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COLUMN&INTERVIEW

ハカセと学ぶ気候変動と自分たちのつながり 第一回:過去を学び、未来を予測する

初めまして

こんにちは。鹿児島の薩摩硫黄島という離島からこの文章をお送りしています。大岩根と申します。今回はご縁があり、この連載を持たせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。

僕の「温暖化」との具体的な関わりは、2010年からになります。大学院で博士号取得や卒業が見えて来た頃、先輩にお声かけいただき南極の気候変動の研究に関わることになりました。それまで全く考えたことのなかった南極。まさか自分が関わることになるとは…!!それまでの「大地の動き」を扱う研究分野とは少し違う分野だったため、迷いもありましたが、結局チャレンジすることにしました。

就職先は、国立極地研究所。研究所は東京の立川市にあります。普段はそこに勤め、論文を書いたり読んだり、行くための準備を色々します。南極に行く前に、そもそも、気候変動や地球の歴史の調査って具体的に何をどうやってやるの?ということを多くの方はご存じないと思いますので、ちょっとご紹介しますね。

過去を調べる

地質調査

僕は博士課程卒業まで「地質学/海洋地質学」という分野の学問を学んできました。地層や地形という証拠から、その場所で昔なにがあったのかを知る、という探偵のような仕事です。

例えばこの写真。鹿児島の甑島という島の海岸での写真です。

じつは、ここで地層が切れてズレているのが、よく見るとわかりますよね?これが「断層」です。地層はもともと、海底や川床などに流されてきた砂や泥が平らに積もって作られるものです。それがいま地表に見えていて、切れてズレて傾いている、ということが事実として見えていますね。

これは、地層ができてから今までの間に、地層が隆起する、切れる、ズレる、傾く、ということが起こった証拠なわけです。「この場所にはそんなに大きな力が働いたんだな」ということがわかります。もっと細かくみると、地層がどのくらいの深さの海/川/湖でできたかとか、当時の海底ではこちら方向に水が流れていたんだ、ということなんかもわかります。

気候変動の調査の場合も基本的な考え方は同じで、その場所の地層、地形、岩石、そのなかの化学成分といった証拠から、その場所での昔の出来事を解き明かしてゆきます。

過去を調べる意味

今、温暖化が進んでいて、将来どうなるんだろう?という不安をお持ちの方も多いと思います。将来の地球の気候がどう変化してゆくのか?ということは、これまでの地球の気候が、どうやって(どんな仕組みで、どんな原因で、どのくらいの時間をかけて、どのくらいの範囲で)変化してきたかを調べるしかありません。仕組みがわからないと、この先どうなるかなんて予測も当然できませんよね。

調査の方法

それでは、昔の気候の変化をどうやって調べるのか。それにはいろんな方法があります。

  1. 堆積物コア
    例えばこれは2010年末に行った南極海での写真です。海底にパイプを突き刺して、円柱状に泥をとってきたものです。海にはお魚だけでなく「プランクトン」という小さな生き物がふわふわ浮いて生活しています。彼らも生き物なので、好みの海水の温度や、塩の濃さ、水深などなど好みがあります。お魚にも熱帯にしかいない魚や、寒いところにしかいない魚、深海魚なんかがいるのと同じですね。彼らが死んだら、泥になって海底に降り積もってゆきます。その彼らが降り積もってできた海底の泥をとってきて(堆積物コアと言います)、表層から下に向かって順に(つまり現在から昔に向かって)地層の中のプランクトンの種類を見てゆくと、温かい水が好きなプランクトンが積もった地層と、冷たい水が好きなプランクトンが積もった地層と、というふうな変化が見られます。これをもとに、昔この場所の海水は温かかったり冷たかったりと変化があったんだ!と知ることができます。それを世界中のいろんな場所でやることで、どのくらい広い場所でその変化が起こっていたのか?ということがわかり、それが気候変動の痕跡のようだぞ、ということが推定できてゆくのです。

    余談ですが、観測はなかなか大変です。何日も船に揺られて調査したい場所に行って、まず海底の地形を調査し、場所を決めてパイプを下ろし、突き刺して引き上げてくるという地道な時間のかかる作業です。1秒1mの早さでパイプをおろしても、3000 m の海底に下ろすのには1時間くらいかかります。ちなみに海の平均水深は 3700 m くらい。揺れても雨が降っても雪が降っても夜中でも明け方でも、船酔いを我慢して準備して…というのはなかなか大変な作業です。でもそうやって科学者たちは体を張って昔の地球のことを調べてきたのです。偉大。

  2. 地形
    こちらは、2011年に南極観測隊として、南極大陸内陸部に調査に入った時の写真です。右側の山が平らになっているのがわかりますか?ああいう平らになった山に登ると、足元の岩石にこんな傷がついていたりします。ペンと同じ方向に傷があり雪が溜まっているのが見えるでしょうか。これは氷河削痕(ひょうがさっこん)という傷跡です。重いタンスや机を引きずって動かしたときに床に傷がつくのと同じことを想像してもらったらわかりやすいかもしれません。

    今よりずっと寒かった時代にこの場所を氷河が覆って流れていた頃、氷河の氷に閉じ込められたままこの上を流れていった岩石が削っていった傷跡です。

    山が平らで、その上にこのような削痕があると、確実にここは氷河の下だった、という証拠になります。つまり、当時はこれくらいの厚さの氷がここにあったことになります。それ以外に、こんな真っ直ぐな傷をつける原因が見当たらないからです。

  3. 空気

実は「昔の空気」そのものも、調べられています。南極の内陸に降り積もった雪は、当たり前ですが融けることはありません。雪は積もりながらその時の空気も閉じ込めてゆくので、深く掘れば掘るほど昔の空気を取り出すことができます。今では3000mほどの氷が掘り出されていて、約80万年前までの空気の分析がされています。

などなど、研究者たちはいろんな方法で昔の地球のいろんな場所がどんな変化をしてきたのか、そしてそれらがどう繋がって地球の気候が変化してきたのかを、時に命懸けで明らかにしてきました。その集大成として、現在の地球温暖化の現状がどれくらいで、これからどうなりそうか、ということが精度良くわかってきています。

その成果や、これからどんなことが起きそうか?ということについて、次回以降、ご紹介してゆきます。どうぞお楽しみに。

この記事を書いた人

大岩根 尚(おおいわね・ひさし)

1982年宮崎市生まれ、環境活動家。株式会社 musuhi 取締役。 2010年に東京大学で環境学の博士号を取得。卒業後は国立極地研究所に就職し、53次南極観測隊として南極内陸の調査隊に参加。帰国後は研究者を辞め、鹿児島県三島村役場のジオパーク専門職員として働く。2015年に認定獲得した後、役場職員を辞めて同村の硫黄島に移住、起業。硫黄島での自然体験、研究、SDGs 関連のサポートなど幅広く活動中。特に、気候変動対策としては書籍 Drawdown や Regeneration の翻訳協力、鹿児島県大崎町のサーキュラーヴィレッジラボ所長、個人レベルのアクションを創出する講座の開催など、さまざまなレベルでの活動を展開している。

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