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COLUMN&INTERVIEW

ハカセと学ぶ気候変動と自分たちのつながり 第六回:スマートフォンの環境・社会的負荷

前回までの連載では、「なぜ温暖化は止まらないのか?」という問いに対して、大きな排出源とされている畜産業やアパレル業界について取り上げてきました。

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今回は、いま多くのみなさんが手にし、見つめているスマートフォン(以下スマホ)について取り上げたいと思います。

ちょっと思い出してみてください。
2006 年頃、みなさんは、知り合いとどうやって連絡をとっていましたか? Facebook や twitter、mixi などを、どうやって投稿したり読んだりしていましたか?ニュースや天気をどうやって調べていましたか?お店やホテル、出張へいく新幹線、飛行機の予約。電車の中や、待ち合わせの空き時間、どうやって過ごしていましたか?写真を撮りたいとき、音楽を聞きたいとき。ちょっと調べ物をしたい時。グループの仲間全員に連絡を送りたいとき。
どうやっていたか、覚えていますか?

これら全て、今の僕らは普通にスマホを使っている場面ですが、2006 年当時、スマホは存在しませんでした。2006 年当時、僕は大学院生で、結構最近のような感覚がありますが、写真を撮ってすぐ SNS に投稿、という今では当たり前のこともできなかったんです。ブログの全盛期で、僕もその頃にブログを始めたのを覚えています。
そんな中、初代 iPhone が発表されたのが 2007 年1月。その後 10 年で 70 億台以上が普及し、今や生産台数は世界人口を超えました。

さて、そんな僕らみんな大好き今では手放せない(手元にないと不安にすらなってしまう)スマホですが、これまでに紹介してきた「お肉」や「服」と同じく、それなりの問題があるよというのが今回の内容です。

スマホは 1000 以上の部品からなり、それぞれが地球のどこかで採掘・製造されて組み合わされてスマホとして機能しますが、特に、金属資源に関して環境や健康への被害が報告されています。

コバルトをめぐるあれこれ

スマホのバッテリーに必要なのがコバルトという鉱物で、だいたい今ではどのスマホにも使われているようなものです。そのコバルトの 65 % がコンゴ民主共和国から供給されています

画像はWashington postの記事から

そのコンゴ民主共和国は世界の最貧国の一つで、コバルトやダイヤモンドなどの鉱山資源が豊富である一方、政治的には不安定な政情が続いています。その不安定な政情の中での採掘にはさまざまな課題があります。

児童労働

コンゴには 11 万- 15 万という驚くほど多くの小規模鉱山があり、大規模な鉱山と併存しています。そこでは職人鉱夫たちが採掘を担っているわけですが、その中には 7 才くらいの児童も含まれるとのこと。彼らは鉱山で廃棄された鉱石の中から有用なものをみつけて洗い、分別して売るということをしています。

同じく画像はWashington post 記事中の動画から。子供の姿もちらほら

集め、分別し、洗い、粉砕し、運ぶという重労働で 1 日 12 時間近く働いて 1-2 ドルしか稼げない場合も多くあり、「ピンハネされているのでは」と彼らは疑っていても、殴られたりすると当然反抗もできない。両親に仕事が無いからということもあり、たったそれだけでも稼げるならと続けるしかない。

ある 14 才の少年は地下で 24 時間過ごすこともあるし、雨の日や気温の高い日でも露天掘りで働く児童もいる。学校に通っていても通学の前後で 10-12 時間働くような場合もあり、児童労働は当たり前のこととしてまかり通っている現実があります。もちろんそれは違法操業ですが、国力が弱く取締も十分にできない状態です。

健康被害

また、粉塵を肺に吸い込むリスクがあるがマスクもグローブもなく素手とノミで採掘し、簡単に風邪をひいたり身体をいためると 15 才の少年が証言しています。
さらに、コバルトによる魚や土壌の汚染があり、付近住民の尿中のコバルト濃度が 43 倍高かったり、鉱夫の子供に先天的異常リスクが高いことなどが報告されています。

ヘルメットもつけず、素手で坑道に降りてゆく(ワシントンポストより)
Washington post の記事にある動画、イメージが湧くので是非見てみてください。

汚職

このような、児童労働が行われるような鉱山運営や非公式な鉱山操業は規制されるべきですが、その立場の政府関係者や保安関係者がそういう非公式の鉱業サイトを訪れ「税金」と称して不当な支払いを受け取り、それによって児童労働を含む安全条件の不備に目をつむってきた、ということもわかっています。

武装勢力の資金源に

また、コンゴではルワンダから飛び火した紛争が泥沼化しており、武装勢力や、場合によっては国軍が鉱山を制圧し資金源にしている場合があります。武装勢力は、政情が不安定である方が警察や政府の監視が届かないため違法操業での利益をあげることが容易で、支配体制を強化することができます。そのため紛争状態を敢えて維持しようとする場合もあるとのこと。

武装勢力がおさえている鉱山では強制労働や強制移住などがまかり通っていて、反抗させないために村や集落のコミュニティを崩壊させることを目的とした暴行、殺戮など、目を疑うようなひどいことが行われています。

そうして採掘されたコバルトが、サプライチェーンを通じて僕らのスマホの中に入っている。つまり、私たちも紛争維持や児童労働のための資金を提供していることになる、ということです。

このような、紛争鉱物をめぐるコンゴの情勢については、華井和代さんの博士論文に詳しく載っています。

2010 年代半ばには様々な調査が行われるようになり、サプライチェーンの全体像やこのような人権侵害の実態が明らかにされて、このようなことが続かないよう、今ではサプライチェーンが透明化されてきました。現在ではコバルトが管理され、紛争鉱物の使用が抑えられるようになっていますが、iPhoneの発売当初の自分もこれに加担していたのかと思うと、なかなかしんどい思いをしてしまいます。

Apple や samsung に供給されるコバルトのサプライチェーン(ワシントンポスト)

電子機器をめぐる環境問題・健康被害はスマホ以前から

こういう話はスマホに限ったことではなく、以前から起きてきているようです。電子機器の製品に必要なイットリウムという元素を含む鉱石の採掘・化学処理の過程で、放射性廃棄物が発生します。それを、精製工場横の池や空き地、道路わきなどに捨て置くことによって環境を汚染し、それが原因となって白血病や小児がんなど通常の50倍以上の発生率での健康被害を出した事例が知られています(マレーシアのエイシアン・レアアース)。

他にも、サムスンで起きた白血病などが多発したハイテク労災や、鴻海の中国工場で起きた労働者の搾取、化学物質汚染と白血病の多発、IBM誕生の地でのトリクロロエチレンによる土壌・地下水汚染など、スマホや電子機器の生産現場でさまざまな環境・社会的問題が起きてきたことが報告されています。

自分たちが便利になる一方で世界の裏側でこのようなことが起こってきていた。知らない方が楽しく過ごせたかもしれませんが、いよいよそのツケが、気候変動や環境汚染という形で私たちにも迫ってきた、ということです。これまで見過ごしてきたことは大いに反省すべきですが、もう見過ごしたくない。

問題は廃棄の現場でも

ここまでは、主にスマホの生産に関する現場でのことを取り上げてきましたが、当然ながら環境・社会問題は廃棄の現場でも起きています。

みなさんが今手にしている携帯は、初めて買った20年ほど前から何台目か、覚えていますか?電話とショートメールしかできなかった白黒画面の小さなスティックタイプから、二つ折りケータイが発売され、モバイル通信ができるようになり、、という過程を覚えている方も多いのではと思います。

今まで何台の携帯を捨ててきたでしょうか。また、スマホを買って何台目でしょうか。僕は自分で思い出す限り、10台くらいでしょうか。驚くほど、昔の携帯の形を覚えていません。。

奇跡的に持っていた!懐かしい初代 iPhone と iPhone SE 第二世代

スマホの一般的な廃棄のサイクルは 1-3年。僕はよく落としてしまうのでどんどん液晶がバキバキになって見えなくなってしまいますが、限界がくる2-3年くらいで買い替えてきました。

電子機器廃棄物は e-waste とも呼ばれるらしいですが、先進国でリサイクル目的で集められたものは最終的には中国、インド、パキスタン、ベトナム、フィリピン、バングラデシュ、西アフリカなどに集積され、処理されているとのこと。

中国でも、電子機器に含まれる金銀銅など貴金属回収が行われてきましたが、それを出稼ぎの農民が手で分解・解体を行います。実はスマホは、ディスプレイや基盤などに有害金属であるインジウムやガリウム、亜鉛、ヒ素を含むものもあり、適正な処理が必要です。しかし、適正処理はもちろんされていません。

世界で最もダイオキシン類に汚染されていると見られる地域に、中国沿岸部広東省のグイユウや、浙江省台衆周辺のリサイクル施設集積地があります。ここでは、ケーブルを野焼きして中から金属をとりだしたり、強酸をつかって金属を回収することを行っていて、大規模に大気汚染、土壌汚染、地下水汚染が広がっていて、深刻な環境汚染と健康被害が報告されています。

本来は無害化処理のために費用がかかりますが、処理をまともにしなかったり人件費を安くすることで金属販売による利益が上回り、ビジネスとして成り立ってしまうようです。

このような現状は良くないということで、スマホの回収・リサイクルが始まっています。例えば Apple はiPhone 分解マシーンを作って、ガンガン分解しているようですが、、回収率はどのくらいなのでしょうか。調べきれなかったのでどなたか教えてくださーい。

世界の対応

このような現状に対し、拡大生産者責任(EPR)という考え方があります。企業は作って売って終わりではなく、使用以後の段階(つまり廃棄やリサイクル)まで含めて売値に上乗せしたり、リサイクルしやすいように作りましょう、という考え方です。

逆にいうと、今はそれが上乗せされていないために今の価格で済んでいる一方、環境や社会への負荷が大きくなっている、ということでもあります。

しかしどんどんリサイクルできるようになったからどんどん使っていい、ということではありません。再利用はいいことですが、例えばメルカリで売れるからどんどん買ってどんどん売る、となると全体の消費量が増えてしまいますし、リサイクルにもエネルギーは必要です。

そもそもなるべく買わない。本当に必要なものかどうかを考えて買う。買うのであれば、生産から消費までの全体でみて、本当にいいものを買う、修理する、という選択肢もぜひ考える必要があると思います。

このあたりは、循環経済(サーキュラーエコノミー)やライフサイクルアセスメント(LCA)という考え方があるので、そのあたりも次回以降、書いていきたいと思います。

【参考文献等】
The Washington post
東大の華井和代さんの博士論文講演動画
スマートフォンの環境経済学

※メイン画像:ワシントンポストより

この記事を書いた人

大岩根 尚(おおいわね・ひさし)

1982年宮崎市生まれ、環境活動家。株式会社 musuhi 取締役。 2010年に東京大学で環境学の博士号を取得。卒業後は国立極地研究所に就職し、53次南極観測隊として南極内陸の調査隊に参加。帰国後は研究者を辞め、鹿児島県三島村役場のジオパーク専門職員として働く。2015年に認定獲得した後、役場職員を辞めて同村の硫黄島に移住、起業。硫黄島での自然体験、研究、SDGs 関連のサポートなど幅広く活動中。特に、気候変動対策としては書籍 Drawdown や Regeneration の翻訳協力、鹿児島県大崎町のサーキュラーヴィレッジラボ所長、個人レベルのアクションを創出する講座の開催など、さまざまなレベルでの活動を展開している。

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