に学び、考え、実行すること。世界情勢に無関心でいないこと。知らないことを知らないままにしないこと。
いい社会も、いい歴史も、想いと実践の積み重ねで作られる。今の時代を生きる私たちが「サステナブルな環境や社会」の実現に取り組む意義と価値は、まさに後世を生きる人たちのため、そして“無限大”の生きとし生けるもののつながりを絶やさないためにあると言えるだろう。
【参考サイト】
IMCCD
【READYFOR】
トラクターと緊急車両を送り、地雷除去後の村に産業拡大の希望と安心を
企画紹介
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