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COLUMN&INTERVIEW

これからの時代を生き抜くために ―非認知能力と環境教育から― 第3回 大人が変われば、子どもも変わる

1 非認知能力を伸ばすためには…

前回までをお読みになった方は、きっとウズウズしてきていますよね?
(第1回 非認知能力ってスプーンを曲げる力!?)
(第2回 わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい!)

「…で、非認知能力が大事なのはわかったけど、どうやって伸ばせばいいの!?」というみなさんの声が、いまにも聞こえてきそうです。

そうですよね! 非認知能力がどんな力で、なぜいま注目されているのかがわかったところで、どうやって子どもたちに伸ばしていけばよいのかがわからなければ、あまり役に立ちそうにないですよね。ということで、みなさん、いよいよです!

ただし、これだけもったいぶっておきながら大変申し訳ないのですが、特別な非認知能力トレーニング法というものは期待しないでください。

最近では、この非認知能力ブームにあやかって「〇〇〇〇で非認知能力を高められる!」といったお金のかかるスペシャルなプログラムも紹介されています。

しかし、私はこれらのプログラムの多くを眉唾物として見ています。

だって、非認知能力だけに限定したそんなスペシャルなプログラムをわざわざやらなくても、日常生活の中に非認知能力を伸ばすための活動なんていくらでもあるんですから…。

つまり、日常生活の中のいろいろな活動の中から、私たち自身が非認知能力を掘り起こすことができるかどうかにかかっているといってもよいでしょう。そのためにも、非認知能力を自分で意識することが必要になります。

2 3つのグループに分類した非認知能力について

さて、非認知能力を自分で意識するというお話を進める前に、改めて非認知能力をもっとわかりやすく整理しておきましょう。

これまでも説明してきましたが、非認知能力とはテストで点数にできない力の総称でした。

つまり、かなり曖昧な力たちのことです。このいろいろある曖昧な力たちを曖昧なまま終わらせるのではなく、グループを作って分類することで整理をしていきたいと思います。このグループの作り方もいろいろあると思いますが、私のおススメは下の図にあるような3つのグループです。

まず、第1回でも説明した自分の内面にある情動的能力と他者との関係性にある社会的能力の2つに大きく分けておきます。これが自分に対する対自的能力群と他者に対する対他的能力群ですね。

さらに、対自的能力群の方をいまの自分を維持しようとする能力群(=自分と向き合う力)といまの自分を変えようとする能力群(=自分を高める力)の2つに分けます。

すると、忍耐力や自制心、回復力などは「自分と向き合う力」だし、意欲や自信、楽観性などは「自分を高める力」になります。ここに、コミュニケーション力や共感性、協調性などの対他的能力群(=他者とつながる力)を加えた3つのグループに分類すると、曖昧な非認知能力がより鮮明になってきました。

いかがですか?
みなさんが子どもの頃に大人たちから言われてきたことが、この中のどこかに位置づけられませんか?
また、保育所や幼稚園、小中高の学校現場で掲げられている理念や目標もこの中のいずれかに位置づけることができそうです。

大切なのは、この3つのグループで分類した非認知能力のどの力を子どもに伸ばしたいのか、あるいはみなさん自分が伸ばしたいのかをはっきりさせておくことです。

このような意識を持つか持たないかで、例えばいつもやっている歯磨きなのか、忍耐力や心の落ち着き(つまり、自分と向き合う力)を意識した歯磨きなのかが変わってきます。

やっていることは同じ歯磨きなのに、意識するかしないかで非認知能力への影響は違ってくるというのがポイントですね!

3 非認知能力は自ら伸ばす力

0~4歳ぐらいまでの乳幼児の頃は、生まれながらの性格や気質が非認知能力に大きな影響を与えてきます。
しかし、一般的には5歳頃から小学生や中高生になっていくにつれて自意識が芽生え、自分の意識を働かせることができるようになるのです。

そのため、落ち着きのない性格の子どもも次第に落ち着くことができるようになり、内向的な性格の子どもも周囲とオープンに話せるようにもなっていきます。

よく非認知能力は幼児期までに伸びる力といわれていますが、そうではなく大人になっても意識することで伸ばせる力なんです。

最大のポイントは本人が自ら意識することですから、外側から「この力が大切だから伸ばしなさい」などと押しつけることはできません。

もし、私たち大人が、子どもたちにできることがあるとすれば、押しつけではなく意識づけです。

つまり、私たちとかかわる中で、子どもが「それって大切なことなんだ! もっと伸ばしていこう!」と自ら促せたり、「これはよくない! 次からはやらないようにしよう!」と自ら省みたりできれば、私たちはその子へ意識づけできたことになるでしょう。

例えば、先ほどの歯磨きの例を思い出してください。

毎日の習慣でチャチャっと歯磨きをしているわが子に、親から「その歯磨きを3分間ぐらいじっくりやってごらん!そのときにね、チャチャっと終わらせて早くほかのことをやりたいって気持ちを落ち着かせながら歯磨きするといいんだよ!」などと声をかけてみてください。
この声かけがきっかけとなって、自分と向き合う力を意識した歯磨きができるようになるかもしれません。

こうした意識づけは、みなさんの日常の様々な場面で起こり得るのです。
だから、わざわざお金をかけたスペシャルなプログラムなんて必要ないんです。私たち大人が子どもたちの普段の姿から何を見つけられるかです。

勉強やスポーツでもそうですよね。

結果として知識や技能を身につけられたかどうかだけではなく、そこに至るまでの間にどんな粘り強さややる気を発揮したのか、また仲間とのどんな支え合いや励まし合いができたのかに目を向けられるかどうかです。

結果ではなくプロセスが大切だといわれるのはまさにこういうことではないでしょうか。
そして、結果だけでなくそこに至るまでのプロセスの中で見つけたいろんな価値(伸ばしてほしい価値も伸ばしてほしくない価値も)を、私たちはほめたり叱ったり、感謝したり注意したりしながら「価値の共有」をしているのです。

先ほどの通り、子どもはこうして価値を共有する中で、その価値に気づき、「もっと伸ばしたい」とか「伸ばさないように気をつけよう」と自分の中で意識を働かせていきます。

これが非認知能力と結びつくことになるでしょう。

しかし、気を付けてください!
私たち大人は子どもと価値の共有はできても、価値の強要はできません。

ということは、子どもたちが、この大人となら価値を共有したいと思ってくれるかどうかが極めて重要になります。

例えば、「私のちょっとしたことにまで気づいてくれてるんだ」と思われる大人、「私たちにやりなさいという前に、自分から率先してやろうとしてる」と思われる大人、きっとこのような大人たちなら子どもたちも価値を共有したいと思うことでしょう。

「私は子どものことを大切に思っている…」なんてわざわざ口にしなくても、気づきにくいところまで丁寧に気づいてくれる大人、言ってることとやってることに辻褄があっている大人…子どもたちは大人をよく見ていて、どんな大人と価値を共有したいかの判断もしっかりできています。

ということで、今回のタイトル通りですね。大人が変われば、子どもも変わります。非認知能力を子どもが伸ばすためには、周囲の環境がより良くなっていくことが一番です。従って、子どもたちの環境の一部でもある大人たちの責任は重大ですね!

(なかやま よしかず)

出典:中山芳一(2018)『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』
同(2020)『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
いずれも東京書籍より刊行されています

この記事を書いた人

中山 芳一(なかやま・よしかず)

岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授 1976年1月生まれ(45歳)、岡山県岡山市在住 岡山大学教育学部を卒業後に岡山市内で学童保育指導員として9年間勤務。その後、学童保育の社会的価値と理論化の必要性を強く感じて、研究者を目指す。 大学院で教育方法学を学び、学童保育や乳幼児保育、さらには小中高から大学までの様々な現場で実践研究に従事する。現職の岡山大学では学生たちのキャリア教育を担当。 これらの経験から、あらゆる年代においてテストで点数にできない非認知能力を伸ばすことの意義と方法について執筆活動や講演活動を通じて全国各地へ発信している。 主な著書には… 『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍;2018) 『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍;2020) 『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP;2021) など多数

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