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COLUMN&INTERVIEW

これからの時代を生き抜くために ―非認知能力と環境教育から― 第5回 いま、あなたはあなた自身が見えていますか?

1 やりっ放しにしないための振り返りを!

いよいよこの連載も今回が最終回となりました。ここまでに、非認知能力と環境教育の関係性についてみなさんの理解が深められていたらうれしいです。

また、非認知能力を意識しながら、ご家庭や教育現場で実際に少しでも取り組んでいただけていたらなおうれしいです!

ということで今回は、最終回にふさわしく非認知能力であっても環境教育であっても、結局のところ最後は自分次第というお話をしていきます。

第1回 非認知能力ってスプーンを曲げる力!?
第2回 わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい!
第3回 大人が変われば、子どもも変わる
第4回 環境教育で非認知能力を伸ばそう!

まず、子どもたちは体験したことを単に体験で終わらせるのではなく、経験と学びに変えていく必要があります。そうしなければ、せっかく体験したことでも、それが自分のものになっていかないからです。

例えば、自然体験活動を例に挙げてみましょう。

子どもたちが自然いっぱいの場所で川に入り、動植物と触れ合うなどの活動をしていたとします(この時点ではまだ体験です)。

この体験を通じて、身近な用水路とは異なった水質のよい川の水に心動かされ、この川の中だからこそ生息する生物の存在に気づき、改めて自然の中にある川のすばらしさを実感していくようになると、これは自分の中へ体験が内面化されたため経験になります。

さらに、なぜ水質のよい川に生物が生息するのか(なぜ、身近な用水路にはこのような生物が生息しないのか)、水質をよくするためには何が必要なのか、などの問いを立ててその問いに迫っていく過程こそが学びになります。

このように体験と経験と学びを区別すると、私たちは体験から経験、そして学びへといった3つの段階を意識でき、体験を体験に留めないように注意できるわけです。

そして、この体験を経験や学びに変えていくための工程に必要となるのが、振り返りです。

つまり、体験したことをやりっ放しにせずに、いったん立ち止まって、その体験を振り返ってみましょう。体験中には気づかなかったことを改めて気づけるようになったり、あのとき感じたこととは別なことを感じたりと、振り返るからこそ得られる新しい気づきもあります。そして、振り返りによって体験は自分の中へ内面化されて経験になり、さらにこれからの教訓が見出されて学びへ変わっていきます。

実際に、現在は多くの学校現場で各授業の最後に子どもたちへ振り返りを促しています。この振り返りは、授業で体験したことを学びへと変えていく活動です。環境教育の後にも、もれなく振り返りは必要不可欠ですよね。

ちなみに、振り返りをあまり難しく考えないでください。最も身近なものに置き換えるなら、その日の出来事を夕ご飯や入浴時に親子で話すのだって振り返りです。また、一日の終わりに書く日記も振り返りです。特に日記は、その日の振り返りを話すだけでなく書くことで促すため、その日の体験を経験、そして学びに変えていくための最強のツールといえるかもしれません。

2 振り返りによってメタ認知が可能となる

先ほどの通り、振り返りは体験を学びにまで変えていく重要な活動でした。しかし、実はこの振り返りはそれだけではないのです。

実は、振り返りを繰り返すことで、私たちは「メタ認知」ができるようになるともいわれています。

メタ認知…またまた認知が出てきてややこしくなっていたらすみません…。このメタ認知のメタとは「超」とか「高次」という意味でして、いまの自分を、自分を超えたもう一人の自分が客観的に見ている(認知している)という状態です。みなさん、これは決して怪しげな話ではありませんからね。

そして、このメタ認知は社会人になってもとても重要なものなのです。もう少し言わせてもらうなら、業種や職種を問わず、「デキル社会人」は共通してメタ認知がすごいんです。なぜなら、メタ認知とは、いまの自分をオンタイムで観察と調整ができるからです。

例えば、自分が発言した瞬間に相手の表情が曇ったのに気づいて、自分の発言をすぐさま撤回したり、話し方を変えたりできるのはメタ認知のなせる業といえるでしょう。逆に、メタ認知ができていないと自分の言動が相手を不快にしていることに気づかないまま、そのまま不適切な言動を続けてしまうことになってしまいます。

このように、他者とのコミュニケーション場面でも、勉強やスポーツをしているときでも…いたるところでメタ認知は大切になってくるんです!

それでは、これだけ大切なメタ認知を私たちはどうすればできるようになるのでしょう。つまり、どうすればメタ認知力を高められるかということですね。まずは下図をご覧ください。

 

この図にある通り、私たちは先ほどのように何かをした後に振り返りをします。それが「行為後の振り返り」ですね。

そして、行為後の振り返りを日常的に繰り返していったとします。すると、次第に何らかの行為をしている真っ最中でさえ振り返りをすることができるようになるのです。このときの振り返りが「行為中の振り返り」であり、メタ認知できている状態でもあります。

従って、先ほど紹介した日記などの振り返りを継続していく内に、次第にその時々の自分をオンタイムで観察でき、必要に応じて調整することまでできるようになるのです。振り返りの効能ってすごいですよね!

3 いま、わたしがわたし自身を見えているなら…

ここまで読み進められたみなさんは、今回のタイトルの意味をお分かりになられたことでしょう。いま、あなたがあなた自身を見えている状態はメタ認知できているということですね。

さて、このメタ認知を第3回で紹介した3つのグループの非認知能力(自分と向き合う力、自分を高める力、他者とつながる力)と関連付けていきます。

まずは、下表をご覧ください。この表には、各グループの非認知能力が挙げられていますが、それぞれにプラスの面とマイナスの面を紹介しています。

そうなんです!非認知能力って決して伸ばせばいいというものでもないんです。ここは認知能力と大きく異なってくるところかもしれません。つまり、非認知能力はその人の置かれている状況によって発揮の仕方を変えていかなければならないのです。

例えば、自分と向き合う力によって我慢が必要な状況もあるでしょうし、逆に自分と向き合う力によってストレスが過度にたまってしまう状況も生まれてきます。前者の場合には、しっかりと発揮できればよいのですが、後者の場合には発揮しすぎない方がよいですよね。このように非認知能力は、単に伸ばすだけでなく状況に応じて使いこなすことが求められます。

 

【3つのグループの非認知能力とそれぞれのプラス面・マイナス面】
3つの非認知能力 プラスの面 マイナスの面
自分と向き合う力

自制心
忍耐力
回復力
…など

  • いつも安定していて、表情や態度に落ち着きがある。
  • 計画などに忠実で規律正しく、忍耐強さと注意深さがある。
  • 辛いことがあっても気持ちを切り替えて、再び取り組むことができる。
  • 周囲に対して自分の感情の変化が理解されにくい。
  • 予定になかった突然の出来事に弱く、臨機応変な対応が苦手。
  • ストレスなどの精神的な負荷を抱え過ぎてしまう。
自分を高める力

意欲・向上心
自信・自尊感情
楽観性
…など

  • 新しいものを好み、そこに喜びを感じられる。
  • 難しいことが立ちはだかっても自分の可能性を信じることができる。
  • いろいろなことに取組む中で楽しみを感じることができる。
  • 新しいものを好むために、一つのことに持続しにくい。
  • 無謀な挑戦をしてしまい、リスクの想定や計画的な取組みが苦手。
  • 楽しみが独りよがりになってしまい周囲と合わなくなる。

他者とつながる力

コミュニケーション力
共感性
協調性・社交性
…など

  • 他者との対話などのコミュニケーションができる。
  • 他者の感情や思いをその理由や背景も含めて想像的に理解することができる。
  • 人当たりのよさがあり、多くの人と仲良くできる。
  • 自分と相手との一体感を押し付けてしまいやすい。
  • 相手に心を砕きすぎてしまい、精神的な疲労が生まれやすい。
  • 自分の意見をはっきり主張することが少ない。

 

これでおわかりの通りです。いま、わたしがわたし自身を見えている、つまりメタ認知できていれば、自分自身と自分の置かれている状況を客観的に観察することができます。あとは、必要に応じて調整すればよいわけですね。

メタ認知できることで、非認知能力を使いこなせるようになります。ということは、やっぱり振り返りはめちゃくちゃ大切だということになりますね。

あとは、非認知能力を伸ばすのも、状況に応じて使いこなすのも、「最後は自分次第」です。いまの自分は環境のことに心砕けているだろうか、自己中心的になり未来へ地球を残していくという発想に立てているだろうか、何よりも身近な人たちや生物たちの安心・安全を壊していないだろうか…。

日本には、「お天道様が見ている」という素晴らしい言葉があります。子どもたちが、お天道様というもう一人の自分の目で自分を観察して、身近な人たちや生物たち、そして未来の地球にとって適切な行動へと調整できるようになっていってほしいものです。みなさん、これからも一緒にがんばっていきましょう!!
(なかやま よしかず)

出典:中山芳一(2018)『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』
同(2020)『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
いずれも東京書籍より刊行されています

この記事を書いた人

中山 芳一(なかやま・よしかず)

岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授 1976年1月生まれ(45歳)、岡山県岡山市在住 岡山大学教育学部を卒業後に岡山市内で学童保育指導員として9年間勤務。その後、学童保育の社会的価値と理論化の必要性を強く感じて、研究者を目指す。 大学院で教育方法学を学び、学童保育や乳幼児保育、さらには小中高から大学までの様々な現場で実践研究に従事する。現職の岡山大学では学生たちのキャリア教育を担当。 これらの経験から、あらゆる年代においてテストで点数にできない非認知能力を伸ばすことの意義と方法について執筆活動や講演活動を通じて全国各地へ発信している。 主な著書には… 『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍;2018) 『家庭、学校、職場で生かす!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍;2020) 『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP;2021) など多数

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