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COLUMN&INTERVIEW

ハカセと学ぶ気候変動と自分たちのつながり 第五回:私たちに何ができるのか?~その2 服について~

第三回までに、気候変動の現状や将来予測についてみてきました。そして、暮らしにくい地球にならないために、私たちに今何ができるのか?ということについて、まずは食について見たのが前回(ハカセと学ぶ気候変動と自分たちのつながり 第四回:私たちに何ができるのか?~その1 食について~)でした。

今回は、第二位の原因とされている「服」のお話です。
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今、これを読みながら服を着ていない人はいないと思います。いや、、いてもいいんですが、長くなるので服は着て読んでくださいね。笑

この10年ほどで、安くて着心地がよく、デザインも優れた服がファストファッションとして大量に出回るようになり、私たちは手軽にファッションを楽しむことができるようになりました。今の私たちの暮らしの中で、ちょっとした衣類を買うときにファストファッションの利用を考えない人はなかなかいないと思います。

まずはいくつか質問を出すので、ちょっと考えてみてください。
・あなたは、一度買った服を捨てるまでに何回着ますか?
・あなたは、年間にどのくらいの服を捨てていますか?
・では、世界で年間に捨てられている服は、どのくらいあると思いますか?

それぞれ、どんな答えだったでしょうか。

僕もこの質問を自分に問いかけてみました。
最近の僕はおしゃれすぎて、普段着るものは数着しか持っておらず、下着やTシャツや短パンは破れてても履く/着るくらいになってきていて、数十回は着てるかな?とか、本当に着れなくなったものだけ捨ててる、という感じでした。しかし、若気の至りでモテようとしていた頃に買った服はたいして回数を着ておらず、ずっとクローゼットに残っており、、この後に書く内容を思い浮かべながら罪悪感を感じたりもしています。

実は、ファッションを通じて排出される温室効果ガスは全体の 2-8 % もあると言われており(国連環境計画UNEP)、その他の環境負荷も実は相当に大きなものがあります。

そもそも、あなたが今着ている服は、どこでどうやって作られたものか、ご存知ですか?

衣服にまつわる環境負荷

当たり前ですが、服となる繊維は世界のどこかでの原料の生産/採取から始まります。最近の服はそもそも原料が化石燃料であることも多いですが、化石燃料を使ってなくても例えば綿花の栽培に大量の水や肥料が使われていることが大半です。そうした糸の原料が紡績、染色、裁断、縫製を経て製品となります。これらの全ての過程に電気が使われていますし、全ての過程の間に輸送があり、そこでは化石燃料の使用があります。そうしてできた製品がさらに流通、販売されて消費者に渡ります。利用の部分では洗濯によるマイクロプラスチックの排出、廃棄する際にも埋め立てでなく燃やすこともしばしば。このように多くの環境負荷があります(エレンマッカーサー財団)。

服にまつわる環境負荷の図 by エレンマッカーサー財団

Pictet Asset Management の報告によると、例えば水の使用量は1年間に世界で発生する排水の約5分の1を占めていて、合成素材の染色や洗浄の過程で、有害な化学物質やマイクロプラスチックが河川や海に放出され、野生生物に悪影響を与えているとのこと。

また、こちらの国際環境NGOグリーンピースの報告書によると、化学薬品の使用、有害化学物質の流出による河川の汚染なども深刻です。

服の製造にまつわる環境負荷の図 by 国際環境NGOグリーンピース

よくないことは、環境への負荷だけではありません。
なんと、人にも。

衣服にまつわる社会的な負荷

2013年には、今ではアパレル業界で有名となっている ラナプラザの事故 がありました。この事故は、2013年4月24日にバングラデシュのダッカ近郊で発生したものです。世界的なアパレルブランドの下請け工場が入居する8階建ての「ラナプラザビル」が崩壊。死者1,127人、行方不明者500人、負傷者2,500人という多大な犠牲者を出したものです。

実はラナプラザは、劣悪なその労働環境について、賃金の低さや徹夜で働かせるなど以前から問題が指摘されていました。そもそも5階建てから8階建てへ違法に建て増しされ、建物にヒビが入るなど危険性が指摘されていたにもかかわらず操業を続け、大きな犠牲を出しました。

ここで問題なのは、それが氷山の一角だったということ。バングラデシュ全体で、より小規模な火災や事故は多数あり、そこには人件費の安さを売りに国策として世界の縫製工場となる政策を進めてきたという背景があります。人件費の安さの影には、例えばある人は同じ服の袖をつくるだけの作業を何年もさせられ、労働が単純だからスキルも一定以上上がらないし給料も上がらない。そんな労働形態がありました。だから安く作れるわけです。

先進国と途上国の格差、貧困、ジェンダー問題、搾取といった、大きな大きな構造的な問題の一部が表面化したものがラナプラザの事故だったということだし、あれほどの事故にはならなくても、劣悪な労働環境や環境、健康への被害は各地で起きているもので、そのような被害に支えられて私たちが好むファストファッションがある。そういうものが含まれた安さを、私たちが享受している、ということでもあります。

ここでやっと、冒頭の3つ目の質問「では世界で1年間に捨てられている服は、どのくらいあると思いますか?」への答えです。これだけ環境負荷や社会的負荷をかけて犠牲を払って作った服のなんと 73 % 、年間 10 億着が捨てられている、とのことなのです(エレンマッカーサー財団)…!!

ちょっと、、これは、、と僕も報告を読みながら凹んでしまいました。

さらに、ファストファッションの影響で中堅規模のブランドが軒並み衰退している、という事実もあります。もともと、それぞれのブランドが1-2年かけて新たな服を企画しデザインし、製造、販売してきました。しかしファストファッションがその最新のデザインをものの数ヶ月で模倣し、類似の製品を販売する。顧客のついているハイブランドには影響ありませんが中小ブランドの場合、安さに負けてしまいます。ファストファッションに価格で対抗しようとすると、まともなデザイン費用が払えなくなってしまい、デザイナーを外注するしかなくなる。そうすると次のデザイナーが育たない。ブランドとしての質が低下し、売り上げが上がらず、倒産する企業も増えているとのこと(大量廃棄社会より)。

ファッション業界のあれこれを取材した本。おすすめ

実はハイブランドも、昨年のモデルなど売れ残りを大量に廃棄していたことが報じられています。このような、さまざまな弊害を出しながらもファッション業界の売り上げは増えており、先述の国際環境NGOグリーンピースの報告書によると「15年前と比べると、購入する衣料品の点数は一人当たり平均して60%増えた一方、手元に置いておく期間はおよそ半分になっている」とのこと。こうやって大量の温室効果ガスが排出され、温暖化の一因になっているようです。

では、私たちは一体どうしたらいいのでしょうか。

ファッション業界の新たな動き

さすがにこれではいかんということで、環境負荷の少ない生産方法をとるブランドも増えてきています。

環境に優しい衣類を、というブランドの筆頭はpatagoniaです。服を売る企業の宣伝として”Don’t buy this jacket” この服を買うな、という広告を出したのは鮮烈でした。

Don’t buy this jacket の広告

売り上げの1%を環境活動に寄付する 1% for the planet の運動や、環境活動の団体に寄付をする制度、環境活動をする団体に安く販売する制度などもあります。

Patagonia をはじめいくつかの企業では、新たな服を売るだけでなく、リペア(修理)を推奨しています。僕も、活動中に破れてしまった服の修理を何着かしてもらいました。その部分だけ風合いの違う生地になっていて、世界で自分だけが持っている服でもあるので、少し誇らしいような気持ちもあります。

捨てられた漁網やペットボトルを再生して「アップサイクル」として服に変える動きや(ECOALFなど:それはそれで新たなマイクロプラスチックの原因にもなってしまいます。資源の新規掘り出しをしない、という意味ではいいのですが、、難しい。涙)、徹底した透明化を図るブランド(EVERLANEなど)、動物性の素材を使わない企業(ステラマッカートニーなど)、キノコからレザーの代替品を作る企業も出てきたりしています。

EVERLANEの4300円のTシャツの製造にかかるコスト明示

こういった企業の製品を意識的に選択してゆくことが、少しでも環境や社会への負荷を減らしてゆくことにつながりそうです。

もっと身近にできそうなこととしては、衣類の修繕があります。修繕そのものをデザインに変えてしまう、ダーニングという素敵なやり方もあります。例えば、テキスタイルデザイナーの野口光さんのinstagramに素敵なデザインがたくさん掲載されているので、ぜひご覧ください。


HIKARU NOGUCHI TEXTILE DESIGN 神山彩子さんの作品

エレンマッカーサー財団ではこんなことが紹介されています。

環境負荷を下げるための取り組み

  1. 問題のある原料、マイクロファイバーを排出する素材は使わない。
  2. 衣類の有効利用を増やす。
  3. リサイクルをもっともっと進化させる。
  4. 資源の有効活用と、再生可能エネルギーの導入。

 

前回のお肉のお話もそうでしたが、私たちが手軽に楽しめることの裏には必ず何か環境や社会への負荷が潜んでいる、ということが見えてきました。

結局は、なるべく“信頼できる作り手”のものを、“本当に必要なだけ”買い、修理しながら“大切に着る”、という単純なことなのかもしれません。

※メイン画像:HIKARU NOGUCHI TEXTILE DESIGN 神山彩子さんの作品テキスタイルデザイナーの野口光さんのinstagramより 

この記事を書いた人

大岩根 尚(おおいわね・ひさし)

1982年宮崎市生まれ、環境活動家。株式会社 musuhi 取締役。 2010年に東京大学で環境学の博士号を取得。卒業後は国立極地研究所に就職し、53次南極観測隊として南極内陸の調査隊に参加。帰国後は研究者を辞め、鹿児島県三島村役場のジオパーク専門職員として働く。2015年に認定獲得した後、役場職員を辞めて同村の硫黄島に移住、起業。硫黄島での自然体験、研究、SDGs 関連のサポートなど幅広く活動中。特に、気候変動対策としては書籍 Drawdown や Regeneration の翻訳協力、鹿児島県大崎町のサーキュラーヴィレッジラボ所長、個人レベルのアクションを創出する講座の開催など、さまざまなレベルでの活動を展開している。

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