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COLUMN&INTERVIEW

これからの時代を生き抜くために ―非認知能力と環境教育から― 第4回 環境教育で非認知能力を伸ばそう!

1 何のためにそれやってるの?

前回は、自分の意識によって非認知能力を伸ばすことができるというお話をしました。そのためにも、私たち大人が子どもたちにできることは意識づけをすることでしたね。今回は、この意識づけを環境教育へつなげていきましょう。

(第1回 非認知能力ってスプーンを曲げる力!?)
(第2回 わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい!)
(第3回 大人が変われば、子どもも変わる)

みなさんは、すでにSDGsについてご存知ですよね?

ちなみに、私の所属する岡山大学も早くからESDの取り組みに着手していたこともあり、SDGsについても大変活発な大学になっています。

また、最近ではSDGsのピンバッジを付けられている方もあちこちで見られるようになりました。国連で採択された17の目標(ゴール)の中から、組織や個人がどれを目標に掲げるのかを意思表示して、実際にその目標に向かって取り組むという世界的なムーブメントです。そのために作成された17色の彩あるアイコンも大きなインパクトがあります。

さて、みなさんは、前回の非認知能力の意識づけの話とこのSDGsの取り組みがとても似ていると思われませんか?

実は、17色のアイコンは、目標設定をすることで自分たちの意識づけにつながっていますよね。一生懸命にやろうとしているんだけど、それは一体何のためにやっているのかがわかりにくい…。そうならないように、予め17の目標と照らし合わせながら、貧困対策のためなら1番、健康と福祉のためなら3番、教育のためなら4番、そして地球温暖化を対策するためなら13番、という目標設定が明確な意識をつくり出すことになります。

非認知能力の意識づけと同じで、見えにくいものをはっきり見える化するということは、これからの時代にとても大切なことですね。

2 環境教育って何のためにやってるの?

「それ、何のためにやっているの?」という点では、環境教育はとてもわかりやすいかもしれません。言うまでもなく「地球環境をよりよくするため」ですよね…。しかしながら、本当にこれはわかりやすいのでしょうか?

例えば、地球温暖化は世界規模で由々しき問題であることは間違いないでしょう。ただ、そのために私たち個人ができることを取り組んだとしても、しょせんそれは約80億分の1となってしまいます。仮に自分や自分の家族が地球温暖化を防ぐための活動を熱心に取り組んだとしても、隣の家の人たちがどこ吹く風だとしたら、次第にモチベーションも薄らいでしまいますよね。

つまり、環境教育って何のためにやっているのかと考えたとき、地球環境のためというテーマははっきりしているのですが、実際に何をしていけばよいのかとなると、そこにどれだけ当事者性を高く持って自分事として考えていけるのかが重要なカギになるということです。

第1回でも提案しましたが、本当に地球環境をより良くしていこうとするなら、単に知識だけを習得するのでは十分ではありません。

例えば、自分を律する力や多くの他者やこれからの地球の未来に心を砕く力、そして先ほどのような当事者性を持って自分事にできる力…などの非認知能力を伸ばすことも必要不可欠です。環境教育を通じて、これらの資質・能力を引き出していけるかどうかが重要ではないでしょうか。

環境教育って何のためにやっているのか?

環境教育は、地球環境のためにやっている教育であり、地球環境をよりよくできる人々を育てるための教育であり、地球環境に関係する知識と同時に、地球環境をよりよくするために必要な非認知能力を育むための教育でもあるわけです。

3 環境教育をデザインしてみよう!

学校で行われる通常の教科教育、例えば国語や算数(数学)などは、個人で問題を解いたり、座学で先生の授業を受けたりすることがどうしても多くなってしまいます。その点、環境教育はいわゆる体験学習(フィールドワーク)が中心となりやすいため、きっと、子どもたちにとって能動的で退屈しない教育活動になっていることでしょう。

しかし、これも気を付けなければ、体験が体験のまま終わってしまい、学びにつながっていかないことになりかねません。

先ほどの問いを思い返してみてください。つまり、「その体験活動って何のためにやっているのか?」です。この「何のために?」は、認知能力も非認知能力も含めたどんな資質・能力を子どもたちに育てようとしているのかという問いになっています。そこで、下図をご覧ください。

私は、教育活動の中へ意図的に何かを仕込んでいくときに「ギミック(仕掛)」という言葉を使います。

このギミックの最大のポイントは、私たちが教えたいことを直接教えないということです。

例えば、上図の通り地球環境に関する知識も、こちらから一方的に教えるのではなく、子どもたちが自分で調べたり、自ら気づけたりするようなギミックを仕込んでおくわけです。

また、そのギミックが自分一人だけで取り組むのではなく、仲間と一緒に取り組めば、自分以外の考え方を知ることもできるし、何よりも非認知能力であるコミュニケーション能力だって高められるかもしれません。

そして、もう一つが先ほども話題に上がった「当事者性」という非認知能力です。仮に大人から子どもへ「もっと地球人として当事者性を持っていこう!」「もっと自分事として地球のことを考えていこう!」といくら口頭で伝えたところでどうでしょう?到底、その子が当事者性を高められるとは思えませんよね…。

だから、そんなことは直接言わないんです。直接言わずに当事者性を持てるようなギミックとして仕込んでみるわけです。

例えば、身近な環境改善を解決するための企画を立ち上げて実際に取り組む中で、ぐっと自分事になることもあり得るでしょう。過去30年間の気温と昨年の気温を比較した時に、改めて自分の親のときといまとでは温度が異なっていることに気づき、当事者性を持つこともあり得るでしょう。

これらに共通する点は、いずれも直接教えていないことです。そう考えると、各ご家庭でも十分できそうですね。テレビで取り上げられた南極大陸のニュースからでも、天気予報で流れた「過去最高の…」からでも、私たち大人が仕込んでいけそうなギミックはあちこちに転がっていそうです。

ただし、あくまでもギミックは仕掛です。

そのため、実際には子どもたちが食いついてくれるかどうかは子どもに委ねることになってしまいます。子どもたちにどんな力を伸ばしていきたいのかに加えて、いかに子どもの興味・関心を引き付けられるのかということも踏まえながら、どんなギミックを仕込んでいくのか考えてみてください。まさに環境教育のデザインですね!

(なかやま よしかず)

出典:中山芳一(2018)『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』
同(2020)『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
いずれも東京書籍より刊行されています

この記事を書いた人

中山 芳一(なかやま・よしかず)

岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授 1976年1月生まれ(45歳)、岡山県岡山市在住 岡山大学教育学部を卒業後に岡山市内で学童保育指導員として9年間勤務。その後、学童保育の社会的価値と理論化の必要性を強く感じて、研究者を目指す。 大学院で教育方法学を学び、学童保育や乳幼児保育、さらには小中高から大学までの様々な現場で実践研究に従事する。現職の岡山大学では学生たちのキャリア教育を担当。 これらの経験から、あらゆる年代においてテストで点数にできない非認知能力を伸ばすことの意義と方法について執筆活動や講演活動を通じて全国各地へ発信している。 主な著書には… 『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍;2018) 『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍;2020) 『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP;2021) など多数

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