サステナブルな想いと情報を未来へ~ECCCAの環境ウェブマガジン~

COLUMN&INTERVIEW

ハカセと学ぶ気候変動と自分たちのつながり 第四回:私たちに何ができるのか?~その1 食について~

前回までに、気候変動の現状や将来予測についてみてきました。暮らしにくい地球にならないために、私たちに今何ができるのか?ということについて、今回は具体的なデータと共に見てゆきます。
第一回はこちら
第二回はこちら
第三回はこちら

まず、私たちの生活の中で何が最も温室効果ガスの排出に効いているのでしょうか?地球環境戦略研究機関の報告書「1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 ― 日本語要約版から作成したグラフがこちら。私たちのライフスタイルにまつわる様々なもの(住居、移動、食、レジャー・サービス・そのほかの消費財)から、どのくらいのCO2相当の温室効果ガスが排出されているかを示したものです。

多い順に、住居(31.6 %)、移動(21.1 %)、食(18.4 %)、レジャー・サービス(15.8 %)、その他の消費財(13.2 %)と続きます。排出量が多い順に、減らしようがあるともいえます。多い順に紹介してもいいのですが、この連載では、取り組みやすいところからご紹介したいと思います。

まずは食にまつわることが、1日3回チャンスがあるので最も取り組みやすく、自身の健康や生態系への影響も大きいのでまず取り上げて解説したいと思います。

食の中でも特に排出量の大きなものが、みんな大好き「お肉」です。

国連FAOの報告書によると、畜産業から排出される温室効果ガスは人間全体の 14.5 %で(計算の仕方によっては 50 % とも)大きな割合を占めます。畜産業の何がそんなに?とも思うかもしれませんが、畜産業の中でも最も大きなものはなんと牛のゲップで、39.1 % をも占めています(↓こちらのグラフ参照)。そして、合計でゲップ以上に大きいのが「育てるための諸々」。飼料の生産のためにアマゾンの熱帯雨林が焼き払われて大豆畑になっていたり、撒きすぎた肥料から亜酸化窒素という温室効果ガスを排出したり、飼料米の生産によって水田からメタンが放出されたり、、などなどです。飼料の生育には大量の水を使うので地下水の枯渇の原因になったり、肥料や糞尿、土砂の流出による河川や海洋の汚染など、温暖化意外にも様々な影響が出ていることが知られています。


(国連FAOの報告書:Tackling climate change through livestock の図を著者が日本語訳)

一方でこちら↓のグラフは、それぞれの家畜のお肉1kg を生産するのにどのくらいの温室効果ガスを排出するか、というものです。平均値でみると、数ある家畜の中でも牛がダントツに排出量が多く、豚の約6倍となっています。なので、環境のことだけを考えるのであれば牛肉より豚肉、豚肉より鶏肉、の方が環境への負荷が低い、ということになります。

 (国連FAOの報告書:Tackling climate change through livestock の図を著者が日本語訳、一部改変)

とくに海外の大型農場では、大量に化石燃料を使用し、大量に肥料を使い育てています。例えばここ。

乾燥地帯の中に大量に牛がいて、地下水を組み上げて畑に水をやって作物を育て、大量の牛を集約的に育てています。牛は体が大きく、水も飼料も大量に消費するので、特に環境負荷が高くなります。

ここまで読んでみて、みなさんどんなことを感じていらっしゃるでしょうか。そう。お肉って美味しいし、安くで買いたい。そしてそれを通じて畜産業者の方々は儲かった方がいいとみんなが思っている。だから肉食は増えてきたし、温暖化を始めとした環境負荷も増えてきた、ということなんです。だからここまで止まらずに温暖化が悪化してしまっているというわけです。

このあたり、興味のある方はアメリカの食にまつわるあれこれを記録したドキュメンタリー映画いくつかありますので、見てみるといいかもしれません。こちらには、食肉業界によって大腸菌が拡散してしまった経緯や農家の搾取、飼育されている動物たちの健康状態など、社会的負荷の部分も詳しく描かれています。

ここで注意したいのは、全ての畜産業を悪者にしたいのではない、ということです。牛にも豚にも鶏にもいろんな育て方があります。上の例とは逆に、環境負荷の低いやり方で肉を育てることも始められています。日本でも自然生態系に近い環境の中で牛を育てる森林放牧など、さまざまな方法が研究されています。今後温暖化がシビアになるにつれ、環境負荷の低いお肉の方がより高値で取引されるようになるので、畜産農家の方はそちらにシフトを始めた方がいいでしょう。

また、環境に良い育て方をしていても、それを海外から運んでくるとなるとそこでも冷凍や運搬を通じて温室効果ガスの排出に繋がります。ですので、なるべく自然状態に近い育て方のものを、なるべく近くの農家さんから買う、という方向性を考えるといいのかもしれません。

もしくは、最近は過疎化によって獣害も増えているので、なるべくジビエ肉を食べるということもあると思います。環境のことを考えてビーガンになる、という方も多いようです。そもそも既に必要以上に肉を食べることによって健康を害している人も多く、国レベルで医療費も圧迫しているので、そのために肉を減らすという選択もあるでしょう。最近は、トップアスリートでも「その方がパフォーマンスが上がるから」という理由で肉を食べない選手も増えてきています。

この連載は「温暖化」が主題ではありますが、既に書いてきたように、温暖化を改善してゆくことだけを取り出して語ることはできません。そこには、人の健康も、生態系の健康も、社会的な平等も、動物福祉も、様々なことが関連しています。世界は複雑に繋がりあっています。

温暖化というのは本当に大きな大きな現象で、自分一人ではどうしようもないと思えてしまいます。それは例えば私たちが肉を食べ続けてきたことによっても引き起こされてきました。だからこそ、逆に私たちが日常の選択を変えることで好転させることもできるはずです。

次回以降の連載でも、同じような様々な事例をご紹介したいと思います。

※メイン画像:Derek SewellによるPixabayからの画像 

この記事を書いた人

大岩根 尚(おおいわね・ひさし)

1982年宮崎市生まれ、環境活動家。株式会社 musuhi 取締役。 2010年に東京大学で環境学の博士号を取得。卒業後は国立極地研究所に就職し、53次南極観測隊として南極内陸の調査隊に参加。帰国後は研究者を辞め、鹿児島県三島村役場のジオパーク専門職員として働く。2015年に認定獲得した後、役場職員を辞めて同村の硫黄島に移住、起業。硫黄島での自然体験、研究、SDGs 関連のサポートなど幅広く活動中。特に、気候変動対策としては書籍 Drawdown や Regeneration の翻訳協力、鹿児島県大崎町のサーキュラーヴィレッジラボ所長、個人レベルのアクションを創出する講座の開催など、さまざまなレベルでの活動を展開している。

バナー:地球は今どうなっているの?