サステナブルな想いと情報を未来へ~ECCCAの環境ウェブマガジン~

COLUMN&INTERVIEW

コーヒーがつなぐホンジュラスの未来~「カトラッチャ珈琲焙煎所」今井英里さんへのインタビュー~

眠気をさましたいとき。ホッと一息つきたいとき。大人になったいつからか、私の生活にコーヒーは欠かせなくなりました。たまの休日には豆から挽いたコーヒーを、じっくり入れるところから楽しみたい。私のコーヒーとの付き合い方に、共感してくださる方も多いはず。

コーヒーは、コーヒーベルトと呼ばれる赤道をはさんで南北に緯度がおよそ25度の地帯で多く作られています。その地域は発展途上国と呼ばれる国々が多く、コーヒー豆が安く買いたたかれていることが問題にもなっています。

公正な取引という意味がある「フェアトレード」のコーヒーは、基準が厳しく手続きが複雑で、あまり普及していません。FLO[国際フェアトレードラベル機構]の2015年の調べによると、世界中のコーヒーの生産量9万tのうち、フェアトレードのコーヒー豆が占める割合はわずか0.3%ほどでした。

今回、コーヒー生産国の所得向上のヒントを探るべく、「ダイレクトトレード(※1)」という仕組みでコーヒー農家さんから買い付けをしている、大洲市五郎にお店を構えるカトラッチャ珈琲焙煎所の今井英里さんにお話を伺いました。
(※1)ダイレクトトレード(直接取引)とは、中間業者なしに直接生産者から買い付けをすること。生産者に直接お金が渡り、生産者からストレートに商品と情報が届く。

今井英里さんプロフィール

1990年生まれ。2013~2015年に青年海外協力隊としてホンジュラスに赴任する。任期終了半年前に、コーヒーでホンジュラスの生活を豊かにしたいという思いに至る。2019年、ホンジュラスに産地をしぼったコーヒー焙煎所を大洲市五郎にオープン。生産者のストーリーや魅力も知れる、おいしいコーヒー屋さんとしてファンが多い。

インタビュー

――今井さんは、ホンジュラスに青年海外協力隊として赴任したと伺いました。ホンジュラスのコーヒーとの出会いは、いつ、どのようなものだったのでしょうか?

――今井英里さん(以後、今井):最初は、小学校の算数教諭として赴任したんです。でも、小学校へ通う道の途中で、貧しくて学校にも通えない子どもたちをたくさん見たんですよね。換金するためにリサイクルできる材料を探している子や、家政婦として雇われている女の子たちもいました。そういう光景を見ているうちに、ビジネスでこの国と関わって、この国を豊かにしたいという思いがわき上がってきました。ホンジュラスではコーヒーが主力産業なため、そこでコーヒーに着目したのが任期終了半年前のことです。

いったん日本に帰国して、3ヶ月間ホンジュラスに戻って現地で修行しました。200~300くらいの園地のコーヒーを飲んでみて、おいしいと思った園地を実際に見てまわりました。作っている人に会って、話を聞いて、取り引きしてもらう農園を決めたんです。

――どういう基準で、取り引きしてもらう農園を決めたのですか?

――今井:作っている方の「想い」です。よりよい豆を、もっとおいしいコーヒーを作りたいという情熱や、その方にまつわるストーリーです。

例えば、ヘラルドさんという生産者さんがいるのですが、その方は息子さんを5才になった年に亡くされているんです。でも、息子さんが2才のときに一緒に植えたコーヒーの木は、今もまだ元気に育っている。そのコーヒーの木を、息子さんを思う気持ちと同じくらい大切に今も育て続けているんです。生産者さんの想いは、HPや「生産者カード」でも紹介しています。

他よりも高く豆を買い取るので、真面目な方や情熱を持った方たちにお金が渡って、いい循環でお金をまわしていきたいんですよね。


★ヘラルドさんの写真


★生産者カードとコーヒー豆の写真

――具体的に、どれくらいの価格でコーヒー豆を買い取っているのですか?

――今井:1kgあたり¥1,000です。これは、国際価格のおよそ4~5倍の値段です。普通の取引ですと間にたくさん業者さんが入ってその度に値段が上がっていくので、最終段階での買い取り価格は私と同じくらいの値段になります。これが「ダイレクトトレード」の強みで、生産者さんも私もどちらもが儲かる仕組みになっています。

どちらに負担がかかっても長続きはしません。双方が納得して今後も長い付き合いをしていくからこその価格設定なんです。

――今井さんが市場より高くコーヒー豆を買うことで、どのようなことにお金が使われて欲しいですか?

――今井:すでに実現していることは、アフリカンベッドといって種を乾燥させるときに少し地面から高さを上げて乾燥させるステンレスの網の台の導入です。以前は地べたで乾燥させていたのですが、それだと地面の熱で乾燥具合にムラができてしまうんです。アフリカンベッドの導入によって、空気の循環で乾燥させることができ、以前よりムラが無くなりました。

今後は、豆を選別するときの大型機械をいつか導入したいですね。

そして、人材育成をして、生産だけでなく収穫・選別作業においても高い技術を持った人にはそれ相応のより高い賃金を支払えるようにもしたいです。


★アフリカンベッドの写真

――所得向上にもつながって子どもたちが学校に行けるようになるといいですね。

――今井:もちろんです。でも、コーヒー作りは子どもたちにとってはいい教材でもあります。学校に通えた上で、が前提ですけど、お手伝いを通して数を数えられるようになったり、地理や人とのつながりを勉強したり、いろんなことを教わることができます。

ホンジュラスではコロナの流行以降2年間ずっと学校が休校になっているのですが、子どもたちはコーヒーを通じて学んでいる気がします。

――ホンジュラスの農園の特徴は、どのようなものでしょうか?

――今井:ホンジュラスの農園はほとんどが家族経営です。アラビカ種という、栽培は難しいのですが香り高い品種を作っています。

また、ホンジュラスでは「ケスングアル(※2)」という自然農法が国中で盛んです。農薬も化学肥料も使いません。焼畑をしないで二次森林を育てながら作物を育てています。

例えばナンシーさんという生産者さんの畑では、サトウキビを、土壌をしっかり固めるのとお水を蓄えるために植えています。土づくりもコンポストを利用したり、ミミズを生かした土づくりをしたりしています。
(※2)ケスングアルとは、焼き畑をしない、表土を恒久的にカバーする、不耕起栽培、効率的な肥料の使用という4原則に基づく伝統的農法。


★コーヒー畑の写真

2012年にさび病(※3)で大打撃を受けたのですが、そこで農薬を使うように方針転換をするのではなくて、さび病に強い品種に改良し、有機で解決できる方法を探しています。害虫対策も、ペットボトルに液体を入れて誘引したり、害虫を食べてくれる虫を放したり、自然発生的に待つのではなく、積極的に自然農法をしています。

栽培方法により敏感なヨーロッパでは、ホンジュラスのコーヒーは最近とても人気があるんですよ。
(※3)さび病とは、葉の裏に付着し、菌糸を伸ばして葉肉を浸食し、やがて光合成機能を失い、2~3年で枯れてしまう病気。

――近年の温暖化による気象異常の影響はホンジュラスでもありますか?

――今井:はい、あります。昨年の11月に大きなハリケーンが2度も来て、出来具合を心配しているところです。土砂災害も起きたのですが、雨が続くと豆の完熟具合にも影響します。自然を相手に作っているので、天候によって味も違います。でも、私は天候による出来の違いで取り引きをやめるようなことはしません。その年なりに1番おいしいものを目指して、ホンジュラスの人たちとのご縁やお付き合いは長く続けようと思っています。

――今井さんが今後目指しているものは、どういったことでしょうか?

――今井:ホンジュラスの子どもたちには、間近で働く大人たちを見て、自分たちもコーヒー農家になりたいという子が多いんです。私がコーヒーで豊かになるモデルケースを作って、それが広がっていっていい循環が生まれるといいですね。

私たちには「牛のように歩いていこうね。」という合言葉があるんです。一人でもこぼれないようにみんなが足並みをそろえて行こうね、という意味で、生産者さんも私も、誰かが突っ走って後の人たちがついていけないようじゃダメだから、まわりを見ながら、誰も遅れをとることなく、みんなで一緒に自然に、無理せず進んでいこうよ、という思いが込められています。それが、持続性にもつながっていくと思っています。

――まさに、SDGsの概念である「誰一人取り残さない世界」を目指されているんですね。

――今井:それと、「みんな」の中には、買ってくれるお客さまも入っています。このご時世なので、店頭で私がお話するだけじゃなくて、SNSでも声が届いています。共感してもらうことによってモチベーションが上がって、いい豆ができるとお客さまにも還元できる。お客さまも含めて、みんなでいい循環を作り出していきたいです。


★店舗

取材を終えて

「今」が大事か?それとも「未来」の方が大事か?よく言われますが、私は「どちらも大事にする」というのが正解なのではないかと思えてきました。

ホンジュラスという国が豊かになるように、今を生きる大人たちがよりおいしいコーヒーを作るようにがんばって、より高い価格で買い取れる仕組みも作る。

大人たちは子どもたちに豊かな暮らしをさせてあげたいと「今」を頑張り、それを間近で見て育つ子どもたちは、自分たちもそのようなコーヒー農家になりたいと「未来」を夢見る。

「今」を頑張ることが、「未来」への種まきにもつながる。

今必要なのは、互いが互いの世代を思いやる、世代が違う者同士が互いの世代を思いやることなのかもしれません。

「横のつながり」と「縦のつながり」のどちらも大切にすることが、今一度問われている気がしています。

【参考サイト】
・「ダイレクトトレードを知ろう。エチオピアコーヒー流通の裏側。
・「ホンジュラスの伝統農法 ケスングアル
・「さび病とは/コーヒー

【参考文献】
・「コーヒー豆を追いかけて 地球が抱える問題が熱帯林で見えてくる」
原田 一宏(くもん出版)

この記事を書いた人

山中 美佳(やまなか・みか)

生まれも育ちも、松山市の興居島(ごごしま)。北九州市立大学外国語学部国際関係学科卒業。 学生時代に、持続可能な生活について学ぶ。その後の生活を経て、理想と現実のすり合わせをしたいと思っている。家業の農家見習い兼パン職人。両親と弟の4人暮らし。